「また人の饅頭勝手に食いやがってェェ!」
辰馬の淹れてくれたお茶は格別だね、煽てをひとつ。その言葉にまんまと顔を綻ばせていた辰馬の後ろで、襖が見事左右に割れ平和な茶の間に鬼が飛び込んできた
「おぉ銀時じゃなかか、襖ば破ったらまたヅラに怒鳴られるろ〜」
「やかましいんだよ、すっこんでろ毛玉」
突如として乱入してきた坂田に凄まじい形相で噛みつかれても、そういうおんしも毛玉じゃなかかとケタケタ笑ってすかさずイタいとこを突く辰馬は流石だ。こんな渋い茶を淹れられる男だから、ただ者じゃあないとは思っていたけれど。因みにそのふざけた渋みが、クセになる
「オイ。呑気に茶ァ啜ってんじゃねえぞ、クソアマ」
「なんだ私に用事なの」
「ったりめーだ、俺の饅頭返しやがれ」
「饅頭?知らないな」
どうやら矛先がかわったらしい、こわい鬼は此方を見下ろしている。ああ。食べ物の怨みは恐いというけれど、人一人を鬼に仕立て上げてしまう程うまい饅頭とあらば一度は食してみたいものだ。しかしながら、ここ最近でそんなたいそうな饅頭を食ろうた覚えはない。誠に残念。
「すっとぼけんな、裏ァ取れてんだよ」
「そんなもん取るなよ。同心気取りか、その天パで」
「んだと、てめっ!天パはなあ、なんか、あの、すごいんだぞ。重力にだって逆らえます、的な」
「そうじゃ〜、その天パばバカにされては困るぜよ」
「あーはいはいわかったわかった、悪かったよ天パーズ」
身に覚えもない事で黙ってガミガミ言われてやる程暇じゃない。折角の茶が冷めてしまうからさっさと出ていけよ、と細めた目で訴えてはみるもあえなく失敗。気づけば敵は二人に増え、「いいか天然パーマメントはだな」から始まりあーだこーだと語り始める始末。おいこら饅頭はどうした。
うんざりした視線はなんとなく開け放たれたままの襖へ移る。左の襖の陰。そこにはこの厄介事の元凶であろう饅頭を美味そうに頬張りながら高みの見物を決め込む、ヅラと高杉のニヤニヤ顔
斬り捨て御免080817 攘夷/たかい