「銀ちゃーん、銀ちゃーん」
家中を一通り探してみたけれど探し人の姿は見つからず、一体どこに姿を眩ませたのか。早くしないとせっかくヅラと作った氷水が、すっかり溶け出してしまう。時折見える空はすっかり夏色で、外では蝉がそれを煽るように鳴いている。おかげで勢いを増した暑さが、じんわりと額に汗を誘った
「やっぱり、あそこかな」
まさかとは思えど、兎にも角にも見つけ出すことが先行。急いで勝手口に向かい、備え付けの草履へ足先を乱暴に突っ込んだ。途中で廊下を走るんじゃあないと居間に居るヅラの注意が追いかけてきたが、とりあえず生返事だけを返しておいた。後でちゃんと謝らないといけない、長い説教は御免だもの。
そうこう考えながら家の裏にある屋根へと続く梯子、強い日差しに目をしぱしぱさせながら仰ぎ見る
「銀ちゃーん、そこに居るー?」
「おー、居るぜー」
案の定間延びした声が降ってきて、ひょっこり覗いた大好きな銀髪。ようやくみつけたその姿に、ほっと胸を撫で下ろした
「何、どうした?」
「ヅラがねー、氷水食べなさいって」
一方で。身軽に梯子を降りてきた銀ちゃんの着物が朝みたより幾分着崩れしている事から、おそらく昼寝でもしていたんだろうと推測。この炎天下、よくあんな場所で眠れるものだと感心するやら呆れるやら
「氷小豆?」
「残念、いちごでしたー」
「残念、銀さんはいちごも大好きでしたー」
「ちっ」
「え、今この子舌打ちしたんですけど」
「銀ちゃんの氷水だけ匙でさくさくしておいたから、多分もうただの水っぽいいちご糖蜜になった頃だよ」
「なにその陰湿な嫌がらせ。ヅラに言いつけんぞてめえ」
そう言って、小言をいいながら隣を歩きはじめた銀ちゃんにはヅラも共犯であることはもう暫く黙っていよう。そんな事はさて置き。円卓にある自分の氷水がちゃんと氷水を保たままの姿でありますようにと願いつつ、此処よりは数段涼しいだろう我が家へ向かう足取りは軽い
つかの間の涼味080809 坂田
◎氷水(こおりすい)はかき氷の意、らしい