「わあ、猫だ」
近頃自分のおかずを懐に忍ばせてはこそこそとどこかへ行ってしまう晋助を不審がり、こっそり後をつけてみたところ。裏庭で焼き魚を頬張る黒毛の子猫とそれをしゃがんで見守る背中に出くわした。成る程こういう事かとつぶやけば、振り返った晋助が此方の顔を見るなり舌を打つ
「拾ったの?」
「…ついてきた」
「晋助猫すきだもんね」
「だから、拾ってねェ」
隣にみえるダンボールの中にはたっぷり布やら何やらが敷き詰められていた、おそらく晋助お手製の寝床だろう。皆に内緒で一人甲斐甲斐しく世話をしていたのかと思うと、なかなかいいところもあるじゃあないかと可笑しいやらいじらしいやら
「そのこの名前は?」
「必要あるめェ、面倒くせえ情がうつるだけだ」
「そう、じゃあしんすけにしよう」
「てめェの耳はなんの為についてやがる」
人の名前を勝手にくれてやるな、再び機嫌を損ねたらしい晋助は立ち上がり様に子猫の頭をくしゃりと撫ぜた。小気味よい音を立て魚の骨を噛み砕いていた子猫は、途端小さく鳴いて嬉しそうに耳を垂らしている。どうやら、とても懐いているらしい
「いいなあ、私も触っていい?」
「構わねーがそいつはとんだ気まぐれだ、気にいらなけりゃ手当たり次第引っ掻くぜ」
「ふうん、毛だけじゃなくて性格まで晋助に似てるのねお前」
「はっ。それなら尚更、てめえにだけは懐かねーだろうよ」
ニヤリと笑った晋助は、煙管を取り出し踵を返す。歩き去っていく主人を寂しそうに見送る子猫は、撫でてやろうとそっと伸ばした私の手にさっそくガブリと噛みついた。
090531 高杉