「つ、つ、付き合ってくださいっ!!」
「え、えと……オラと?」
「そ、そうです!あ、あ、あたし、錫高野くんの事が好きで……」
困惑した顔。それも当然かもしれない。
あたしは今日はじめて錫高野くんに会ったんだから。
顔も知らない人に恋をした。
自分でもちょっと変だと思う。
きっかけはフンドシ。
後から知った事だけど、錫高野くんは用事で忍術学園に泊まっていたんだ。
その時たまたま洗濯をしたのがあたし。
抱えた洗濯カゴからドキドキする匂いがして、そのまま動けなかった。
気がついたらそのフンドシだけ部屋に持ち帰っちゃってて……自分でもびっくりだけど。
使い込まれてクタクタの、土の匂いがまじったそのフンドシには『錫高野与四郎』と記名されていた。
男の人の匂い。だけど他の人とは違う、ドキドキしてソワソワする匂い。
匂いフェチなんて自覚はなかったけれど、多分きっとそうなんだ。
「あの、ダメですか……?」
ダメで元々だ。だけど錫高野くんと会えるチャンスはそうそうない。こうやって、山野先生の付き添いで忍術学園に来ない限り会えない人だから……
勇気を出すしかなかったんだ。
想像していたよりずっと綺麗な顔立ちをしてる。目の前で、言葉を詰まらせている姿は田舎の男の子って感じがして、ちょっと安心する。
「名前、なんて言うんだ?」
「清香っていいます……」
「清香……清香か」
あたしの名前を何度も確認するみたいに呟いた。まるで味を確かめるみたいに、あたしの名前を繰り返した。
錫高野くんの唇があたしの名前の形に動く。それだけであたしはとっても嬉しかった。
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