職員室で資料を整理していたら困ったような久瀬先生の声がした。

受話器に向かって何やら話しているが少し揉めているようにも見える。
電話を置いた後、溜め息をついて顔に落ちてきた髪を掻き上げた。

その仕草と悩んでいるような横顔に見惚れていたら、視線がぶつかって声をかけた。


「どうかしたんですか?」

「ちょっと困った事になりまして」


美術の教師である久瀬先生は美術部の顧問もしている。
芸術面でも優秀らしく、校内には全国の美術展で優秀賞を取った作品がいくつも飾られていた。

それを初めて見た時、ここの子ども達って本当に何でもできるんだなと頭の下がる思いがしたっけ。
そう言えば校内放送もアナウンサー並に質の高い技術を持ち合わせている。

事あるごとに私の居場所じゃない気がして、劣等感を覚えた。


「モデルが急に来れなくなってしまって……今日はOBの子達も呼んでいるのに。参りました」

「モデルってスケッチか何かの?」

「そうです。クロッキーって高校のときやりませんでしたか?」

「あ、しました!短い時間で全体を描くのが難しくって……いっつもバランスが悪いって先生に呆れられてました」

「あはは。あれは慣れですよ」


高校の美術の時間、グループごとに円になって交代でモデルをしたっけ。
10分、ただ座っているだけでもじっとしているというのは結構キツかったのを覚えている。

わざわざプロのモデルさんを依頼するなんて、やっぱり本格的なんだなぁ。


「私じゃ代わりになりませんか?」


もちろんプロみたいに上手にはできないだろうけど、がんばればしばらく動かないでいる事はできると思う。
他にいないならやってもいいなと思った。






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