『秘密のオシゴト』全9ページ
「歓迎会は葵チャンが帰ってきてからな」
恭介先生がそう言ったから、この金曜日にと決まった。
ホテルのスウィートルームを貸し切ってルームサービスという形で行われ、至って上品に……のはずだったのだが。
みんな飲むわ騒ぐわ寝るわ吐くわ……
「ホテルじゃなきゃダメなのがわかった気がする」
「だろ?こんなみっともない姿、PTAにでも見られたら何て言われるか」
「珍しく真面目な発言ですね」
「違う。苦情ってメンドクサイだろ?」
恭介先生が怪訝な顔で見ているが彼もまた上半身は裸になってしまっている。人の事を言えた姿じゃない。
「杏珠先生はここに泊まっていかれますか?」
宴もたけなわ、聞いてくれたのは久瀬先生だ。この人が恭介先生の言っていた葵チャン。
一目見てなるほど、と思ってしまった。
肩に付きそうなくらい伸ばした髪が優しい顔立ちを縁取って、柔らかい印象を与えている。180は越えているであろう長身にも関わらず、威圧感を感じさせない穏やかなベルベットボイス。
頼めばその声で「いいですよ」と何でも引き受けてくれそうだ。
今まで出会った男の人の中で限りなく王子様に近いと思った。
ものすごくモテそう……
「私は帰ります。シャワー浴びてからじゃないとベッドに入りづらくて」
「ここで風呂入れば?でっかいジャグジーあるぜ?」
と恭介先生がドアの向こうを指した。
「覗いてきそうな人がいるからイヤです」
キッと恭介先生を睨むと横で久瀬先生が軽く笑う。というか笑われてしまった。
「な、こいつ俺にこんな顔すんの」
「珍しいですね」
「だろ?生意気すぎ」
「そうじゃなくて、恭介がそうやって楽しそうにしてるのが珍しいって言ったんです。いつも面倒くさい面倒くさいって文句ばっかりのくせに」
ここでお説教が始まると察したのか恭介先生はそそくさとベッドルームへ逃げていってしまった。なんだか二人の仲のよさにクスリとする。まったく正反対に見える二人なのにな。
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