「お帰りなさい」
鍵を開けて帰宅した彼に向かって、一言。
声なく驚く彼は、やはり想定外だった様。あたしが眠らずに帰りを待っていたことに。
恋人達もとっくに眠りについてしまっただろう時間。音量に気を付けてお気に入りの曲を流しながら、アロマキャンドルの火を眺めながら、いつもより甘めの紅茶を飲みながら。
待っていたの。
待っていたの、あなたの帰りを。
携帯に手が伸びそうになるのを我慢して。一秒でも早く声を聞きたいのは事実だけど、受話器越しじゃない声が聞きたかった。
「まどか…」
「お帰りなさい。照星さん」
「あぁ。ただいま」
おでこに軽いキス。少し苦い、照星さんの匂いが好き。煙草の匂いなんだろうけど、ちょっぴり香水のような印象も受ける。香りって、人を表す。苦くて甘い大人の香り。妖艶さも与えるこの香りが他人からしても、あたしは照星さんを思い浮かべるだろう。
「起きていたのか。まどか」
「えぇ」
紅茶を飲みながらの会話。顔を合わせて話すのは二週間ぶりだ。日付変更線を跨いで帰ってきた照星さんは、心なし疲れて見える。
「見た様子だと、『眠れなくて起きていた』訳ではなさそうだな」
「仰る通りで」
「遅くなると、分かっていたのにか?」
「もちろん。待ちたかったのよ。あなたが帰ってくるのを」
……………。
平静に見えるけれど、ほんの僅か瞳が揺れたのを見逃さなかった。
「…何故?」
そんなの、理由は一つしかいわ。
「起きていたら、『お休み』も『おはよう』も言えるでしょ」
「……」
それが言いたかったの。
多忙だからこそ、言葉を沢山交わしたい。会えない時間が長い分、話す言葉を増やしたい。
そんなあたしの思いはきちんと伝わったようで、無言のハグ、と…。
─ありがとう
予期しなかった嬉しい言葉が返ってきた。
-fin-
かぷりちょーその朱李ちゃんが送ってくれました!なので名前はまどかで固定です。うふふー
照星さんかっこいいですねv照星さんの疲れた顔って絶対セクシーなんだろなと思わせてくれますっ
ウチの「その声」シリーズとfinで揃えてくれている所が、もう、嬉しいじゃないですかっ!朱李ちゃん本当にありがとー!!
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