「蓮華を摘みにいかないか」
照星さんが誘ってくれて、デートに来たのはいつか雑渡さんと何度も来ていたれんげ畑。雑渡さんは上手に花の輪を作ってくれて、いつもあたしにたくさんの首飾りとかんむりをかけてくれた。
たんぽぽの指輪、はっぱのお面、どんぐりのコマ……どれも上手だった。ここには雑渡さんとの思い出がたくさんある。
「あーいい気持ち!」
そんな元カレとのデートの記憶を振り払うようにれんげ畑に寝転がった。
青い空にふわふわの白い雲。高い高い空でひばりの鳴く声。
寝ころんだまま照星さんを見てみると、あぐらをかいてれんげの花をせっせと摘んでいる。
雑渡さんは……女の人みたいに脚を揃えて横座りしてたっけ。なんてまた思い出しちゃったりして。
照星さんがお花摘みだなんてなんだか似合わないけど、顔は一生懸命だ。
「ふふっ、照星さんってお花が好きだったの?」
「いや、そうでもないけど。ね、これどうやって首飾りにするか知ってる?」
「うん。教えてあげる」
こうしてね、ずらして束にして、茎を巻き付けていくのよ、なんてお手本を見せた。
照星さんにあたしが何かを教えるなんて初めての事かもしれない。
ちょっと嬉しいな。
真剣にあたしの手元を見て、自分もれんげを編んでいく。
四苦八苦しながらできたのはいびつな花かんむり。
「なんか……イマイチだな」
「初めてにしては上出来です。もらっていい?」
「待って、次はうまく作るから」
シュッとまるで手裏剣でも飛ばすみたいにせっかくの花輪を投げてしまった。
きれいに遠くまで飛んじゃって。あれが欲しかったのにな。
ちょっと探しに行ってみよう。照星さんは夢中で、というか必死にまた花を編んでるし。
飛んで行った方向に行ってみるけれど、どこもれんげばかりでなかなか花輪は見つからない。下を向いて歩いていると上から声がした。
「よう、久しぶり」
「雑渡さん!」
「何してるの?こんな所で」
「えと……彼氏とデート……」
「ふぅん。小夜の彼氏って照星だっけ?」
「うん……知ってたんだ」
まぁね、とあたしの隣へ来て一緒に下を見る。ちらりと照星さんの方を見たけれど、離れてるし、れんげと悪戦苦闘してるようで雑渡さんには気づいてなかった。
「探してるの、これかい?」
いびつな花かんむりを戦輪のようにくるくる回す雑渡さん。
「それです。ありがとう」
「これ、あいつが作ったの?」
「ええ、まぁ……」
「へたくそ」と嘲笑するみたいにニヤニヤ笑って品定めのごとくまじまじと見てる。やなかんじ……
「いいんです!返して!初めて作ってくれたんだから!」
花輪に手を伸ばすと雑渡さんもひょいと手を上げる。意地悪く笑って返してくれない。
「もう!いじわる!」
「ちゅーしてくれたら返すけど」
「そんな事できるわけないでしょ!」
必死で手を伸ばすあたし。飛び上がってもまったく届かない。
そんな風にしていたら、つまづいて転びそうになった。
「きゃ……!」
「おっと」
腰を支えてくれて、そのままちゅっとキスされてしまった。
「な……っ!ば、ばかっ!」
「小夜が好きだよ」
「何言ってるんですか!からかわないで!」
「ふふふ……真っ赤になっちゃって、かわいいかわいい」
じゃあね、とあたしの頭に花かんむりを乗せて帰っていってしまった。
あの人、こんな所で何してたんだろう……
それに、あたしをふったのは雑渡さんの方なのに。
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