合戦場、急に激しい雨が降ってきた。まるで地面に恨みでもあるみたいに叩きつけて。
あっという間に泥になり、それが跳ねるのを見て眉間にシワを寄せた。
雨はいいけど泥まみれは嫌だ。
近くにお堂があったなと思い立って、得意の火縄も役に立ちそうはないしと雨宿りをすることにした。
銃を担いだ右側の足がやたらとぬかるみに沈むのを不快に思いながら森へ入る。
雨は合戦の火を消して、争いの喧騒も拭い去ったようだった。
うるさいくらいの雨音なのに静かだと感じるのはどうしてだろう。
あと少しという所で、敵の忍び装束が見えた。
あぁ、面倒だな、せっかく一休みしようと思ったのに。
こちらから仕掛けるつもりはないが、攻撃されれば言わずもがな。
「何をしている」
「あ……」
「なんだ、女か」
「どういう意味?これでもちょっとは腕の立つ忍びなんだから」
俯いて座っていた顔を上げ、キッと私を見据えて立ち上がった。
「で、そのエリート九の一さんがこんな所で何を」
「どうだっていいでしょ、何なのアンタ」
「私の名は照星。豪雨のため一時休戦だ。この脇道を行けば粗末だがお堂がある」
「だから……?」
「雨宿りをしよう。エリート九の一のお嬢ちゃん」
「お嬢ちゃんじゃない。小夜。あたしの事バカにしないで」
差し出した私の手を払い除けて、足早に脇道を行く。
大股で、怒ったような雑な歩き方のくせに、よく見ると少しも泥は跳ねていない。忍者が普段から忍者らしい歩き方じゃ駄目だろうに。
もしかしたら彼女も泥が嫌いなのかも知れないな。
戸を開けて、その床に銃を置く。
上衣を脱いで絞るとざぁざぁと音を立てるくらい雨水を含んでいた。
「小夜ちゃんも脱いだ方がいい。体温を奪われるぞ」
「ちゃ、ちゃんって……それに、それくらいわかってる!子供扱いしないで!」
「子ども扱いじゃない。女の子として扱ってるつもりだ」
「バッカみたい。あたしはあなた達の敵なのよ?雨が上がって戦が始まったら殺し合う相手なんだから……」
「だから?」
「優しくしないで……どんな顔すればいいかわからない」
びしょ濡れで俯く彼女の不機嫌そうな横顔がなんだか印象的だった。
頬にはりついた一筋の髪も、雫の滴る黒い睫毛も、綺麗だと思った。
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