始まるまで何か話さなきゃと話題を探すけど、ぐるぐる回るだけで気の利いたものが思い浮かばない。
気まずい沈黙を破ってくれたのは照星さんの方だった。
「好きなんだ、この映画。エンドロールがとても綺麗でね」
「そうなんですか。あたしは初めてです。ポスターが素敵だったから……」
照星さんは柔らかく笑ってまたオレンジジュースを一口飲んだ。
「よかった。普通に話してくれて。避けられてるからもう口も利いてくれないかと思ってた」
「ちが……」
それは誤解だと言おうとして、あたしの唇は照星さんの人差し指で遮られてしまった。彼の視線はスクリーンへ。モノクロームの映像が映し出されて映画が始まったのだった。
照星さんはネクタイを解いてポケットに仕舞うと、そのジャケットをあたしの膝へとかけてくれた。
「すみません……」
「その脚がチラチラしてたら映画に集中できそうにないからね」
言いながらシャツのボタンを二つ外してシートに深く座る。
は、恥ずかしい……スカート、短かったかな。
膝が出るくらいのタイトスカートは座ると太ももが半分以上露出してしまう。下品だったかも……
あたしは照星さんの好みを知らない。はぁ……と心の中で溜め息を吐いた。
内容はパートナーを亡くした者同士が偶然知り合って恋に落ちる恋愛物だった。
大人の2人がまるで初恋のようにまっすぐ恋をする物語。
あんまり美しくて、幸せそうで、素敵なふたり。きっと自分の恋愛がうまくいっていれば心から楽しめただろう。今はただ、嫉妬してしまう。
あたしには映画みたいな素敵な恋愛はできない。
それがとても情けなくて、みじめな気持ちになった。
涙で視界が歪んで字幕なんて読めない。フランス語のボソボソ言ってるのが訳わかんなくて、つい照星さんの指ばかりに目がいってしまう。
この手で触れてもらったのは確かなのに今はこんなにも遠い。
照星さん……好き。
きっと誤解してるんだろう。嫌いで避けていたんじゃないのにな……
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