何か使えそうな物はないかと部屋の隅をあさる。
「ありがたい事に陣羽織があった。どこかの武将のはからいかな」
「本当。これ、綿かしら?高級品ね」
「君が包まるのにちょうどいいだろう」
それを渡して後ろを向いた。背中で着替える音がして、しばらくすると「もういいわ」と小さな声。
壁にもたれて膝を抱えるように座っていた。コタツにでも入るように陣羽織を前からかけて。
私も全て脱いでしまいたかったが、女の子の前で下半身を出す訳にもいかず、褌と袴を着けたまま横に腰を下ろした。
「脱いじゃっていいのに。平気だから」
「こっちが平気じゃない」
「でも風邪ひくよ?」
「風邪くらいなんて事ない」
小夜はむすっとして下を向いた。自分の三角に座ったつま先あたりを睨んでいる。それから独り言みたいに言葉をこぼした。
「ずるい……」
「ん?何が」
「あなただけあたしに情けをかけて、あたしの厚意は無下にするなんて」
「気に障ったか。それは失礼」
「ちゃんと対等でいて。守られたりあたしだけ優しくされるのは嫌いだしそんな筋合いもないから」
「わかった、わかったから泣くな」
泣いてない!と今度はこちらを睨みつけてくる。ムキになる所がかわいいじゃないか。
仕方なくずぶ濡れの袴を脱いで、彼女が手招きする隣へと座った。
「一緒に」
小夜はそう言って陣羽織を私の膝にも掛けた。腕と腕が触れ合うくらいの距離で敵と並ぶ。何とも奇妙な図でありながら、不思議と違和感は感じない。
「冷たいな。あんな所に座ってるからだ」
「あたし、あなたのこと知ってる」
人の話も聞かずに、独り言のように言う。何か、遠くを見ているような目で私を見た。
「どこかで会った?」
「ううん。話に聞いただけ。不気味な顔だけど腕は一流だって。あいつの火縄銃には気をつけろって」
「不気味は余計だ」
「もっと、冷酷な人かと思ってた」
「冷酷だよ。戦場(いくさば)では君にだって銃を向ける」
雨が永遠に止まなければいいのにと思った。
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