かゆいかゆい! | ナノ
#かゆいかゆい!
駅の改札口を抜けて表に出る。
空を制する建物があまり無いからだろう。
ビルが立ち並んでいる東京に比べて空が広く青い。
気温は北国だけあって、東京よりはましな暑さだと思う。
『俺、暑いの苦手なんだよ…。東京は暑すぎるぜ…。』
九月始めに転校してきた親友が、気だるげにそう話していたのをふと思い出した。
普段からこの程度の暑さにしか慣れていないのなら、東京の暑さにねをあげるのも仕方がないかもしれない。
「お〜い!こ〜ちゃん、やっちー、七瀬さ〜ん!こっちだ、こっちッ!!」
軽のワンボックスカーの横でブンブンと手を振っている見知った顔。
「あッ、蒼太クンだ!」
俺と八千穂と七瀬の三人は、そーちゃんの元へ向かった。
「よぉ、そーちゃん。」
「お久しぶりです、蒼太君。お招きありがとうございます。」
「ようこそ!我が故郷青森へ!!…みんな、かわりなく元気そうだね。」
そう…俺たちは今、そーちゃんの故郷青森にやって来ている。
『長期休暇をとったから、たまには都会の喧騒を抜け出して、田舎に遊びにこいよ!案内するから。』
…と、そーちゃんに誘われたのだが、
『いいなぁ〜!あたしも行ってみたい!!月魅も誘ってみよ〜っと♪』
…いつの間にか八千穂や七瀬も同伴することになってしまった。
「あァ、そーちゃんも相変わらず元気そうだな。」
「当然!元気でタフなのが俺だからな。さ、荷物は後ろに積んで、車に乗った乗った!」
そーちゃんに促されて、俺たちは荷物を積み、車に乗り込んだ。
そーちゃんは俺が助手席に乗り、八千穂と七瀬が後ろの座席に乗り込んだのを確認すると、車を走らせた。
「なぁ、これはそーちゃんの車なのか?」
俺の質問にそーちゃんは首を横に振った。
「いや、叔父さんの借りてきたんだ。」
「蒼太クン、運転できるんだね〜!」
八千穂が感嘆の声をあげた。
「協会で取得させられたから、バスとか大型、特殊なやつも運転できるよ。まぁ、そんなの使う機会はなかなかないけどさ。自転車の方が好きだし。…さて、青森の観光地、どこに行きたい?本州最北の大間岬、恐山、寒立馬がいる尻屋崎。脇野沢にはニホンザルがいるし、乙女の像が有名な十和田湖、奥入瀬渓流、世界遺産の白神山地。桜の名所弘前城、太宰の生家斜陽館、人工ピラミッドのモヤ山、義経伝説がある三厩村、キリストの墓だってあるし、遺跡だったら三内丸山、小牧野、是川、亀ヶ岡…。」
「どれも大変興味深いですね…。」
青森の観光ガイドブックを手にしながら、七瀬はうっとりしている。
七瀬のことだから、恐山とか絶対に行きたがりそうだよな…。
そんなことを思っていると、隣の運転席から、大きな腹の音が聞こえてきた。
ぐうぅ〜〜ッ
「ははっ、腹へったから、とりあえず飯食いながら行き先考えるか!」
「そうだな。」
「前もって言っておくが、カレー好きのこ〜ちゃんには、カレーラーメンくらいしかお勧めできるもんはないぞ?」
「ッ!…ラーメンかよ…。」
「あと、おでんカレーならある。さすがに食ったことないけど…。」
…おでんカレー…。古来より陸奥(みちのく)は未知の国といわれるだけあって、未知なる食べ物しかないのか!?
「…何だよそれ。何でも混ぜりゃあいいってもんじゃないだろ。カレーを侮辱しているのか?」
「まァまァ、落ち着いて、皆守クン。」
「青森ですから、私は新鮮な魚介類が食べたいですね。」
「魚介類か…了解したッ!」
そーちゃんはアクセルを踏み込むと、飯屋を目指して走り出した。
***
青森に来たばかりいうこともあり、あまり遠出をするのも疲れるだろうと言うことで、今日は三内丸山遺跡、ねぶた小屋など、近場をぐるりと回ってあるいた。
青森に滞在中は、そーちゃんの叔父さんの家にお世話になっている。
そーちゃんの叔父さんと叔母さんは素朴であったかい人柄で、何故か懐かしい気持ちになる。
そーちゃんの従姉妹の双子は香澄と真澄と言うらしい。
人懐っこくて、かしましいというか…元気で、八千穂や七瀬と仲良く遊んでいる。
***
夜になると、東京よりもずっと明るく星が見える。
日中の暑さは何処へ行ったのか、秋に吹くような涼しい夜風にあたりながら、窓辺で風鈴の音色を聞き入っている俺の横で、そーちゃんは何やら物騒なものをゴロゴロ床に並べ始めた。
「…そーちゃん…何で爆弾やら銃やら並べてんだよ…。」
「そりゃあ…今から蚊を殲滅させるからだッ!」
「…はァ!?」
何を言っているんだこいつはと、俺は呆気にとられていると、親友は慣れた手つきで銃に弾丸を詰め込んで暗視ゴーグルを装着した。
「俺、虫に刺されるとひどく腫れるんだ。…ほら。」
そーちゃんは、熱を帯びて真っ赤に腫れ上がった左腕を見せた。
「かゆくてかゆくてたまんねーッ!!調合した特殊弾薬をお見舞いして、蚊のヤローを倒すッ!!!」
「…倒すのもいいが、蚊の動きを見切ればいいだろ。そうすれば刺されない。」
「蚊の動きを見切るだなんて、そんな器用なこと、こ〜ちゃんくらいしかできねーだろ!?」
「つーか、わざわざ拳銃で蚊を倒す方が器用じゃないか…?」
「二人とも、変なこと言ってないで、蚊取り線香つければいいでしょ?そんなの危ないから片付けてよ。」
いつからいたのか、八千穂の奴が口を挟んだ。
「変なことってやっちー、これは重要な…あれ?浴衣だ。」
「うん、香澄ちゃんと真澄ちゃんが庭で花火やるからって…。エヘヘ、やっぱり花火とくれば浴衣でしょ?」
「そうだな、風流だなぁ。なっ、こ〜ちゃん!」
「あ、あァ…。」
「ともかく、これから花火やるんなら、蚊殲滅戦は後回しだな…。」
そーちゃんは、ガチャガチャと床に並べた爆弾などを両手に抱え片付け始めた。
「あの…蒼太君、なにか火をつけるもの持っていませんか?」
七瀬がひょっこり顔を出した。
「あぁ、火なら…―ッ!!!」
浴衣姿の七瀬を一目見るや、そーちゃんの顔はみるみる赤く染まっていって、耳まで真っ赤になった。
手に持っていた爆弾類をバラバラと自分の足の上に落とした。
…何とも…非常にわかりやすい男だ。
「―ッてぇ!!」
「大丈夫ですか?!」
「だッ、大丈夫!大丈夫ッ!!」
「顔も赤いようですけど、本当に大丈夫ですか…?熱が…」
七瀬に心配されて、ますます顔を赤らめたそーちゃんは、自分の頬をバシッと叩いて、手のひらを見た。
「…蚊のヤツに刺されたみたいだ。俺、虫に刺されると腫れるからさ…。えーっと、火は取ってくるから、七瀬さんは庭に行っててくれ!こ〜ちゃん、やっちー、悪いけどこれらの片付け頼むッ!!そこの段ボールに突っ込んでおいてくれ。」
それだけ言うと、そーちゃんは大急ぎで部屋を出て、バタバタと階段を駆け上がっていった。
「それじゃあ、私は庭で花火の準備手伝っていますね。片付けが終わったら二人とも来てくださいね。」
「あァ。」
「うん、わかったよ。」
七瀬が部屋から出ていくと、俺達はそーちゃんが床に散らかした爆弾類を段ボールに突っ込んで片付け始めた。
よくまぁ…こんなにいろんな爆弾があるもんだ。
大半は多分そーちゃんが自分で調合して作ったオリジナルだろう。
最後の一つを拾って、段ボールに突っ込んだ。
「…これで終わりだな。さて、庭に行くか…。」
「うん…」
俺は部屋を出ようとしたが、八千穂の奴にシャツの後ろの裾をクイッと引っ張られた。
「?…どうした、八千穂。花火…行かないのか…?」
振り返ると、頬をほんのり赤く染めた八千穂は、俺の目をまっすぐに見つめたあと、恥ずかしそうに目を伏せて聞いた。
「…ねェ、皆守クン、浴衣…似合ってるかな?」
「………」
…正直な話、とても良く似合っている…と、思う…。
いつもは単なる五月蝿いお節介女としか思えないが、今日の浴衣姿の八千穂は…何時もより大人っぽく見える。
浴衣が魅せる錯覚なのか、はたまた、俺の目がおかしくなってしまったのか…?
ただ、正直に思ったことを認めてしまうのは、何だか八千穂に負けてしまったような気がして悔しい。
そーちゃんのように素直で単純でわかりやすい人間ではない負けず嫌いの俺は、精一杯の虚勢を張って言った。
「似合ってるさ、馬子にも衣装って良く言ったもんだ。」
次の瞬間、ビタンと頬を叩かれた。
「もう…、皆守クンなんかに聞かなきゃよかったッ!!」
顔を赤くし、頬を膨らませて怒った八千穂の目は、少し涙で滲んでいるようだった…。
…こういう時は、素直に負けを認めた方がよかったのだろうか?
でも、今の俺にはこのくらいの距離が心地よい。
下手に距離を縮めて近づきすぎず、だからといって距離をとって離れてしまいたくはない。
叩かれた頬をさすりながら、ぼうっと部屋を出て行った八千穂の背中を見送っていると、ドタバタと足音をたてて、そーちゃんが二階から降りてきた。
「よーやく見つかったぜ!着火マン!!あ、こ〜ちゃん片付けてくれてサンキュッ!」
「あァ…。」
気のない返事をする俺の顔を見て、そーちゃんは不思議そうにした。
「あれ…?こ〜ちゃん、頬どうしたんだ?赤くして…。」
俺は苦笑いをして答えた。
「…虫に刺されたんだよ。」
あとがき
かなり意味不明な卒業後捏造文。
はがゆいビミョーな距離の二人が好きです(笑)だからかゆいかゆい!
出だしの部分は、ブログの方に書いた突発文ですね。
蒼太の家族とか名前だけ出てます。オリキャラ出てきて、こういうの嫌いな方にはスミマセンm(__)m
本当は単に虫刺されドタバタネタを書こうと思いましたが、何となく色々混ぜてしまいました(^_^;)
皆守は地震ですら見切る男なんで(皆神山の話より)、蚊の攻撃くらい軽く見切るだろうと…。
ま、八千穂のビンタは見切れなかったようですが(笑)
微妙な皆→←八要素をいれるのは個人的な趣味です♪
主→七?もいれれて良かったかなぁ(^-^)
2009年8月15日 風の字