七夕 | ナノ
#七夕


「さーさーのーはーさーらさら〜♪」

気だるげに寝転んでいる俺の横で、ノー天気に歌いながら折り紙を切り刻んでいるお団子頭は、手に持っているハサミをテーブルの上に置くと、切り刻んでいた折り紙を慎重に広げた。

「…ッ、やったあ〜!皆守クン、見てみてッ!会心の出来だよッ♪」

大喜びの八千穂が手にしている折り紙をちらりと見る。

「…クモの巣なんか作って何が嬉しいんだ?」

「もーッ、クモの巣じゃないよッ!天の川だよ、あ ま の が わ!」

「ふん…。」

やっとのことで作り上げた天の川を手に持って、八千穂の奴はベランダに出ると、物干し竿にくくりつけた。
物干し竿は八千穂が作った飾りで色鮮やかに彩られ、その辺の家の軒先にある七夕飾りよりもある意味立派かもしれない…。
飾り終えると、八千穂は星ひとつ見えない曇り空を見上げて残念そうな顔をして言った。

「七夕ってさ、いっつも天気悪いと思わない?」

まァ、梅雨の時期と被るのだから仕方ないだろう。
俺は重い腰をあげて、蒸し暑い部屋からベランダに出て、八千穂の横に並び空を見上げた。

「そうだな。」

「あの雲の上で、織姫と彦星は再会しているんだろうね。」

「そうだな。」

八千穂は少しうつむきながら、ぽつりと言った。

「…一年に一度しか逢えないなんて、なんだか悲しいね…。」

一年に一度…か。
たしかに悲しいかもしれないが、永遠に逢えなくなるわけではない。

「…一度は必ず逢えるんだから、ずっと逢えないよりはマシだろ?」

俺の言葉を聞いて、八千穂は目をまんまるにして俺の方を見た。

「そっか…、そうだよね。皆守クンがそんな風に前向きに考えるなんて意外!」

「あのなぁ…俺にしてみれば、後ろ向きに考えるお前の方が意外だッ!」

いつも元気が無駄に有り余っていて、前向きで、人の都合はお構いなしに振り回す。
そんな八千穂がしおらしくなる方がらしくないし、なんとも変な感じだ。

「そうかな?あたしだって後ろ向きになるときもあるよ。もしもあたしが織姫の立場だったら…、やっぱり悲しくなっちゃうもん…。」

「ふうん…。」

少しの間、お互い黙って夜空を見上げていると、八千穂が沈黙を破った。

「あ、それはそうと皆守クン、短冊に願い事書いた?」

「………。」

…そう、事の発端は短冊だ。
七夕だろうがなんだろうが、月行事なんぞどうでもいい俺が、七夕もどきに付き合っているのは、八千穂が…

『皆守クン!七夕だから、短冊にお願い事書いて飾ろ〜!』

…と、紙の切れはしを片手に、俺のアパートにやって来たからだ。
七夕なんかやらないし、笹なんか無いと言っても、いつもの調子で押しきって、物干し竿を笹代わりに七夕をはじめた八千穂。
そして今に至る。

「…書いてない。大体にして、叶えたいなら自分の力でどうにかするべきだろ。星なんかが願い事叶えてくれるわけ無いし。」

俺の意見に不服なのか、八千穂はぷうっと頬をふくらませ、夢もロマンもないんだからと呟き、ちらりと手にしている短冊を見た。

「あたしは短冊にお願い事書いたけど…、お星さまが出ていないから飾るのやめとこっかな。…あーあ、せっかくの七夕なのに…晴れていれば良かったのになぁ、残念。」

八千穂のやつがあまりにも残念そうにしょぼくれていたから、俺はこう言った。
その後すぐ、余計なことを言わなければよかったと後悔するのだが…。

「確かに今日は天気が悪いが、八月に旧暦の七夕があるだろ。その時にでも飾ればいいだろ?」

「…旧暦の七夕…そっかぁ♪皆守クン、旧暦の七夕も一緒にやろうね!その時までに短冊書くのが宿題だからッ!」

「なッ!何で俺が八千穂に宿題出されないといけないんだよ。しかも七夕なんかやらないぞ。もうやったんだからな…。」

「ダメだよ皆守クン!せっかく織姫と彦星が年に二回も逢えるんだよ?笹に飾り付けして祝福してあげなきゃ!!…あ、短冊の他に笹を準備するのも宿題だからね♪」

八千穂に反論したところでかなうわけがない。
無駄な労力は使わないに限る。
短冊の他に面倒な笹の準備まで宿題にさせられた俺は、わかったわかったと適当に頷いて時計をちらりと見た。

「…なぁ、そろそろ帰った方がいいんじゃないか?送っていってやるよ。」

俺に言われて、八千穂は自分の携帯の時計を見た。

「えッ…もうこんな時間!?帰らなきゃ、明日の講義一時間目からバッチリ入ってるし…。」

八千穂は、散らかした折り紙等を鞄に突っ込んで、慌ててアパートから飛び出した。
そのあとに続いて俺も出て、ドアに鍵をかけ、八千穂と一緒にならんで歩きだした。
先程まで残念そうにしょぼくれていた八千穂は、今ではとても嬉しそうで、上機嫌だ。

「八千穂、どうした?嬉しそうだな…。」

「エヘヘ、だって、一年に一度じゃなくて、二度も逢えるんだよ?織姫と彦星。そう考えると嬉しいじゃない!」

「…そうか?」

そんなことで嬉しくなるとは、単純なやつだ。ある意味羨ましい。

「それに…あたしも逢えるし…。ほんとはもっともっと逢いたいんだけどなぁ…。」

なにやら八千穂が小さな声で呟いた。

「…何か言ったか?」

聞き取れなかったから聞き返すと、八千穂は何でもないとブンブンと首を横に振った。

「それより、旧暦の七夕の日、晴れるかなぁ?」

「さあな。」

「…じゃあ、晴れるようにてるてる坊主いっぱい作らなきゃね!」

俺の横で腕捲りをしてやる気満々の八千穂。
てるてる坊主よりもこいつのこの元気さえあれば、雨雲なんぞどこぞに吹き飛んでいくのではないかと思いながら歩みを進めた。





あとがき
これまた卒業後捏造話。
七夕に間に合わせられずに無念。
何気に皆←八なのかも。
七夕になるといつも悪天候で残念です。

2009年7月20日 風の字

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