#1学校生活にサヨナラ | ナノ
#1 学校生活にサヨナラ


中学三年の冬…
一般的な学生たちの多くは、志望校合格を目指し、勉学に励んでいる。
学校から帰っては塾通い。
模試を受け、テストの点数に喜んてみたかと思えば青ざめてみたりなど、よく見られる光景だ。
教室内は、受験シーズン独特のピリピリとしたはりつめた空気が漂っている。
が、ここにおよそ一般的ではない男子生徒が一人。
背はそれほど高い方でもなく、体つきもわりと小柄ではあるが、華奢で弱々しいというわけでもない。
短く刈り込んだ黒髪に、きりりと濃い凛々しい眉。
すうーっと鼻筋か通っていて、くるくると動く黒い瞳は、未知なるものへの好奇心に輝き、自信に満ちている。
周りの生徒は、テストの点があーだった、こーだったと騒いでいるというのに、この少年は、机の上に自分の叔父の畑で発掘した縄文土器片を広げている。

「この破片と一致するはずなんだけどなぁ?」

形の良い唇をへの字に曲げ、眉間に皺をよせてうーんうーんと唸りながら、何枚もの土器片を組み合わせ、接合作業をしている。
土器片とにらめっこしている少年に、クラスメートが話しかけてきた。

「なあ、風晴、お前ホントに高校受験しないのか?」

風晴と呼ばれた少年は、接合作業を止めると、クラスメートの言葉に人懐っこい笑顔で答えた。

「あぁ、受験はしない!」

その返答を聞いて、クラスメートは、『テストを気にしなくていいなんて…羨ましい!』…と、頭を抱えうなだれた。
そういえば、この手の質問に何度答えただろう…と少年は思った。

中学三年の春、担任から進路調査の紙を渡されたが、彼は白紙で提出した。
そのため、担任に職員室に呼び出された。

『風晴君、この調査用紙…白紙だけど。…君は自分の進むべき道を、真剣に考えているのかい?』

そう担任に問われた。
もちろん、自分の進むべき『道』は、ずっと小さい頃から思い描いていた。
ただ、その思い描いている『道』は、なんと一般人に伝えたらいいものか…。

《宝探し屋》になる!

これこそ、自分が小さな頃から思い描いている進むべき『道』なのだが…。

『進路は決めています。でも、進学はしません』

『それじゃあ就職したいのか?』

《宝探し屋》を生業にする為に、《ロゼッタ協会》に所属するということは…就職…ということになるのだろうか?
しかし、この秘密の職業のことを打ち明けるわけにはいかない。

『そのようなものです』

と、返事をして職員室をあとにした。

その日の夜は、叔父にも進路について聞かれた。
進路調査用紙を白紙で出したということで、担任から連絡があったらしい。
叔父は心配した様子で、少年の部屋を訪ねた。

『蒼太、進学しないって本当か?』

『うん』

蒼太は迷いなく返事を返す。
が、その様子が余計に気になるらしく、ますます心配そうな表情になった。

『遠慮しなくても良いんだぞ?お前を高校に行かせてやることはできるんだから。望むなら、大学だって行けばいいんだ』

蒼太の両親は、彼が幼少の頃、飛行機事故に遭い亡くなってしまった。
父方の叔父が、飛行機事故から奇跡的に生還した一人息子の蒼太を、引き取り育ててくれている。
叔父は、実の親子ではないから、蒼太が変に気を使って遠慮しているのではないかと思った。

『ありがとう、叔父さん。でも俺、どうしてもなりたいものがあるんだ!』

ずっとなりたいと思っていた《宝探し屋》。
秘密の職業だが、家族に隠す必要はあるまい。
瞳に情熱の炎を宿して、まっすぐに叔父に向き合い、自分の胸の内を明かした。

ただ、教室の自分の席にいて、知識を詰め込むだけの授業を受けるのは嫌だ。

自分自身の力で、世界に埋もれている《謎》に触れ、それを解き明かしたい。

父のように、古の人たちの叡知に、じかに触れてみたい。

母がそうであったように、ロゼッタ協会の《宝探し屋》になりたい。

《宝探し屋》への熱い思いを叔父に語ると、叔父は困ったような顔をしながらふっと笑みをこぼした。

『やっぱり…兄貴と義姉さんの息子だな』

一度決めたら引かない。
未知なる世界へ、溢れんばかりの好奇心と探求心を持ち、情熱をもって《謎》に挑む。
亡くなった兄夫婦の面影を垣間見たような気がして、叔父は蒼太の頭を軽くポンポンとたたくと

『解った。とりあえず先生には上手いこと言っておこう。…だが、もしも進学したいと思ったら遠慮なく言うんだぞ?お前は大事な家族なんだからな』


叔父がどううまく立ち回ってくれたのかわからないが、それ以降、担任から進路について尋ねられることはなくなった。
ただクラスメート達は、未だに進学しないというのは信じられないらしく、このことについて何度も尋ねてきた。
そのたびに蒼太は『進学はしない』と言葉を返すのだった。
再び土器の破片を手に取り、接合作業をはじめる。
考えてみれば、《宝探し屋》という道を選んだことで、同年代の仲間と共に過ごす学校生活をおくることはもうないのだ。
春になれば、皆それぞれ違う道を歩み出す。

『春になれば…学校生活にサヨナラだな…』

クラスメート達と過ごした日々を思いながら、蒼太は、心の中でこっそりと別れを告げた。
少し感傷的になってしまったが、自分で選んだ《宝探し屋》という『道』の先には、一体何が待ち受けているのだろう。
自身のまだ見ぬ未来に、不安よりは希望と好奇心が勝るのだった。





あとがき
乱文申し訳ないッス。(苦笑)
今までの日常から《宝探し屋》としての日常に移るための乱文。
次からは天香學園に舞台がかわる予定です。
2008年12月6日

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