はい、テスト返します | ナノ
#はい、テスト返します


風晴蒼太は、いまいましい紙切れを五枚机の上に並べ、苦虫を噛み潰したような顔でそれとにらめっこしていた。

「……何かしたのか?そーちゃん。」

いつもお気楽な親友が、珍しく不機嫌そうな顔をしているので不思議に思い、皆守甲太郎は、親友がにらめっこしている用紙を覗き込んだ。

「…何だこりゃ。」

その用紙には赤ペンで
0.3、0.5、0.7、0.6、0.4
…と書かれてある。

「…視力検査みたいだな。」

「ははは…は…まだ俺の視力の方がマシだ…。これはお情けでもらった部分点だよ…。」

皆守のコメントに、蒼太は渇いた笑いを返し、がっくりと肩を落とした。
数学の授業では、授業の始めに毎回10分間の小テストを行う。
点数は五十点満点。
そして、机に上げてある視力検査のようなものが、蒼太に返ってきたテスト用紙たちである。

「明日、この五枚の範囲で確認テストやるんだとさ…。赤点は補習だと…。」

「ふうん。…まァ、せいぜい頑張れよ。」

どうせ自分はサボるのだから関係ない。再び屋上で授業をサボろうと思い、皆守は親友に背を向けて、手をヒラヒラと振ったが…

「こ〜ちゃん!ちょっと待ったぁッ!!」

いきなり蒼太に背後から左肩をつかまれ、皆守は足を止めて振り返った。

「何だ?」

「解き方教えてくれッ!…報酬は…地上最強カレーでどうだッ!?」

カレーと聞いて、この男が断る理由はない。

「いいだろう…。その目をしっかり見開いてろよ。こんなもんはな…」

カレーがかかっているため、気合い十分の皆守はシャープペンを片手に、蒼太の回答用紙と向き合った。

「うおおッ!!こ〜ちゃんが気合いで満ちているッ!!!頼むぜ!親友ッ!!俺の解けない《謎》を解き明かしてくれッ!!!」

蒼太は手に汗を握り、熱い視線を回答用紙と皆守に送った。

「………」

「………」

皆守は真剣な眼差しで、問題を読み、頭の中で解を導くための式を組み立てていく。

「………」

「………」

長い沈黙のあと、ついに皆守のシャープペンが動き出した!!

カリカリカリカリ…

「…ざっと、こんなものだ…。」

皆守はカチカチとシャープペンの芯をおさめた。
そこにかかれた式は…

1+1=2

「こ〜ちゃんッ!何だよ、これッ!!」

蒼太は半べそをかき、情けない声をだして皆守に掴みかかった。

「…悪い、実は俺もわからない。」

さっきまでの自信に満ちた言動と、真剣な表情は何処へいったのやら。皆守はばつが悪い顔をして、頭をポリポリと掻いた。
普通に考えれば、いつも授業をサボっている男である。授業を受けていないのだから、解けないと考えるのが正解だろう。
しかし蒼太は、親友なら何かきっとやってくれるに違いないと信じていた。
実は授業内容が簡単でわかりきっているから、ダルくてサボっているのだろうと思っていた。
しかし、実際はそうではなかったらしい…。

「ちくしょーッ!報酬はプリンカレーだッ!!」

「馬鹿野郎ッ!神聖なカレーをプリンなんかで汚すなッ!!」

「だって、期待させといてそんな仕打ちはないだろ〜ッ!!」

「そーちゃんが勝手に期待していたんだろーがッ!」

「期待させるような事を言ったのはこ〜ちゃんだろッ!!こうなったら、取手大先生に数学を教わるしかあるまい。こ〜ちゃんも強制参加だからなッ!!!」

「なッ―、何で俺までッ!!」

「問答無用だッ!かまっちに泣いて頼みに行くぞッ!!」

そうして皆守を強制的に引き連れて、A組に乗り込んだ蒼太は、取手の席に駆けつけた。

「…あれ、そっちゃんと皆守君…どうしたんだい?」

「よぉ、取手…。」

ちょっと困った顔をしながら、皆守は取手に挨拶をした。
突然の来訪者に驚いている取手の横に蒼太はいきなり座り込み、

「取手大先生ッ!俺たちに数学教えてくださいッ!!お願いしまっすッ!!!」

深々と土下座した。

「…えっ?…ぼ、僕なんかでよかったら…別に構わないけど…そんな、土下座なんてよしてよ…。…僕たち、友達じゃないか…。」

取手の言葉に、蒼太は頭をあげた。

「…かまっち!いや、取手大先生ッ!!ありがとうございますッ!!んじゃ、今晩7時にいつもの場所(《墓地》)でッ!!」

「…う、うん。わかったよ…」

取手の了承を得て、二人はA組の教室をあとにした。

「そーちゃん…。何で《墓地》で勉強なんだよ…。」

皆守の問いに、蒼太は自信に満ちた表情で熱く答えた。

「モチロン、《墓地》じゃないと俺の実力が発揮できないからだッ!!」

なんの実力を発揮するのやら…、先が思いやられるなと皆守は思った。



あとがき
ともかくバカな話です。
続きで、取手先生の高校数学講座?な話も書きたいですね。

2009年3月22日 風の字


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