人生設計 | ナノ
#人生設計
こんな授業なんか出なければよかった…と、皆守甲太郎はひどく後悔をした。
遡ること数分前…
いつものように屋上で、授業をフケようと思いながらアロマパイプをくわえていると、バタバタと騒々しく側にやってきた者が二人。
『こ〜ちゃん発見ッ!!やっぱこ〜ちゃんは屋上だったろ?やっちー!』
『本当だね!さすが蒼太クン!!あたしは保健室の方だと思ってたよ。』
いきなりやって来たのは、クラスメートの風晴蒼太と八千穂明日香の二人組であった。
『…何だ?二人揃って…。お前らもサボりか?』
冗談半分で皆守が尋ねると、
『もーッ!そんなわけないでしょ!!皆守クンのこと探してたんだからッ!!』
八千穂が頬をぷうっとふくらませて、反論した。
『こ〜ちゃん、今回の保健体育の授業出ないと、単位落ちるらしいからさ。なんとしても授業に参加させねばならんッ!!…と思って、探してたんだぜ!?』
『へぇ…』
単位を落とすことになると言われても、皆守はどこか他人事のようにアロマを吸いながら、気のない返事をかえした。
『へぇ…って、もうッ!他人事のように言って!!とにかく授業に参加してもらうんだから!ねっ、蒼太クン!!』
『おうともッ!強制連行だ!教室戻るぞ、こ〜ちゃん!!』
そういうと、蒼太は皆守の学生服の襟首をつかみ、八千穂は皆守の右腕をつかんだ。
『なッ―!離せ、お前らッ!!』
抵抗もむなしく、皆守は二人にズルズルと引きずられるように、屋上をあとにすることとなった。
そんなことがあって、この保健体育の授業を渋々受けることになったのだが…。
「今日は皆さんのライフサイクル…人生設計について考えてもらいます。今から紙を渡しますから、それに自分のこれからの人生について考えて書いてみて下さいね。提出期限は、次の授業までです。」
皆守は、前の席からまわってきた白紙を受け取ると、ただそれをぼんやりとみつめていた。
(…無意味な授業だ…。出なければよかった。)
人生設計を書けと言われても、皆守自身、この渇いた世界に希望も未来もみいだせない。
先が見えないこの人生、何を設計しろと言うのか?
深い闇に、微かに射し込む光が見えるが、それもまた闇にかき消されてしまう。
(…一応授業には出席しているんだし…寝るか…)
無意味な授業に参加するのをやめ、皆守は机に伏して眠ることにした。
***
キーンコーンカーンコーン…
授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。
やっと無意味で非生産的な授業が終わったかと、皆守はやれやれと伸びをした。だるそうにしている友の席へ、蒼太がプリントを手にやって来た。
「こ〜ちゃん!みてくれよ、俺の渾身の一作ッ!!」
「あぁ?」
蒼太から手渡されたプリントを見ると、それには自分なりの人生設計がかかれてあった。
┌──────────────────┐
│ 俺の人生設計 │
│ 3-C 風晴蒼太 │
│ │
│・卒業後、仕事で世界を飛び回る。 │
│↓ │
│・24歳頃、脱会。フリーになる。 │
│ カレー屋を営んでいる皆守夫婦と │
│ 一緒に企業を設立。世界を巡る。 │
│↓ │
│・26歳頃、所帯を持つ。 │
│ 一男一女に恵まれる。 │
│↓ │
│・30〜50歳頃、失われた大陸等、 │
│ 前人未到の遺跡をたくさん発見する!│
│↓ │
│・60歳頃、探索した遺跡数の多さ │
│ でギネスに載る!! │
│↓ │
│・65歳頃、自伝を出版する。 │
│ ・ │
│ ・ │
│ ・ │
└──────────────────┘
「どうだ!なかなか良い人生設計だと思わないか?」
自信満々で答える蒼太。
「…そーちゃんの人生設計はわかった。…だが、何で俺の人生設計までしているんだ?」
【・24歳頃、脱会。フリーになる。カレー屋を営んでいる皆守夫婦と一緒に企業を設立。世界を巡る。】
問題の部分を指し示し、皆守は頭を抱えて質問した。
「なかなか良いじゃないか!こ〜ちゃんにぴったりだろ?」
自分の人生設計に満足している蒼太は、皆守の質問に笑顔で答えた。
「…カレー屋は…まぁ良いとして、…夫婦って何だよ。誰と結婚してんだ、俺はッ?」
「やっちーだろッ!」
ガタタタッ!!
蒼太のメチャクチャな即答に、皆守は派手な音をたてて椅子から滑り落ちた。
「ん?大丈夫か、こ〜ちゃん。」
皆守は打った腰をさすりながら、よろよろと立ち上がり、改めて自分の席に座り直した。
「…あぁ、大丈夫だ。…しかし、何で八千穂なんだ?」
「こればっかりは《宝探し屋》の《直感》ってヤツだ!」
得意気にニヤリと笑って言う蒼太。
「全く…、どんな《直感》だ…。」
皆守は、話にならないと思いながら、一服でもしようとアロマパイプを取りだし、口にくわえて火をつけた。
「ねぇ、二人とも人生設計書き終わった?」
「ッ―!ゴホッゴホッ…」
「おう、勿論だ!やっちー!!」
つい先ほど話題にしていた人物の登場に驚き、皆守はむせた。
「大丈夫?皆守クン」
八千穂は心配そうに皆守の背中をさすってやった。
「ゴホッゴホッ…」
「大丈夫だってさ。それよりやっちー、俺の会心作の人生設計をみてみない?」
蒼太は、自作の人生設計の紙を八千穂に手渡した。
「へェ、蒼太クンの人生設計かぁ。…どれどれ…」
八千穂は、興味津々で蒼太の人生設計を見始めたが、ぱっと後ろから紙を奪われてしまった。
「あれっ?」
「ッ、ゴホッ…お前は見るなッ。」
八千穂に、例の一文に対して質問されてはたまらない。皆守は未だにむせながら、八千穂の手元から奪った紙を手にして、
「…こんな人生設計、俺は認めないからなッ!」
ビリビリと破ってしまった。
「なッ!こ〜ちゃんッ!!俺の素晴らしい人生設計に何をするッ!!?」
「うるせー、自分の人生設計なら自分の分だけ書いておけッ!!」
「ちくしょー!こうなったら何度でも書き直してやるッ!!」
「だったら俺は何度でも破り捨ててやるッ!!」
「ち、ちょっと、二人とも?」
何が原因でこんなことになったのかさっぱりわからない八千穂は、ただキョトンと二人のやり取りを見ているのであった…。
***
結局、書いては破り、書いては破り…という不毛な戦いを繰り広げ、提出期限を守れなかった二人は、罰として反省文十枚を提出することとなった。
「こ〜ちゃん…、十枚も…何を書けば良いと思う?」
「…こんな面倒なことは、無視しておくに限る。」
皆守は、提出用の作文用紙をゴミ箱に突っ込んだ。
「異議なしッ!!」
続いて蒼太もゴミ箱に突っ込む。
「んじゃ、マミーズでカレー食って帰るか。」
「おうッ!!」
あとがき
また長いッス。読み辛くてスミマセン。
高校の時、人生設計を書けという授業がありましたが、自分自身何を書いたか覚えていません。
ま、人生なんか設計通りに進むなんてことはほぼないので、まさに無意味な授業だったのかもしれません。
ちなみに皆守夫婦(笑)の件は、質問49番の方でも少し触れています。
2009年3月1日 風の字