体育祭ヒーローズ(後編) | ナノ
#体育祭ヒーローズ(後編)
この一週間で発症した症状…。
一、筋肉痛
二、擦り傷
三、打ち身
四、腰痛
※ただし、四は以前からある症状で、原因は寝過ぎと考えられる。
…以上の症状が、ぐうたら少年皆守甲太郎の身にふりかかった。今まで『体育は不毛だ』と言いながら、サボっていたツケが回ってきたのかもしれない。体が悲鳴をあげている?!
いきなりやるはめになった二人三脚。一日目の練習は何とか乗りきった。
二日目は、筋肉痛で体が思うように動かせなかった。それでも何とか体を動かし練習した。
三日目は、二日目ほど筋肉痛は気にならなくなったが、なかなかうまく走れず、八千穂と一緒に校庭にスライディングすること数回…。砂にまみれて、出来たのは擦り傷、打ち身。
四日目は、呼吸があってきたのか、はたまたコツをつかんだのか、前日ほど転ぶことはなくなった。
そうして五日、六日と、日は過ぎて…
「ッつー…」
「いよう、こ〜ちゃん!傷は男の勲章だぜ!!」
今日の練習で新たに出来た生傷を手当てしている皆守の部屋に、壁の穴を潜って、お気楽トレハン風晴蒼太が現れた。
「何が男の勲章だ。んな勲章いらねェ」
「まあまあ、たまにはいいじゃないか!汗水流して夕日に向かって走るなんて…輝け!青春ッ!!って感じじゃないか!?」
「『輝け!青春ッ!!』だぁ?そーちゃんはパン食ってるだけだろーがッ!!」
「なッ!パン食い競争をバカにすんなよ!パン食いにはパン食いの、パン食いにかける青春があるんだぜ!?」
「…意味わかんねー。」
パン食いにかける青春を熱く語っているやつを放っておいて、皆守は、消毒液がかわいた右肘の擦り傷に、先ほどの練習時に八千穂がくれた絆創膏を貼りつけた。
「…ま、なにはともあれ、明日はついに本番だもんな!頑張ろーぜ!こ〜ちゃんッ!!」
「あぁ…。ところでそーちゃんは、これからいつもの墓地探索か?」
皆守の問いに、蒼太は首を横に振った。
「いいや、今日はもう寝る。万全の体調で挑むためにッ!!俺はテスト以外の学校行事には、全力を尽くして参加する男だからなッ!!…っつーわけでお休み!」
「あぁ、お休み。」
満身創痍(?)の親友を激励(?)しつつ、パン食い競争への意気込み、学校行事(テスト除く)に対する暑苦しいまでの情熱を語ると、蒼太はさっさと自分の部屋に戻っていった。
(ついに…明日が本番か…)
八千穂に巻き込まれてやることになった『二人三脚』…。練習をはじめて、もう一週間が過ぎようとしている。
長いようで短かった練習の日々。
それも明日の本番が終われば、この面倒な競技とお別れだ。
ようやく、この厄介な行事と練習からおさらばできてさっぱりすると思う反面、ここ一週間の不毛な練習の日々を思うと、何故か寂しく、名残惜しく感じた。
(…俺も…もう寝るか…。)
部屋の電気を消して、自分のベットに潜り込むと、練習の疲れもあってか、あっという間に眠りについた。
***
体育祭当日―…
競技が行われる校庭は、生徒たちの応援と熱気に包まれている。
「おっしゃーーーッ!こ〜ちゃん!やっちー!頑張れ!!応援しているぞーーーッ!!!」
人一倍熱い…いや、暑苦しい男がここに…。頭に『必勝』と書いた鉢巻きをびしっとしめて、腹の底から大声で声援を送る…炎の男、風晴蒼太!
「あはは、気合入っているね、蒼太クン。」
八千穂は、選手の控え場所から、エールを送る蒼太に手を振った。
「…自称『テスト以外の学校行事には、全力を尽くして参加する男』らしいからな…」
応援はありがたいが、恥ずかしい皆守は、その様子を横目で見つつ、無視を決めこんだ。
「次の走者はスタート地点に並んでください。」
体育委員の指示に従い、二人はスタート地点に並び、八千穂は、自分の右足と皆守の左足を紐で結んだ。
「一緒に、ゴール目指して頑張ろうね!皆守クン!!」
「…おう。」
「位置について…よーい…」
パーンッ―――
開始の音と共に走り出す生徒たち。
「せーの…いっち」
「せーのっ…うわぁ!」
「に」
「ッてぇーっ…」
「いっち」
「に」
開始早々、転倒する選手を追い越して、互いに声をかけ、自分達のリズムを揃えて走る皆守・八千穂ペアは、好調な出足で、現在トップをひた走るが…
「いっち」
「に」
「いっ…きゃあっ!!」
「ッ!?」
八千穂は、転がっていた石に足を躓かせ、よろめき左膝をついた。
「大丈夫か、八千穂…?」
「う、うん、ごめんね。」
『大丈夫』と皆守に告げて、八千穂は立ち上がった。再び掛け声を出して二人一緒に走り出す。
「…いっち…」
「に」
「…いっち」
「に…?」
(…スタートの時よりも、ペースが落ちてないか…?)
皆守は、八千穂の方をちらりと見た。
彼女は競技に集中しているのか、ひたむきな様子で走っている。しかし、先ほど膝をついた左足を庇うような、不自然な足運びだ。
(足…捻ったんだろうか…?)
怪我をしたような、そんな様子を表情に出さず、八千穂は一生懸命に走る。
「…八千穂、俺の方に体重をかけろ。」
「え…?」
「さっきので、足…痛めたんだろ?…あまり痛めた足に負担をかけるな。俺が支えてやる。」
「で、でも…」
「…『一緒に、ゴール目指して頑張る』んだろ?…ほら、しっかりつかまれ。」
そう言って、八千穂を自分の方に引き寄せた。
(…俺は…何をしているのだろう?
ここで、八千穂の怪我を理由に、競技を棄権してしまえば、走らずにすむのに。)
…以前の自分なら、そうして競技を中断して、楽な道を選んだのかもしれない。
それなのに…、今は諦めたくはないと思っている。
横にいる八千穂と一緒に、最後まで走り、ゴールにたどり着きたいと思う。
それが何故なのか…、皆守自身、よくわからない…。
それでも、迷いはない!
「行くぞ、八千穂、あと少しだ!!」
「うん!」
「「せーの…」」
いっち、に、いっち、に…
声を出して、二人は再び走り出した。
負傷した八千穂を抱えるような形で走るため、どうしても走りにくく、速度は落ちる。
しかし、ゆっくりだが確実な走りで、徐々にゴールまでの距離を縮めていく。
ゴール手前でA組とD組に追い抜かれてしまったが、それでもゴールまで走り抜いた。
「…っと、ゴール!」
「…やった!やったねッ!!皆守クン!!」
涙混じりで喜ぶ八千穂。
皆守は、なんとか無事に走り抜くことが出来て、あの傷だらけの練習の日々が、少し報われたような気がした…。
喜びもつかの間で、皆守は屈んで、互いの足を結んでいる紐をはずし、八千穂に背中を向けてしゃがんだ。
「…カウンセラーの所に行くぞ。お前の足を見てもらう。ほら…おぶされよ。」
「えっ…、だ、大丈夫だよ!」
「いいから、…最後まで走り抜いたお前に、敬意を表して連れていってやるよ。」
「う…うん…。」
おずおずと八千穂は皆守の首に腕を回して、背中に体を預けると、皆守は立ち上がり、救護班のいるテントに向けて歩き出した。
「…皆守クン」
「ん…」
黙々と歩いていると、背中におぶさっている八千穂が沈黙をやぶった。
「迷惑ばっかりかけて…ごめんね…」
「…全く、その通りだな…。」
「………」
「…それでも…結構…楽しかったぜ…?」
皆守は、なんだか照れ臭くて、そっぽを向いてぽつりと答えた。
「…皆守クン…」
「ん…」
「ありがとう」
***
救護班のいるテントにたどり着くと、瑞麗先生に
『二人三脚のあとは騎馬戦か?』
…と、からかわれつつ、八千穂の足の状態を見てもらった。
軽く腫れているが、骨などに異常はなく、軽い捻挫ということで、左足首の患部に湿布を貼ってもらった。
「やれやれ、これで体育祭は終了だな…。」
参加競技も終わったので、皆守は、丁度良い木陰でゴロリと横になった。
「まだ終わってないよ。クラスの皆を応援しなきゃ!!」
八千穂はその横に座り、元気に声援を送っている。そんな二人の元に、蒼太がひょっこりと顔を出した。
「よっ、ご両人!!」
「そーちゃん!」
「蒼太クン!」
「見てた?俺のパン食い競争!」
「うん!一位だったね、おめでとう♪」
「ま、伊達に一週間パン食ってなかったな…おめでとう」
「へへっ、ありがとうッ!」
蒼太は二人にお礼を言うと、ごそごそと手に持っていた紙袋から、パンを取り出した。
「ほらよ、最後まで走りきった、今日の体育祭ヒーローズに、敢闘賞だ。…あ、ヒーローとヒロインかな?」
「あっ、焼きそばパンだ!ありがとう、蒼太クンッ!」
喜んで焼きそばパンを受けとる八千穂。
「まさか、パン食い競争でパクってきたんじゃないだろうな…?」
そんなことを言いながら、皆守はカレーパンを受け取る。
「さすがにこれは自腹だ。」
蒼太は、残りのあんパンを袋から取り出し、口へ運ぼうとした。
「ッて、お前、あんだけパン食って、またパン食うのかよ!?」
「当たり前だろ!古人曰く!腹が減っては戦は出来ぬッ!!きっと、七瀬さんならこう言ってくれるはずだッ!!!」
ぐううぅ〜…
「「っ!!?」」
くだらない言い争い?を始めた蒼太と皆守の腹の音が、揃って大合奏を始めた。
「あはは、お腹は正直だね!」
八千穂に笑われて、蒼太と皆守の二人は、ばつが悪いような顔をして、互いの顔を見合わせた。
「「………ぷっ…」」
何故だか笑いが込み上げてくる。
青空の下、三人の笑い声が響き渡った。
あとがき
これまた長かった…。
やっとこさ、書き終わりました。
風の字にとって、体育祭とくると、連想する競技は『パン食い競争』だったりします。自分とこのルールでは、コーラを飲んで、あんパン食って走るってやつでした。自分はパン食いたさで参加してました(笑)
二人三脚はやったことありませんね。
30人31脚の番組とかは見ますが。
2009年2月18日