すき、の逆さまをあげる! | ナノ
すき、の逆さまをあげる!


「マリベル、漁についていきたいだなんて無理だよ」

「なにさ、人の気も知らないで!バカ、バカ、バカ、アルスのバカッ!あんたなんか、だいっきらいよっ!!」

アルスは、ポカポカと叩くマリベルの両手をつかまえて、自分の方に引き寄せると、彼女を見つめてなだめるように言った。

「マリベル、そう怒らないで…」

「だって、アル……んっ…」

アルスは、マリベルのやわらかな唇に、自分のそれを優しく重ねた。
少しして離すと、マリベルは、紅潮した頬をふくらませ、不満げな表情で上目遣いに彼を見つめた。

「…バカアルス…もっとしなさいよ…」

恥ずかしそうに、小さな声でアルスにそう訴えると、マリベルはさらに頬を紅潮させて、そっとまぶたを閉じた。
可愛らしい妻の訴えに、理性がどこかへとんでいってしまいそうになるのを必死に堪えると、アルスは、マリベルの頬を愛しげに撫で、そのまま優しく包み込んだ。

「…マリベル、愛してるよ…」

再び唇を重ねると、今度は、深く、長く口づけた。
頬から伝わるアルスの手のあたたかさ、重ねた唇の感触を感じながら、このまま時が止まってしまえばいいのにと、マリベルは思った。
この身重な体で、漁についていきたいなどと言うのは、彼女自身バカなわがままだとわかっている。
あの冒険を成し遂げた彼なのだから、安心して漁に送り出せる。
たとえ、荒波にもまれようとも、ひどい嵐に遭遇しようとも、へっちゃらな顔をして乗り越えて、無事に帰ってきてくれると信じている。
それでもやっぱり、ただ黙って家でアルスの帰りを待っているのは、なんだか心細くて、寂しくて、心配で辛い…。

(…はなれたくない。一緒にいたい…)

あの時の冒険のように、いっしょについていけたなら、こんな不安な気持ちを抱えることもないだろうに…。
マリベルは、アルスの服をぎゅっとつかんだ。
そんなマリベルの思いを察してか、アルスは、長い口づけから彼女を解放すると、そのまま抱きしめて、頭を優しく撫でた。

「…マリベル、心配してくれてありがとう。僕がまだまだ漁師として半人前だから、不安にさせちゃうんだよね、ごめんね…」

マリベルは、謝るアルスの胸元に顔を埋めると、ぽつりと言った。

「…そうよ、アルスがいつまでたっても半人前だから悪いのよ。全部、ぜーんぶあんたのせいなんだから!」

彼の背に両腕をまわすと、きゅっと力を込めた。
アルスが一人前の漁師として、乗組員たちから信頼されていること、立派に活躍していることを知っている。
アルスは全然悪くないのに、つい彼に八つ当たりしてしまう自分が情けなくて、腹立たしくなった。

(本当に半人前なのは、あたしの方なのに…)

マリベルの母親も、アルスの母マーレも、漁師の妻として、しっかりと肝がすわっていて、ちょっとしたことではうろたえない。
いつだってどっしりと構えて、漁に出る亭主を見送っている。

「あたし、………」

八つ当たりをしてしまったことをあやまろうと声をかけた途中で、マリベルは自分の大きなお腹に手をあてた。

「どうしたの?マリベル」

アルスが、心配そうにマリベルを見やると、彼女はまぶたを閉じて、そっとお腹を撫でていった。

「今、動いたの。お腹を蹴ってる」

「本当に?」

アルスは片膝をつき、身を屈めて、マリベルのお腹に顔と手をあてた。
ぽーんと、元気よく彼女のお腹を蹴る感触が伝わってきた。
手でお腹を優しく撫でながら、お腹の子どもに穏やかな声で話しかけた。

「おはよう、おとうさんだよ」

アルスの声に反応するかのように、また、お腹をぽーんと蹴る感触が伝わってきた。

「元気な子ね」

マリベルが、愛しげにお腹を撫でると、アルスは再びお腹の子に語りかけた。

「おとうさんは、これから漁に行ってくるよ。
いっぱいお魚をとってくるからね。
漁から戻るまで、僕の代わりに、マリ…おかあさんのことを守っていてくれないかな?」

お腹の子は、アルスの言葉に応えるように、ぽーんとお腹を蹴った。

「ありがとう」

まだ見ぬ我が子にお礼を言いながら、お腹を撫でると、アルスは立ち上がった。

「お腹の子がマリベルのことを守ってくれるし、僕は漁に行ってくるよ」

アルスが、テーブルの上に置いてある弁当の包みに手を伸ばすと、マリベルが先にそれをかすめとった。
彼女は、いたずらな笑みを浮かべて、弁当の包みを背後に隠した。

「…すき、の逆さまと交換してあげる」

アルスを見つめてそう言うと、マリベルはまぶたを閉じた。
アルスは、彼女の閉じたまぶたと頬に優しいキスをして、二、三度唇を重ねた。
マリベルの柔らかな髪を撫でながら、ふわりと抱きしめた。

「頼むから、あまり無茶なことはしないで」

「なによ、無茶なことなんてしていないでしょ?」

「マリベルはお転婆だから、心配なんだよ」

「ふん、アルスなんか、あたしたちのことを心配していればいいのよ!あたしばっかり、あんたのことを心配をしているなんて不公平だもの」

そう言って、背後に隠していた弁当の包みをアルスに手渡すと、すこし背伸びをして、彼の頬にいってらっしゃいのキスをした。






あとがき
こちらのお題は(C)ひよこ屋様からお借りしました。
「すき」の逆さまって、意味合いでの逆さま「きらい」なのか、逆さまに読んでみて「きす」のことなのか、とりあえず両方入れておけば問題なしかなと(笑)
新婚おめでた夫婦なアルマリです。
この二人…どこのどいつだよというくらい、朝っぱらからイチャイチャラブラブしてますが、夫婦だから問題なしッ!?(爆)
今日はいい夫婦の日ですし(笑)
個人的には、初々しくぎこちない方がツボですが(笑)。
ハハハ、もはや収拾がつかん(^_^;)
しかし、甘い話を書くのが不得手な自分は、
『ぐはっ…甘すぎ、もはや耐えられん…メ…メガンテッ!(ちゅどーん!!)』
…と、少し書いては中断を繰り返していたため、すっかり完成が遅くなってしまいました。
暴走しすぎなアルマリ妄想駄文(つーか、アルマリじゃないようなきがする)に、お付き合いくださったお優しい方がいましたら、どうもありがとうございます〜!
もう、こんなタイプの話は書けないだろうと思います。(耐えられないから)
さあ、逃げるか!!

2013年11月22日 風の字



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