すなおなきもち | ナノ
すなおなきもち
そろそろ日も暮れてきた。
宿に泊まるため、街を探しているアルス一行。
しかし、街を見つけるどころか、すっかり道に迷ってしまったらしい。
先ほどからずっと、森の中をさまよい歩いている。
「もう、どうなってんのよ…。民家はどこよ?あたし疲れたわよ!」
「ご、ごめん。こっちだと思うんだけど…」
苛立つマリベルに、申し訳なさそうに謝るアルス。
二人の後ろを歩いているガボが、不思議そうに、マリベルの背中を指差した。
「なあなあ、マリベルの背中に、なんかくっついてるぞ?」
メルビンは、ガボの指差す先を見た。
「本当でござる。なんとも大きなガでござるな…」
これまでに見たこともないような大きさのガに、メルビンは驚き、感心した。
「は?……が…ガ…ですってぇえ〜〜ッ!!?」
ガボとメルビンの話を聞くと、マリベルの顔は一気に青ざめた。
背中にくっついているガを振り払おうと、じたばたと身動きするが、なかなか離れてくれない。
「いやあああ!!離れてよおぉーッ!!!」
背後にある恐怖からなんとか逃れようと、マリベルは草木をかき分け、全速力で走り出した。
「あっ、ま、まってよ、マリベル!一人で先にいったら危ないよ!!」
走り出したマリベルの背を、アルスも急いで追いかけた。
***
全力で森の中を走り回り、疲れはてたマリベルは、その場にぺたりとすわりこんだ。
なんとか追いついたアルスも、彼女の隣にしゃがみ、深く息を吸って呼吸を整えた。
「ねえ…せ、背中に…まだついてる…?」
不安な様子で、恐る恐る尋ねるマリベルに、アルスは首を横に振った。
「もうついていないよ、大丈夫だよ」
アルスの言葉に、マリベルはほっと安心したのだが、それはほんのひとときだけであった。
今、自分達がおかれている状況を考えてみると、非常に面倒なことになっていると気がついたからだ。
まず、ガボとメルビン二人の姿が見当たらない。
どうやら、はぐれてしまったようだ。
さらに、勢いだけでメチャメチャに走ったため、方角もわからず、余計に道に迷ってしまった。
方角を確認しようとも、上を見れば、空は木の葉におおわれて、頼みの星は見えそうにない。
日はすっかり暮れて、辺りは暗闇に包まれていた。
「今、やみくもに歩いて、二人を探し回るのは危険だよ。とりあえず、朝になったら探そうか」
くたびれて、もう歩けそうにないマリベルは、アルスの提案にうなずくと、野宿の準備を始めた。
辺り一帯に聖水をふりまいて、魔物避けを施し、落ちている枯れ葉や枝を集めて、火をつけた。
あたたかな炎が二人を照らす。
「マリベル、なにか食べる?」
アルスは、鞄の中から取り出した保存食を並べながらマリベルに話しかけたが、彼女からの返事はない。
どうしたものかと彼女の方を見やれば、木に寄りかかって、すやすやと眠っている。
いくら火をたいていても、やはり夜は冷えるだろう。
アルスは上着を脱ぐと、眠っているマリベルにそっとかけた。
「たくさん歩かせちゃったから、疲れたんだね。おやすみ、マリベル…」
(ところで、ガボとメルビンはどうしているだろう…)
アルスはそんなことを思いながら、ぼんやりとゆらめく炎を見つめていた。
***
「…ん…」
いつの間に眠ってしまったのだろう。
ふと目が覚めたマリベルは、はっきりしないぼやけた眼で、辺りを見回した。
まだ夜明け前なのだろう。
森の中は、薄闇と静寂に包まれていた。
「あ…これ…」
マリベルは、自分の身にかけてあった、アルスの上着に気がついた。
彼の方を見れば、消えかかっているたき火の側に座って、うつらうつらと船を漕いでいる。
「…バカね、アルスが風邪を引いちゃうじゃない…」
マリベルはその場から立ち上がり、アルスの隣に身を寄せて座ると、一緒にかぶれるように、上着をかけた。
服越しに触れている部分から、互いの体温が伝わってあたたかい。
マリベルは、眠っているアルスの横顔を、そっと見つめた。
すこし大人びて見える彼の横顔に、ドキンと胸が高なった。
いつだって自分のことは後回しで、他人を優先して気遣ってばかりいるアルス。
根っからのおひとよしで、その優しさは分け隔てがない。
彼が、他の女性に優しくしたりするのを見ると、正直な話、ムカムカとして腹が立つこともある。
「…それでも…やっぱり…優しいあんたが…好きなの…」
マリベルは、ほんのり頬を染めて、小さな声で呟やいた。
いつも、こんな風に素直に自分の気持ちを伝えられたら良いのに、彼を目の前にすると、なかなか素直になれない自分がいる。
それでも、今は素直な気持ちでいたい。
マリベルはまぶたを閉じると、アルスの頬に唇をよせて、そっとキスをした。
「…いつも…ありがとう…」
そう呟いて、眠っているアルスの肩に自分の頭を預けると、再び眠りについた。
あとがき
ブログのネタメモの続きを消化。
お互いのぬくもりと、やさしさに包まれて、ほんわかした一時でも過ごしてくれたらなと…。
アルマリが二人で寄り添って寝てたら、きっと可愛い!!
…なんて、妄想暴走してました(笑)
2013年10月27日 風の字