卒業(下) | ナノ
卒業(下)if〜アルマリが中学生な話


テーブルには、アミット家のメイドが腕によりをかけて作ったごちそうがずらりと並んでいるのだが、今のマリベルにとっては、味気のないものでしかなく、食欲もわかない。

「…ごちそうさま」

夕食にほんの少し口をつけただけで、ほとんど残すと、席を立った。
少し散歩してくると両親に告げて、上着をはおり外に出た。
真っ赤に燃えていた夕日は沈み、辺りはすっかり夕闇に包まれている。
フィッシュベルにも春が訪れたとはいえ、まだまだ夜は肌寒い。
ひんやりとした夜風が、マリベルの頬を優しくなでる。
目を閉じて深呼吸をすると、肺の中が、潮の香りと冷たい空気で満たされた。

(冷たくてきもちいい…)

先程からおさまらない胸の高鳴りと、火照った頬の熱を冷ますには、ちょうどよいのかもしれない。
月明かりが照らす砂浜を一人歩いていると、大きな流木があって、マリベルはそれに腰を掛けた。
穏やかな波の音に耳を傾けながら、アルスからもらった《第2ボタン》を手にとり見つめた。
素直に『好き』と伝えられたなら良いのに、伝えられないまま、苦し紛れにお願いした《第2ボタン》。
《第2ボタン》を渡してくれた時のアルスの様子を思い出せば、それに込めた精一杯の愛の告白など理解しているわけもないのだろう。

「はぁ…」

深くついたため息は、アルスに自分の想いを気づいてもらえなかったことに安心してついたものなのか、残念でついたものなのか、よくわからない。
マリベルは、暗闇の海に「…バカ」と小さく呟くと、足元に転がっている貝殻の欠片を蹴飛ばした。
人を好きになるということは、とても幸せなことだと思っていたのに、想いをうまく伝えられなくて、どうして自分だけこんなにもはがゆく辛い思いをしなくてはならないのか。
彼のことをこんなにも想っているのに、どうして当人はあんなに鈍感なのか。
そう思うと、無性に腹が立ってきたマリベルは、立ち上がると、海に向かって思いっきり叫んだ。

「…バカ…バカ、バカ、バカ、バカッ!アルスの大バカッ!!」

「…マリベル?」

不意に声をかけられ驚いたマリベルは、声の主を見やると、ドキンと胸が高鳴った。

「…ア、アルス…どうして…」

家から全速力で走ってきたのだろう。
肩で大きく息をするアルスは、呼吸を整えながら言った。

「…マリベルの…声がしたから…。ちょっと…いいかな?」

マリベルは、少し戸惑いつつも、首を縦に振ると、二人並んで木に腰を掛けた。
ほんの少しの沈黙のあと、アルスが口を開いた。

「その…、ごめんね」

「…な、なによ…」

「《第2ボタン》…意味もわからずに渡しちゃって…」

アルスの言葉から察すれば、『《今》は《第2ボタン》の意味がわかる』ということになるのだろうか?
《第2ボタン》に込めた想いもすでに知られているのかと思えば、とても気恥ずかしくて、マリベルは、顔をますます赤らめてうつむいた。
気を紛らせようと、もらったボタンを手の中で転がしていると、ふと、ある質問が頭をよぎった。

「………渡したい人…いたの?」

横目でちらりとアルスを見れば、頬をほんのり赤く染めた彼は、無言でコクリと頷いた。
恋愛ごとに疎いと思っていたアルスでも、想いをよせる人がいたなんて…。
マリベルの胸が、チクリと痛んだ。
《第2ボタン》の意味がわかった今、成り行きでもらったボタンなんか持っていても、何の意味もない。
アルスが、本当に想っている誰かに渡せばいい。

「…これ…返すね」

震える声でそう言って、アルスにボタンを手渡すと、いたたまれなくなって、マリベルはその場から逃げ出した。

「マリベル、待って!」

走り出したマリベルの背を、アルスは慌てて追いかけた。
走っても走っても、足の速いマリベルとの距離はなかなか縮まらない。
それでも、マリベルにきちんと自分の気持ちを伝えたい。このような形で、三年間離れてしまうのは絶対に嫌だと思えば、足は疲れてきたはずなのに、不思議と力がわいてきた。
足元の砂を力強く蹴り、がむしゃらに走ると、徐々に距離が縮まってきた。
あと少しで、マリベルに手が届く。
アルスは、必死に手を伸ばすと、マリベルの腕をしっかりと掴んだ。
いきなり腕を掴まれた反動で、バランスを崩したマリベルが砂浜に倒れ込むと、アルスもつられるように倒れ込んだ。

「…放してよっ、…アルスのバカ!」

息を弾ませながら、涙混じりの瞳でキッと睨みつけるマリベルに、アルスは息を整えながら、黙って首を横に振った。
先程渡された《第2ボタン》をマリベルの手に戻すと、自分の手で彼女の手を包みこむようにして、それをしっかりとにぎらせた。
手をにぎったまま、マリベルに向き合うと、アルスは、熱のこもった真剣な瞳で、真っ直ぐに彼女を見つめて言った。

「…僕が、《第2ボタン》を渡したい人は、マリベルだよ」

「…え?」

「ぼ、僕は…、マリベルのことが…、好きなんだっ!」

(…アルスが…あたしのことを…す…き…?!)

信じられないといった様子で、見つめ返すマリベルに、顔をこの上なく真っ赤にしたアルスは、ぎこちないけれど、一生懸命に、伝えたい言葉を続けた。

「…母さんから、《第2ボタン》のことを聞いたんだ。『持ち主の心臓の一番近くにあるボタンで、三年間心に寄り添っていたボタン』だって。…でも、僕にとっての《第2ボタン》は、マリベルなんだよ」

アルスの一番近くで、いままでずっと、心に寄り添っていてくれたマリベル。
一緒にいるのが当たり前で、近すぎて気がつかなかったけれど、離れてしまう今になって、ようやくはっきりと自分の気持ちに気がついた。

「…幼馴染みだからとか、そんなんじゃなくて…。その…、僕にとって、たった一人の…特別な…大切な女の子だから…。…どうか、これからも僕の一番近くで、心に寄り添っていてほしいんだ」

「…………」

マリベルは、まぶたを伏せて、力なくうなだれると、アルスの胸元にトンと頭をもたれかけた。
自分の心臓と同じように、早鐘のように打ちならしている彼の心音がよく聞こえる。

「…アルスのバカ」

「うん…」

「…鈍感」

「うん…」

「…ネボスケ」

「うん…」

次から次へと、悪態をつくマリベルに、相づちを打つアルス。
「でも…」と、顔をあげ、頬を赤らめてアルスを上目使いに睨んでやると、マリベルは微笑んで、素直に言った。

「…アルスのことが…大好きよ…」

彼女の告白に、はにかんだ笑顔で「ありがとう」と言うと、アルスはマリベルを抱きしめた。

「…僕も、マリベルのことが…大好きだよ」

想いが通じあった二人を祝福するかのように、夜空に広がる無数の星たちが、キラキラと瞬いた。





あとがき
長らくお待たせしました〜!(誰も待ってないッつーの(苦笑))
今回、アルスにはたいへん頑張ってもらいました〜(笑)
マリベルは、瞬発力は高いと思いますが、持久力はアルスの方が上だと思っています。(マリベル→短距離向き、アルス→長距離向き)
いまいちまとまりの悪い文でしたが、幼馴染みという関係も卒業して、新たな一歩を踏み出す二人の門出に乾杯〜♪
えー、あまりにも長すぎて、携帯で読む人は、読みにくくて嫌だろうと思いますが(本当にごめんなさい!)、書いてる本人、携帯です(爆)
単なる自己満足話で、ごめんなさい。
第2ボタンネタ、本当は先に九龍でやろうと思っていたのですが、もしもアルマリだったらどうなるかと思いまして、こんな話を。
自分の中で、お嬢様は、キリスト教系の私立女子高に通うというイメージがあるので、ギュイオンヌ女学院高校なんぞを捏造しました(笑)
捏造だらけな話でごめんなさい!
謝ってばっかりでしたが、ながーい駄文、ここまで読んでくださった方は、神様です!どうもありがとうございます!!
2013年3月23日 風の字



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