早弁王に俺はなる | ナノ
#早弁王に俺はなる
「こ〜ちゃん!今日という今日は、俺は《早弁王》になってみせるッ!!」
朝っぱらから無駄にエネルギーがありあまっている風晴蒼太は、自分の拳を高々と掲げて、親友の皆守甲太郎に、本日の目標を宣言した。
「なにが《早弁王》だ…。授業の合間の休み時間とかに食っときゃいいだろ…」
皆守は、朝食のカレーパンを頬張りながら、あきれたように呟いた。
わざわざ危険をおかしてまで、授業中に弁当を食べるなど、なんの意味があるのか。
授業中に食べるくらいなら、授業をサボって食いに行く。
そのように蒼太に言うと、授業中に食べるからこそ大いに意味があると、自信満々に反論した。
「授業中に、先生の監視の目をかいくぐり、弁当を食べる。此、すなわち、数々のトラップをかいくぐり、《秘宝》を手にすることと同じッ!」
《早弁》を制すものは《秘宝》も制す!
《早弁王》への道は、《トレハン王》への道のほんの礎にすぎないッ!!
…などと、わけのわからない理屈を並べると、先生の目を欺くために作ってきた弁当を広げた。
「いいかこ〜ちゃん、これは一見ノートに見えるが、中身の紙は、生春巻きの皮だッ!」
「はァ?」
「これは、鉛筆のグリップに見せかけているが、実はちくわで、鉛筆はキュウリと海苔で作った。そして…」
手先が器用なだけあって、蒼太が食材で作ったダミー文房具の数々は、なんとも完成度が高い。
次々と缶のペンケースから出てくるダミー文房具に、皆守は妙に感心してしまった。
「すごいな、そーちゃん。…だが、味気ない弁当だな…」
「そうなんだよ!」
蒼太は、皆守の意見に激しく同意した。
ダミー文房具を作る時、使った主な食材は野菜であった。
授業中に弁当を広げる際、教室内に匂いが充満して先生に見つかるのを防ぐためにも、使える食材には限りがある。
「味気ない弁当だが、まァ、《早弁王》を目指すためだ。我慢するさ!」
キーンコーンカーンコーン…
授業開始五分前の予鈴が鳴った。
「そろそろか…。こ〜ちゃん、健闘を祈っててくれ!」
皆守は、食べ終えたカレーパンの袋をゴミ箱に投げ入れると、「おう…」と適当に頷いた。
蒼太は、自分の席に戻ると、机の上に早弁をするためのセッティングを始めた。
教科書、資料集、辞典を立てて、前方、右側、左側と、三方隙間なくがっちり固めた防護壁を作成。
(これに身を隠して、授業中にこの弁当を無事に食べ終わりさえすれば、《早弁王》の称号は目の前だ!)
そんなことを考え、一人ニヤリと不敵な笑みを浮かべている蒼太に、そのセッティングはあきらかに怪しまれるだろうと、皆守が心の中でツッコミを入れた。
…案の定、授業開始早々、雛川に怪しまれ注意を受けると、蒼太がせっせとこしらえた弁当は、あえなく没収となった。
《早弁王》への道のり険し!
しかし、これで諦める男ではない。
「この失敗を次に活かすッ!!」
全く反省した様子もなく、胸には《早弁》にかける熱い情熱の炎をたぎらせ、再び弁当作りに励む蒼太であった。
あとがき
九龍の小説を書くのは、かなり久しぶりで、キャラの書き方が変わっているような気がしないわけでもなく…(^_^;)
自分の作ったキャラなので、風晴蒼太は大変動かしやすいですけどね(笑)
蒼太は、いつも変なテンションで、勝手に動いてくれます。
授業をサボって食べに行くのも、授業中に食べるのも、どちらも悪いことなので、くれぐれもマネしないように(笑)
とりあえず、リハビリがてらにサラリとかいてみました。
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
2013年3月24日 風の字