星に願いを | ナノ
#星に願いを


アルスが近くの森を歩いていると、何やら声が聞こえてきた。
耳をすませてみれば、聞いたことのある声色だ。
声のする方へ歩いてみれば、頭上から女の子の声がする。
見上げてみると、木の上には、幼馴染みの女の子の姿があった。

「えっ?!マリベル、どうしてそんなところに…。だいじょうぶ?」

「あ…アルス…。だいじょうぶなわけないでしょ!はしごがたおれちゃって、きのうえからおりられなくなっちゃったのよ。あんた、なんとかしなさいよ!」

「うん」

マリベルが話していたはしごが、木の側に倒れていたので、アルスはそれを木に立てかけた。

「はしごがたおれないように、きちんとおさえててちょうだい」

「おさえたけど、これで……」

大丈夫かなと、確認しようとマリベルの方を見ると、上からマリベルの靴が片方降ってきて、アルスの顔面にヒットした。

「いてて…なにするんだよ、マリベル」

涙目になり、顔をさすっているアルスに、マリベルは顔を赤らめて言った。

「ば…、バカ!アルスのスケベ!!スカートのなかみたら…ぜっこうなんだからッ!!」

「そ、そんなことしないよ!」

アルスも顔を赤らめて反論していると、またしても、もう片一方の靴が降ってきて、彼の頭にヒットした。

「いててっ…」

「だから、うえをみないでよ、バカ!エッチ!めをとじて、はしごをおさえてて!!」

靴の次は何を降らせてくるのやら…。
たまったもんじゃないと思ったアルスは、素直にマリベルの言葉に従い、目を閉じて、はしごをおさえた。

「はい…。めをとじて、はしごをおさえているよ…」

「じゃあ、そのままめをとじていなさいよ?いま、はしごでおりるから…」

ソロソロとはしごに足をかけると、マリベルは、足を踏み外さないように、ゆっくりと伝い降りていった。

「アルス、ありがと。もう、めをあけてもいいわよ」

アルスが目を開けると、はしごから降りたマリベルが、靴を履いていた。
改めて、マリベルがはしごを使ってのぼっていた木を見上げてみると、なんとも立派な大きな木である。

「ところで、こんなおおきなきにのぼって、マリベルは、なにをしていたの?」

「おねがいごとをかいたたんざくを、かざっていたの」

マリベルは、軒先にある笹に短冊を飾るよりも、空に近い大きな木に飾る方が、お星さまにも近くて、願い事を叶えてくれるのではないかと考えたらしい。
大きな木を探していたところに、ちょうど良くはしごがかかっていた木があったため、その木にのぼっていたのだった。

「そっか、ぼくもたかいきにかざればよかったなぁ…。ねえ、マリベルはどんなおねがいごとをしたの?」

お願いごとの内容を、アルスに聞かれたマリベルは、白い頬をポッと桜色に染めた。
チラッとアルスを見たあと、視線を足元におとした。
少しの沈黙のあと、ごにょごにょと小さな声で、恥ずかしそうにお願い事の内容を言った。

「……スの……めさんになれますように…って…」

何を言っているのかはっきり聞き取れなかったアルスは、マリベルに、もう一度お願い事を教えてほしいと頼んだが…。
聞き取れなかったことが不服だったのか、マリベルは頬をぷくっと膨らませて、ジト目でアルスをにらんで言った。

「もう…アルスのバカッ!フン、あんたなんかに、あたしのおねがいごとなんて、いっしょうおしえてあげないわよッ!!」

「ええっ!そんなあ…」

「だいたいにして、あたしのおねがいごとより、あんたのおねがいごとはどうなのよ?アルスのことだから、『りっぱなりょうしになれますように』なんておねがいしたんでしょ?」

「そうだけど…、マリベル、よくわかったね!」

「ふふ〜ん、あんたのかんがえていることなんて、マリベルさまはおみとおしなのよ!…とにかく、おねがいごとをかなえられるように、しっかりしなさいよね。アルスがりっぱなりょうしになってくれないと、あたしがこまるんだから…」

「え?どうしてマリベルがこまるの?」

アルスの素朴な疑問に、マリベルは、顔をボッと火照らせた。

「だって、あたし………。…べ、べつに、なんでもいいでしょ!アルスのくせに、へんなこときかないでよ!!ほしまつりもはじまるだろうし、もうおうちにかえりましょ!」

マリベルは、アルスの腕をつかむと、引っ張って歩き出した。

「ねえ、マリベル」

「なによ?」

「みんなのおねがいごとが、かなうといいね!」

「…うん」

日が暮れかけてきた薄闇の空に、一番星がキラリと瞬いた。



あとがき
七夕はとっくにすぎたけど、それっぽい話でもと思い、こんな話。
わりと幼い頃の二人。

「アルスのおよめさんになれますように」と、お願い事を書いた手前、アルスが立派な漁師にならないと、網元の娘だし、マリベルが困ってしまうかな〜?と思って。
ま、好き同士なら、漁師以外の職業でも良いと思うが、やっぱりうちのアルスは漁師が目標なので。

2013年7月18日 風の字






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