チョコレートの日 | ナノ
#チョコレートの日

「部屋の中が散らかるから、木を削るなら、外でやりなさい。散らかした木屑は、しっかり掃いて片付けるんだよ。」

「うん。」

母の言葉に頷くと、アルスは、軒先に椅子を出して、腰を掛けた。
浜辺で拾ってきた木片と、手に馴染んだ愛用のナイフを取り出して、釣りの仕掛けを作ろうとしているところに、幼馴染みの少女が声をかけた。

「こんにちは。アルスったら、また飽きもせずに釣りの仕掛けを作っているわけ?」

「やあ、マリベル。良さそうな木片を拾ったんだ。」

「あっそう。…ねえ、あんたは、チョコレートをもらったの?」

「チョコレート…?」

何の事だかわからず、きょとんとしているアルスに、マリベルはあきれたようで、ため息をついた。

「はぁ…、あんたってどうしてそんなに忘れっぽいのよ。…ま、縁のない行事だからなのかしら?今日はバレンタインデーよ。」

バレンタインデー…女性が、好きな男性にチョコレートを贈って、想いを打ち明ける日?…らしい。
この時期になると、フィッシュベルも城下町も、アミット漁とはちがった賑わいをみせるが、アルスにとっては特に関心のある行事ではないので、すっかり忘れていた。

(そういえば、今朝、母さんが作ったチョコレートを、父さんと一緒に食べたっけ。)

ふと思い出して、母が作ってくれたチョコレートを食べたことを伝えると、その答えに、マリベルは満足そうに笑みを浮かべた。

「…ふ〜ん、マーレおばさまからもらっただけなの。モテない男は辛いわね〜。この優しいマリベル様が、可哀想なあんたに、チョコレートをあげるんだから、感謝しなさい!」

そう言って、綺麗に包装された小さな包みを、アルスに差し出した。

「どうもありがとう、マリベル!おいしくいただくね。」

素直に受け取り、無邪気な笑顔で喜ぶアルスに、マリベルはほんのり頬を染めながらも、両手を腰にあて、胸を張ると、照れ隠しなのか、わざと怒ったような口調で言った。

「フン、当たり前でしょ?このマリベル様が作ったんだから、おいしいに決まってるじゃん!…あっ、べ、別に、あんたのために作ったんじゃないんだから、勘違いしないでよね!ただの義理チョコなんだから。…ホワイトデーのお返し、期待してないけど、忘れないできちんとしなさいよね!」

マリベルは、アルスに言いたいことを一方的に言うなり、くるりと踵を返して、自宅に向かって歩いていった。

(そうか、ホワイトデーのお返しか…。何が良いだろう?)

ボケ〜ッと、マリベルの後ろ姿を見送りながら、アルスは、何をお返ししたらよいかと、頭を悩ませた。

(去年は、母さんから教えてもらった、手作りクッキーだったっけ。)

考えても考えても、特に名案が浮かぶわけでもなく、時間だけが過ぎていく。
幸いなことに、ホワイトデーはまだ先だ。
そのうち何か思い付くだろうと、アルスは木を削りはじめた。
黙々と木を削っていると、ぐうぅとお腹が鳴った。

(小腹が空いたな。マリベルからもらったチョコレート、食べてみようかな?)

ひとまず木彫りの作業を中断して、受け取った包みを丁寧に剥がしていくと、綺麗な小箱が姿を現した。
箱のふたを開けると、ふわりと甘い香りがして、色々な形、色々なトッピングがしてある手作りチョコレートが覗かせた。
その中のひとつをつまんでみると、ざっくりとした歯応え、ナッツの香ばしさと、チョコレートのほどよい甘さが口の中に広がっていく。

「とてもおいしいなぁ!そうだ、あとで父さんと母さんにもわけてあげよう。」

アルスは、自分が食べる分のチョコレートをいくつか取りだすと、大切そうにして、箱のふたを閉めた。

(義理で配るチョコレートだというのに、毎年こんなに手のこんだものを作るなんて…、女の子は大変だなあ。)

呑気にそんなことを考えながら、再びマリベルの作ったチョコレートを頬張ると、空腹だけでなく、心がほんわかと幸せで満たされていくような気がした。





あとがき
バレンタイン、過ぎてしまいましたが、まあいいや。
久しぶりに文章を書いてみましたが、かなーり駄文で申し訳ないです。
幼少期というよりは、旅を始めるちょっと前くらいかなと。
アル←マリな感じで、とことん鈍いアルスと、素直になれないマリベルといった感じです。
マリベルはアルスの素直さ(単純さ?)と、笑顔に胸キュンしていれば良いと思います(笑)


2013年2月18日 風の字

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