たまごぼーろ | ナノ
#たまごぼーろ


その丸く小さな焼き菓子を、ひとつ口に運んで噛み砕いてみると、サクッと軽い音がして、ほのかな甘味を残し、かけらはすうっときえていった。

「これが、タマゴボーロと言うものなのか。不思議なお菓子だ。」

目を丸くして、もう一粒口に運ぼうとする雉明零の横で、不満そうにタマゴボーロをつまむ白。

「妾は、すなっく菓子が食べたいのじゃ。」

寝転んで本を読んでいる草凪晃輝は、タマゴボーロを取ろうと、だらしなく這いつくばって、卓袱台の上の皿に片手を伸ばしながら言った。

「仕方ないだろ、スナック菓子のストックが切れたんだから。この天気じゃ、買いに行くのも面倒だしな。」

窓の外は容赦ない強風とザアザア降りで、傘をさしても無意味だろう。

「だからとはいえ、なんでたまごぼーろなのじゃ。其方は、塩辛い菓子は作れぬのかえ?」

もくもくとタマゴボーロを食べている雉明の横で、文句をつけながらも、サクサクとタマゴボーロをつまむ白。
そんな様子を見て、なんだかんだ言っても気に入っているんじゃないのかと思いながら、読みかけのページを開いたまま、本を床に伏せて、晃輝は身を起こした。

「タマゴボーロは手軽で楽だからな。片栗粉、卵黄、砂糖と牛乳少しを混ぜて丸めて焼くだけだ。」

「それだけなのか?」

雉明は、ますます目を丸くして驚いている。

「あぁ、材料は普通にあるものだ。…ただ、ちまちま丸めるのは面倒くさいんだよなぁ。」

晃輝は、皿に手を伸ばしてタマゴボーロを数個つまむと、まとめてぽいっと口のなかに放り込んだ。

「…ふん、ところでお主は、なぜこのような菓子の作り方を知っておるのじゃ?」

白の問いに、晃輝は少し遠くを見つめるような目をして、どこか寂しそうな、それでいて優しい笑みを浮かべて言った。

「…俺が小さい頃、死んだ母さんと一緒に作ったんだよ。」

「…そう…なのか。」

なんだか申し訳ないことを聞いてしまったような気がして、白はうつむいた。

「どうした、白?タマゴボーロ…不味かったか?やっぱりスナック菓子の方がよかったか?」

晃輝が心配そうに白の顔をのぞき込むと、そんなことはないと顔をあげた。

「このたまごぼーろは、晃輝の母上の味なのじゃな。とても…優しい味じゃ…。」

白の言葉に、雉明も頷いて目を細めて言った。

「本当だ…。晃輝のお母さんも、とても優しい人だったんだろうな。」

二人に母のことをそう言われて、晃輝は、少し照れ臭そうに、嬉しそうに笑った。




タマゴボーロを食べていたら、ふと思い浮かんだ話。
即席ですけど、まあいいか。
タマゴボーロは簡単な材料で手軽に作れるから好きです。
2010年6月14日 風の字

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