#17メリークリスマス!(後半) | ナノ
#17メリークリスマス!(後半)


「皆守クンのことだから、クリスマスケーキとか何もないと思って、きちんと準備してあるんだよ!」

えっへんと、お団子サンタが得意気に言うと、横から箱を抱えた赤鼻のトナカイが嬉しそうに笑顔で言った。

「へへッ、ひとっ走りして買ってきたんだぜ♪チョコレートでできたサンタの家もついてる!旨そうなケーキ!!シャンパンもあるぜ!もちろん、ノンアルコールだから」

「そうか」

俺は二人の話を聞きながら台所に立ち、ガス台にある鍋の中を覗きこんだ。
これくらいの量があれば、三人分なら間に合うだろう。

「飯はカレーしかないが、構わないか?」

あぁ…、と、そーちゃんは頷いたが、八千穂が口をはさんだ。

「実はね、あたし、シチューを作ってきたんだよ」

八千穂は床においてある大きなバックから、鍋を取り出してテーブルにドンと置くと、蓋を開けた。
その中には、鍋の大きさに対して反比例な少量のシチューが入っていた。

「………」

訝しげに、俺は鍋の中を覗いてみた。
一応みてくれも匂いもシチューらしいが、なんといっても八千穂が作ったものだ…。

「クリスマスって言えば、やっぱりホワイトシチューでしょ?何度も失敗しちゃって、材料が足りなくなっちゃって…。結局これだけになっちゃったけど、温めてみんなで食べようよ♪」

「…あまり量もないみたいだし、おまえらで食えよ。俺はカレー食うから。クリスマスにはホワイトシチューだなんてこだわらないしな」

俺は、八千穂の提案をなんとかかわすためにそう言って、何気ない振りをしてカレーを温めはじめた。
八千穂には悪いが、もしもシチューを食って、三人全員食中毒(?)。
『メリークリスマス』ならぬ『ベリークルシミマス』(苦笑)な地獄絵図になるのは御免だ!

「え〜!せっかく作ったんだよ、大丈夫だから、皆守クンも食べてよ〜!!」

「俺は今、無性にカレーが食べたいんだ!」

「カレーなんていつも食べてるじゃない!」

「まあまあ、二人とも…」

俺と八千穂の言い合いに、そーちゃんが割って入り、いきなり八千穂の作ったシチューをカレー鍋に突っ込んだ。

「カレーシチューにすればいいだろ?量も増えるし、両方楽しめる!!」

「「!!!!」」

いきなりカレーにシチューを混ぜた親友に、俺も八千穂もしばし声を失ったが…

「…ッ、な、何やってんだ、そーちゃん!!調合じゃないんだぜ!?俺のカレー…」

「もう、蒼太クン!せっかく苦心して作ったホワイトシチューが台無しじゃない!!」

「カレーシチューって意外にうまいから食ってみろって!!」

ニカッと笑い、悪びれた様子のない親友にあきれつつ、俺は量の増えたカレーシチューとやらを仕方なくかき混ぜた。


***


久々に顔を合わせた者同士、簡素な夕食を囲みながら、思い出話をしたり、各々の近況を語った。
話題がつきることはなく、楽しい時間はあっという間に流れていく。
ちなみに、カレーにシチューを混ぜるとは邪道だと思ったが、意外にまろやかな口当たりで、思っていたよりうまかった。
八千穂なんかは気に入ったらしく、今度カレーかシチューどちらにしようか迷った時は、両方を混ぜて作るようにしようと思ったようだが、俺はやはり、カレーはカレーで楽しみたい。

「はぁ〜食った食った!ごちそーさん!!」

デザートのケーキをぺろりと食べ終えると、そーちゃんは満足げに腹をなでて立ち上がった。

「俺、これからまた新しい遺跡にいかなきゃいけないんだ。短い時間だったけど、今日は楽しかったぜ!」

相変わらず忙しそうな《宝探し屋》は、たたんでおいたコートを手早く着ると、頭につけてあるトナカイの角をはずして、俺の頭に被せた。

「二代目トナカイよろしくなッ!…あ、それとこれ、プレゼント」

コートのポケットから何やらとりだし、俺と八千穂に手渡した。
手渡されたものを見てみると…

「…ロウソク?」

「あたしには…マッチ?」

俺と八千穂は不思議そうな顔をして、いまだ赤鼻をつけている男を見た。
そーちゃんはニヤリといたずらっぽい笑みを浮かべ、「また会おうな!」と手を振り去っていった。
…と、同時にバチンと音がして、部屋の明かりが消えた。

「わっ、な、何ッ?!」

八千穂が驚いて声をあげる。

「ブレーカーでも落ちたか…?」

ブレーカーが落ちるほど、電気を使ってはいないと思うのだが…。
ブレーカーを確認しようと立ち上がると、窓辺でピカピカと光るものに気がついた。カーテンを開けてみると…

「わぁ!綺麗だね、皆守クン!!」

ベランダの窓に取り付けられピカピカと光っているそれは、よくホームセンターなんぞで売っているイルミネーションで、色の違う小さな光の集まりが、もみの木と、サンタクロースと、彼が乗っているソリを引くトナカイの姿を表している。
ブルブルと何やらうるさい音がするので、窓越しにベランダを覗いてみると、小型の自家発電機が稼働していた。

「そーちゃんの仕業みたいだな」

どうやら、ブレーカーが落ちたのではなく、そーちゃんがわざと落としていったようだ。
ブレーカーが落ちたら、自家発電機が稼働するように設置していったのだろう。
ブレーカーをあげようと思ったが、八千穂がイルミネーションを嬉しそうに見ているので、すぐあげてしまうのはなんだか悪い気がして、しばらくそのまま黙ってそれを見ていた。
八千穂がはっとして口を開いた。

「…あ、そうか。だからマッチとロウソクをプレゼントしてくれたんだね!皆守クン、ロウソク貸して!」

八千穂に言われて、先程もらったロウソクを渡すと、イルミネーションの光を頼りに、マッチで火をつけた。
辺りはぼんやりとした優しい光に照らし出された。

「ロウソクの光も、なかなかいいね。なんだかとても落ち着くよ」

「落ち着きのない八千穂が落ち着くなんて、明日は大荒れだな…」

「ひっどーい!あたしってそんなに落ち着きない?」

「…八千穂で落ち着いていると言うんなら、他の連中は落ち着きすぎているどころか、死んでいるようなもんだろ…」

「なにそれ〜」

俺の答えに不服なのか、炎の揺らめきの向こうにいるサンタは、ほほをぷうっと膨らませた。

「…あッ、そうだ、皆守クン」

「…ん?」

思い出したように八千穂は鞄の中をごそごそと探ると、綺麗な紙袋を取り出した。

「はい、クリスマスプレゼント!」

俺は、八千穂が差し出したそれを受けとった。

「…中、見てもいいのか?」

俺の問いに、八千穂はうんと頷き、なにやら小声で呟いた。

「…気に入ってもらえたらいいけど…」

紙袋の封をきれいに剥がして、中身を取り出した。

「…毛糸の手袋か」

八千穂は、少し不安が混じった表情で俺を見た。

「…うん。皆守クン、いつも寒そうにポケットに手を入れて歩いてるでしょ?手袋で寒くないようにって思って…。もしかして…持ってた?」

「いや…」

持っていないと告げると、八千穂はよかったと胸を撫で下ろした。
思いがけずプレゼントをもらったはいいが、俺は八千穂に何もプレゼントを用意していない。
せいぜいあげられるものと言えば…

「手袋、ありがとうな。…俺は何も用意してなかったから、こんなもんしか無いけど…、ま、飲めよ」

先程、暖をとるために、自販機で買った缶コーヒーをコートのポケットから取り出して手渡した。
時間が経ったので、すっかり冷めてしまったのだが。
八千穂は缶コーヒーを受けとると、それを手の中で転がしながら笑って言った。

「ありがとう。…えへへッ、皆守クンらしいね。寒くて買ったんでしょ?」

ズバリ言い当てられた俺は、少しばつの悪い顔をして「まぁ、そんなところだ」と言いながら、もらった手袋をはめてみた。
サイズも丁度良く、温かい。

「…でも、これからは手袋があるから、あまり寒くないかもな…」

手袋を見て、ふと笑みを浮かべると、

「…うん、そうだね!よかった♪」

と、お団子サンタが嬉しそうに微笑んだ。






後半…クリスマスから約一ヶ月後に更新…orz
クリスマスなんて過ぎ去った過去です。
しかもうまくまとまりきらなくてすみませんー(+_+)
今回はイルミネーションとカレーシチューがやりたかっただけです(笑)
カレーシチュー、意外とうまいんッスよ!!
機会があれば是非!!!(口に合わなくても責任はとれませんが)


2010年1月22日 風の字

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