半身

※現パロ、若干えろ





 “したがって、ぼくらはひらめのように一つのものを二つに断ち切られたのだから、一人一人が人間の割符というわけだ。だから誰でも自分の割符を探し求めるのだ。(中略)ほかならぬ半身に出会う場合には、少年を恋するものであれそのほかの誰であれ、皆そのときには友愛と近親感と恋情とにその心はまったく異常ともいえるほどに深い感動を受け、僅かの間さえ互いに離れる気持になることはないといってもよいくらいだ”

「――以上、プラトン『饗宴』より抜粋」
「んぁ?何か言ったか?」

いいや、なんでもねえさというと男は分厚い全集を閉じた。重圧な音をさせて閉ざされたそれは乱雑に書斎の肥やしになる。それからバランスを崩し、ある意味調和の取れていた本や紙束の山を崩壊させる。しかし、落ちた八桁ほどの数字が書いてある書類や使われていない小切手などがバラバラと落ちていくのに目も止めず男は自分の足の間にうずくまる茶色い後頭部を優しく撫でる。静かな部屋に水音が響き渡り、二人分の荒い息遣いが交差する。
男の背後のブラインドから線状の光線が入り込んで閉め切った部屋をまばらに照らしていく。

男は相も変わらず栗毛色の後頭部を撫で続けている。薄い色素の髪の毛に覆われた顔立ちは暗がりでも整っているのがわかる。その精悍な顔が男の精器をくわえ、愛撫している。時折、鼻から小さく声を漏らしながら男の竿全体を濡らしていく。

「ん、ふ……なあ、ひらめってうまいよなぁ」
「おい、さっきの引用からそんなところ持ってきたのかよ、知識人が泣いてるぜ」
「やっぱ生か焼いたのかって言ったら焼いたのだなぁ」
「なんだお前さんあんなに乗り気だったのにもう飽きちまったのか?」
「違うって、リップサービスってやつなの」

はいはい、とたしなめるように後頭部を撫でれば奉仕を再開した。出会い頭に今日はしゃぶってやるよと言われたので素直にその申し出を受けたわけだが、さっきのやり取りでだいぶ空気が変わってしまった。それでも男のものをくわえつづける咥内の温かさや舌先で施される愛撫にそれは素直に反応を示しやがて頂点へと上り詰めようとしていた。余白のなくなってきた頭の中でもしっかりと壁にかかっている時計を確認することはできた。そろそろ時間がない。

「…手杵、もういいぞ」
「……ふ、んぁ」
恍惚とした顔で性器から顔を離して大きく口を開ける。当たり前のようにして見せた反応に男は苦笑を隠し得ない。好きモンだなぁと揶揄するように言ってみたが、いいからと焦れたような返事が来たのでご要望に応え自分のより白く造りの細い手を使って自分の性器を扱けば待ちわびたように飛び出したそれを桃色の口内が受け止めた。それから口のわきに飛んだ残骸を指で押し込みそのあとすぐにこくりと咽喉が上下した。飲み込んだのだとわかると男は満足げに笑う頭を撫でた。

「別にわざわざ飲まなくたっていいんだぜ」
「ん、いいの俺が飲みたいからさ」
そのままゆっくりと顔が近づいていき唇同士が触れ合う。赤い舌先が伸びて絡み合い深い口づけになる。お互いに呼吸を奪い合っていき、男の首裏に伸びた細長いしなやかな腕がきつく絡み、男の牙が甘く健気な舌先をかみくだいてゆく。殺し合いのような激しい情愛をぶつけ合ったところで艶やかなフローリングの重たい扉が叩かれる。

「社長、お時間です」

恨むべきは扉の中の情事を知らず呑気に声をかけてきたこの男ではない。わかっていても離別の時はこの男を少なからず苛つかせる。

「じゃあ俺もそろそろ戻るな、仕事頑張って来いよ社長」
「……おう」

それでも寂しいという顔を隠しもしないで穏やかに笑うものだから男もつられて笑うしかないのだ。すぐに会えるとわかっているのに一瞬も離れるのが惜しいなどと思うのはやはり彼が自分の求めていた半身だからなのだろうか。

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