「あー疲れました」

そうけだるそうに言えば、目の前には我が尊敬する三番組の組長さんは眉をひそめ、こちらをじっと見るだけだった。
普段から無口の組長、斉藤一氏、もとい、斉藤さんは刀を鞘に収めるとじっと私を見つめていた。
その熱視線を感じると逆に笑えなくなる。
私はわざとらしく、刀を収めた鞘ごと放り投げるように地面に置いた。
汗で濡れた髪の分け目をいじると

「疲れるほどでもなかろう」
「それ、斉藤さんだけですって」

といつも通り言い放つ斉藤さんに光の速さで言葉を遮った。
斉藤さんは一匹狼というか、本当に一人でいることを好む人だ。
それなのに、仕事熱心とか、結構熱い心の持ち主だとか、矛盾ばかり感じてしまうときもある。
でも、尊敬はしている。
これを尊敬しているだけですとみなに伝えたら、それは違うだろうと真っ向から否定されたことがある。
周りの人間いわく、私は斉藤さんに恋愛感情なるものを抱いているらしい。
要するに私の尊敬は「斉藤様、お慕いしていますわ」というものにみんなに見られている。
女でも新選組で今まで幹部の一人としてがんばってきたけど、やはり真剣勝負では勝てないのだ、もともと私は男物の剣なんて使えないし、脇差の方がまだ身に合っているのにいつまでもそれでは行かんぜと鬼の土方さんがおっしゃいまして、私は斉藤さん監修の元毎日血が滲むとはまさにこのこと、血豆が出来て、潰れて、おまけに切り傷の耐えない毎日を過ごしている。

必然、私が斉藤さんに勝てるはずもない
当然、速さも技量も斉藤さんが上、
それなのに死ぬほど相手にされるなんて釈然としない

「仕方ない、少し休憩にする。今、水を持ってきてやろう」
「お水じゃなくて、おいしいものがいいです」
「……」

無言でじっとこちらを見る斉藤さん。
あぁ、これは贅沢言うなと目で訴えているがまるで以心伝心のように伝わってくる

「ねぇ、斉藤さん」
「なんだ」
「なんで土方さんは急に斉藤さんに教えてもらえなんて言い出したんでしょうかね?」
「さぁな」
「ふぅん……」

どうも納得いかない。
まるで切腹をしろといわれたようなもの(私は女だから切腹は命じられることはないけど)でも、あれだ。

「やっぱりいくらがんばっても届かないんでしょうかね」

私は新選組の幹部の人たちのように剣術に優れているわけでもないし、力があるわけでもない。
どんなに手を伸ばしても埋まらない距離だってある、それは痛いほど身にしみている。
だからこそこうやって必死になって足掻いているというのに、斉藤さんの手加減なしったら、そんな努力も踏みにじる。
こうやって感傷に浸ったって、仕方ないと分かっている。
だからこそ、私は努力を惜しまないようにしている、面倒ごとは避けるけど。
無言のまま、こちらを見るだけだった。

「でも、いつか斉藤さんたちの背中を預けられるようになるまでがんばります」
「俺たちは後ろを向きながら歩かねばならないのか……」
「ひどくないですか、それ」

いきなり高々と宣言した私にとどめをささなくてもいいと思う。
今の言葉、無駄な努力だと変換されて胸にぐっさり刺さりましたけど。

「……なんですか?」

口をへの字のまげて、私があさっての方向を向いていると斉藤さんはこちらを見て、ふっと表情を崩して笑った。

「しかし、努力を惜しまないものは嫌いではない」
「はぁ……」

これはもっとがんばれと受け取っていいのだろうか?
斉藤さんはそのまま私の頭を撫でる。
まるで妹をあやすかのようにそれから、何も言い残さないままおそらく最初請求したとおり、水を取りにいってくれたのだろう。
私は思わず、その場にへたれこむ。
私ががんばる本当の理由は新選組のみんなに信用してもらうためでもなくて、本当は一人で何でも抱え込む斉藤さんを支えたいからそれだけ。
それが言葉にしなくて彼の言いたいことが伝わってくるというある意味、斉藤さんだけに通じる特別な力?を持つ私の使命な気がしてきた。

それが恋愛ってヤツなんだってー。
と、平助君の声が耳から離れないし、沖田さんの噴出しそうな顔も忘れない。

「恋愛って、なんなんだろ……」

もやもやとした気持ちを抱えながら、私はにくいほど青い空を見上げながら土のついた剣を拾った。


ずっと傍にいたい
 (この気持ちはなんだろ……)






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