お願いだから、もうの続き。
死ネタ注意です。




僕がそこに行くまで


奇妙だ、自分が。
新選組の沖田総司として出会った一人の少女。
本当に偶然、踏みつけた少女。
胸を押さえ咳を混ぜながら「ふざけないで」と平手打ちを受けた。
そんな衝撃的な出会い。
その日、屯所に帰ったら土方さんを含め、みなに女に振られただの散々、いじりの道具になったことを忘れない。
一言文句でも言ってやろうと再び忍び込もうとしたとき、年若いあの少女が胸を抑え、咳を繰り返し血をも吐く姿を見た。
そのとき自分にも将来ああなるのか、と確信に似た親近感が生まれてしまった。
本当は、こんな馬鹿正直に新選組のことを他人に話したりしない。
ただ、僕が話すとき、一瞬でも彼女の瞳に灯りがともるなら、それでいいかも知れない

僕は何時からか、儚い命、散りかけの華に恋をしたのだ。








僕にはまだ時間がある。
少女には他人を想えるほどの時間がなかった

ただその少女は目に見て分かるほど、体は痩せ細り、顔色はまるで死人のように青くなり、幽霊にでもとり憑かれたように体を震わせた咳を繰り返す。

「お願いだから」

もう来ないで、と告げられて幾日。
もしかしたらもうこの世界にはいないかも知れないそんな不安と、疎外感を感じながら彼女の家を訪ねるとまるで死を予感させる白装束を纏った少女がそこにいた。
まるで胸に大きな穴でも開いたかの用に、深い呼吸を繰り返し、汗も止まらないらしく、白い装束は全身に水をかけられたかの用にぬれて所どころ透けていた。
額にかぶせてあったであろう、手ぬぐいは頬まで落ち、ぴたりと張り付いていた。
そんな状況にもかかわらず看取る人間は誰一人としていない。
少女は言っていた、確信はないけど、私の病は人に伝染するものかも知れないと。
でも、どうだろうか、僕だって同じような病を患っているが、彼女と逢瀬を交わしても一度だって体を崩したことはない。
それよりか必死に戦う彼女の姿を見て、少しは変わったかもしれない。
彼女の病魔の正体が分からない、もしかしたらそれは人から人へと伝染するもので、
なんて
そんな馬鹿みたいな誤解が最後まで彼女を孤独にしている

「お、き…たさん?」
「気分はどう?」

最悪な質問が口から滑って出た。
汗ばんだ顔を手ぬぐいで拭ってやると彼女はへらっと笑った。

「たいしたことないですよ」

それは小さな、そして無理のある強がりだった。
彼女の顔を見る限り僕は歓迎されていないのがちょっと落胆の色を見せる。

「何をしに来たのですか?」
「君の答えを聞いていないなって思って」
「答え?あぁ……本当は言うつもりもなかったんですけどね。でもずっと寝ていて暇だったので考えてしまいました」
「じゃあ聞かせてくれる?」
「どうしようもない人ですよね、沖田さんって

と笑う少女。
ふぅと大きなため息つくと思い出でを語るように言う。

「私は昔から、お父様とお母様から必要されていないと思っていたわ。実際そうだもの。私には姉さまが沢山いるし私一人いなくても困らないだろうし」
「そう」
「でもお父様もお母様もくらいではないの……ただもう少しかまって欲しいだけなのかもしれない……。でも願うだけで、私は一度も会いにきてくれた人を引き止めたこともなかった。だから、私は一人だった」
「ねぇ、それが苦しいの?」

うん、と小さく頷いた少女。
その声は僕の耳にやっと届くものだった
少女の力ない腕を取ると体温をすでに失っていて、握り返すこともできなかった。

「あったかいですね……」
「君が言いたいことはそれだけなの?」

言いたいことがあるなら言えばいいんじゃない?
本当は違う、彼女の最後を予期した自分が言って欲しいだけ

「沖田さん……最後に一つだけ」
「うん……」

もう分かっている、彼女はもう長くない、たぶんもう、

「私は今、幸せですよ。だから、私は、最後に」

あなたに伝えます
「好きです」その言葉を聞き終わる前に僕は彼女を抱きしめていた。
力ない肩では彼女は受け入れることしか出来ずにいた。

「僕もだよ」
その言葉を聞いた彼女は胸の中で小さな嗚咽を繰り返し、繰り返し泣いていた。
彼女が愛おしいと思うのはきっと同じものを知っているから、同じ苦しみを分かち合えるような気がするから

「なんで、おきた……さんは私を……」
「似ているんだ」
「似ている?……ごほ……顔はまったくにていない、ですけど」
「僕も君と一緒」

と、彼女の胸を叩くとその一言ですべてを察したようでただうなづく、もう喋るのも辛いようでただ何かを察したように僕の胸に肩耳をつけてその心音を聞く。どんな音が聞こえるか?と聞けば「あまり、いい音じゃないです」と首を振るだけだった。
「それなら」と彼女は血を混ぜた咳を繰り返しながら僕の頬を触った。
彼女から奪われていく体温は残酷にも僕たちの時間を裂いていく、
人が死ぬのが悲しいとか、死なないで欲しいだなんて思ったのは初めてで、このどろどろした感情の捌け口はどこにもなく呑み込んだ。

少女は最後に言った、あなたと一緒でよかった、と

そして「まだ死にたくない」

まるで夢の中にいたようだった、自分では何も出来ない、ただ目の前の出来事が勝手に進んでいく、
手を動かすことも自由な言葉をかけることも出来ない、
冷たくなって、もう喋ることも笑うことも瞳を閉じることさえ許されなくなった色のない君と初めてでそして最後の口付けを交わした。
彼女に言葉を投げるたびにそれは自分に帰ってきた、病気だからって言いたいこともいえないのか、
それは僕だって同じだ、誰にも打ち明けられないのだから
仲間や身内に言う勇気すら持ち合わせてもいないし、言ったって何も変わらないと信じている


待っていたら、いつか叶うと思っているの?
そんなの当たり前だ、
そんな心のない一言で泣いていたかもしれない、
何か為したいことはないのか、君は最後の最後で勇気を持って逝ったよね


分かっていて、君の亡骸を抱いている、おかしいな

何で涙が止まらないのだろうか、

何で僕は君みたいに泣いているんだろ、
灯りを失った、君の瞳からは一筋の光が頬に伝わって僕の袖をぬらした



僕と君、遠いようで近いところにまだいるんだ、
いつか僕も君に会いに行く日が近い
どうか、それまで

僕のことを恨まないで、待っていて




どうか、それまで
 (結局僕は君の事を想えなかった)





言い訳
やりたかったんですもん!
沖田さんを泣かせたかった!(うるさい
どうでもいい補足ですが、夢主ちゃんの病名は結核ではありません。
沖田さんとは別の病気でどちらかというと心臓の病なはず。
そして感染病でもありませんです、最初は狐憑きみたいな話を書こうかと思ったのですが、ある意味シャレにならないものが出来そうだったので辞めました。
我がサイトの沖田さん、偽者すぎますよね。
これは、あれです、ボカロの時忘人とリグレットメッセージを交互に聞きながら書いた作品です。
もしかしたら、このサイト初☆かもしれない死ネタ。
ヒロインの死ネタと甘い話はどうも苦手です、致命的ですよね。
近いうち書き直します。
この後こそ斉藤さんを書いて、そしてちょっとギャグに走ろうかなって思います。
ここまで読んでいただきありがとうございました


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -