「にしても総司のヤツ本当にみあたらねぇな」
「なぁ、もう屯所の中にいないんじゃねぇか?」

大きなため息を吐いた。
3人がかりで屯所内を探し回ったけど沖田さんを追いかけるどころかその姿さえ見当たらない。
夕刻までもうそんなに時間はない。
探していないところ、一つだけ覚えがあるけどもそれを口に出すのは引ける。

「まぁ、外に出ちまったのかもしれねぇな」

困ったな頭を掻く永倉さん。
本当に外にいるとするなら私は探しにいけないし。

「じゃあ、千鶴はもう少し中を見ていてくれねぇか。俺たちはあいつが行きそうなところを見てくるから」

無言で頷いた。
がんばれよと大きく手を振っていってしまう。
屯所を出てしまった時点で沖田さんの負けな気もするけど、沖田さんはこの新選組で一番気分屋だし「そんな決まりだったけ?」なんて言われたらどうしようもない。

探していない場所、なんて。


「沖田さんの部屋くらいしか……」

といいながら、私は疲れきって重くなった足を震わせながら沖田さんの部屋の前に立っていた。
沖田さんの部屋に入るのも近づくのも避けていた私は、彼の部屋の前に来てしまったことをかなり後悔している。
私は障子に手をかけてこっそりと沖田さんの部屋を覗いた。
隙間から見える沖田さんの部屋はきれいに片付いていてすっきりとしている。
何より、部屋の主はここにいないらしく、私は体の硬直を抜いて部屋を空けた。

うん、今は遊び……勝負の最中だし、仕方なく入ってしまったとか。
私は障子を開けて小さく「お邪魔します」と誰もいないはずの部屋に許可を取る。

部屋に入ると障子を閉めて、外からは見えないように気を回した。
改めて部屋を一瞥すると壁掛けと刀の模造品が飾られいるくらい。
さすがに納戸の中を覗くわけにはいかない。

気になるけど、ここまで来てしまったらとか考えているけど、
いけないと首を左右に振る。
今の私をはたから見ている人がいたとするならば私はかなり変な人間だと思う。

「仕方ない、か」

いなさそうだし、部屋を出ようとしたとき、足音がした。
部屋からではなく、外の縁台からだ。
誰かが来たとすれば疑われる、その前に部屋から出ようとしたそのときだった。
私の影に何かが重なった。
反射で振り向いたときにはもう私の視界は反転していた。

「んっ!?」

そして喉を押さえられ、口を塞がれる。
すごい力でずるずると後ろに引きずりこまれる。
振り向くことも許されなくて私は暗い場所に連れて行かれる。

「だれ!?」
「しっ」

そして片手で前の扉を閉める。

「静かにしてね」

おっとりとした声は間違いなく沖田さんだった。
納戸に連れ込まれて後ろから私を抱きしめるようにして口を塞ぐ沖田さん。
後ろを向くといつもと変わらない笑みを浮かべて口元に手を当てる。
今まで何をしていたんですか、
急に何をするんですかと問い詰めることは沢山あって口元を覆う手を取ろうとしたとき

「静かにしないと本物の鬼が来るよ」
「?」

もごもごと息をするのも辛いと思うし、おまけに何より
沖田さんが近い、狭い納戸の中で体を丸くしている私たちの距離はまったくない、
お互いの呼吸音も、心臓の音一つ一つが重なって聞こえてくる。


どきどきと胸が高鳴ってどうしようもなくなったとき、ばんっと弾くような音が聞こえた。
心臓が止まるかと思った。
納戸の外から不機嫌な舌打ちが聞こえてくる。

「っち、総司やろうもいないのか。平助といいどこ行きやがった」

さぁと血の気が引いた。
そういえば朝から土方さんが探して回っていると聞いていたけど、その手がここまで及んでいるとは。
しかもかなり不機嫌だし、これはもし今見つかったら徹夜で説教されるに違いない。

「ね?」

と沖田さんは笑った、足踏みする音が一番に響いて遠くに消える。
やっと私の口元を押さえる手が退いたのと同時に私は振り向く。

「沖田さん、今まで何をしてるんですか!?」
「んー。ここで君が来るのを待っていたんだよ」
「私は一日中、探して回っていたんですよ」

「そうなんだ」とあくびを混ぜながら言う。

「今まで寝ていたんですか?」
「んー?」

何のことというように首をかしげる沖田さん。
眠気眼を擦りながらこちらじっと私を見る。

「言いだしっぺがこんなところで」
「怒ってもいいことないよ」

沖田さんのつかみどころのない性格はいつものことで何を言っても無駄とか強制は不可能とか分かっているはずなのに。
それでも口にしてしまうのはなんというか、私の中まだ憤怒の心が消えないから。
そんな私を見て、無邪気に笑った沖田さん。

「そんなことよりいいの?」
「え?」

ね、と私を見る沖田さん、
よくよく見ると私の体制は沖田さんにがっちりと抱きしめられて、距離もまったくといっていいほどにない。

「あぁ、そうだ。これは頑張ったご褒美ね」

と笑って私の額に唇を落とす沖田さん。
その瞬間私は真っ白になって、何も考えられなくなってまともな言葉も喋れなくなってただただ笑う沖田さんの肩を押して、納戸から出ようと抵抗を図ると、行かせないと私をがっちりと抱きしめる。
そして悶着した後に、私はやっとその手から逃れることが出来た。
後ろから押されるように畳に投げ出されてそのまま顔面から突っ込んでいく。

「は、な」

が痛い。
これ折れているんじゃないかな、というかもげているんじゃないかと鼻をさすってる。
額も痛いし、あぁもう最悪だ。
「大丈夫?」と沖田さんが手を差しのべてきて誰のせいですかと毒づこうとしてたらぴしりと障子が開かれる。
目の前に浮かぶのは鬼、ではなく、鬼副長、ではなく土方さん。
あぁ、今だと鬼の角が生えているように見えると土方さん。
散々探し回ったせいか、汗をかいて不機嫌そうなのに不気味に笑う鬼副長を見て、背筋からぞぞぞと撫でられたような奇妙な悪寒と全員から絞り出てくる汗。

「てめぇら、他人の用事があるっつってんのに逃げ回るとはいい度胸じゃねぇか」
「あ……」

うまく言葉に出来なくて、立ち上がることも出来なかった。
頭を抱えながら「千鶴ちゃんのせいだよ」と言い放つ沖田さんに今まで感じたことない殺意を覚えた。

「それに、屯所内で二人して何してやがる」

青筋が立った鬼の形相をそのままうつぶせの状態でただ、唇を震わせながら見ているしかなかった。





「何で俺まで……」
「それは私の台詞ですよ」
「あー。お腹空いた」
「おい、総司寝てるんじゃねぇよ」

まだ寒い廊下で4人並んで正座をする姿を何人の人に見られたか。
冷たい視線を投げかけられたり井上さんにいたわりの言葉をかけられたり。
とにかく夕飯を抜かれたのが辛い。
ただ文句をたれる二人と、半分夢世界の沖田さん、喧嘩する二人の間に挟まれて気力を失いつつある。

私は沖田さんの方に乗り出して大切なことを伝えておく。

「私の勝ちは勝ちですからね」
「あれ、そうだっけ?」

うん、そうだねととぼけたように呟く沖田さんに何をしてやろうかとただ復讐を考えていた。


鬼ごっこ 後編
 (勝ちは勝ち、負けは――)



言い訳。
またかいててよく分からなくなってます。
一緒に書いている悲恋とか、もっと不明なことになっていたり。
近いうちちゃんと書き直します……。
ちなみに、たぶんまだまだ続きます。





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