「鬼ごっこですか?」
「うん」

満足そうに頷いた沖田さん。
不意に沖田さんがこぼした提案に私より隣に座っていた平助君の方が「なんだそれ?」口に団子を詰めながら疑問を浮かべた。
平助君に喉に詰まらせるなよとお茶を差し出す永倉さんも「で?」と話を持ち直した。

「何でいきなりそんなこと思いついたんだ」
「だって、千鶴ちゃん。最近そうやって平助君と菓子ばっかり頬張っているでしょ?横に成長したら困るなって」
「わ、私。そんな」

見た目変わりましたか!?
と、笑って私の後ろに立つ沖田さんに問い詰めると「少しね」と包み隠さない返事が返ってくる。
最近、原田さんや永倉さんが買ってきてくれるお菓子を平助君とよく食べているけど(今だってそうだし)
まさか、そんな風に思われていたなんて。

「でも、やることないし。いいんじゃね?」

暇だしな、と平助君はお茶をすする。
二人は巡回がないってだけ、そんなときは隊士さんに稽古をつけていたりするんだけど、今日は押し付けてきたと言っていた。
沖田さんは知らないけど、朝土方さんが探していたような気がする。

「でも、ただ鬼ごっこなんてやっても楽しくないだろ?」
「そうだよな」
「いろいろ考えてるよ。まず、鬼は千鶴ちゃんね」
「え?」

何で私?
不平等に決められたことに不満を漏らそうとすると、まるでその反応を待っていて楽しむかのように沖田さんは笑った。

「だって、鬼じゃない?」
「おー確かに、これが本場の鬼ごっこってヤツになるのかな」
「お前ら、誰がうまいこと言えと」

言い返せないのがとても歯がゆい。
私の言葉を代弁してくれた永倉さんに感謝をしつつ、この状況はどうやっても打破のしようがないらしい。

「で、鬼は交代制じゃなくて、捕まった人から死んじゃったって事で」
「妙に現実的なんだな」
「死んじゃうって」
「それで、夕刻までに全員を捕まえたら千鶴ちゃんの勝ち。もし一人でも捕まらなかったら、捕まえられなった人の言うことを千鶴ちゃんは素直に聞く。全員捕まえたら言うことなんでも聞いてあげるよ」

私が有利なのか、不利なのかよく分からないのだけど。
今は昼前、夕刻まで十分ある。
沖田さんの話を聞く限り範囲は屯所内だけみたいだし、言うことを聞いてくれるという。
とりあえず、もし勝てたらなんて思ったのが間違いだった。




「誰もいないのだけど」

一刻は歩き回っただろう。
屯所だっていくら人がいるからってそんな大きいわけじゃない、これでも探せる範囲は探しきったはず。
というより、誰も見当たらない時点でこれは鬼ごっこというよりもうかくれんぼって言ったほうが正しいんじゃ。
夕刻までまだ時間は沢山あるけどこのまま隠れられていたら私は絶対負ける。
何より、見つけたとしても逃げられたら男の人の脚力に勝てるはずがないのだから。

それより、

あまりふらふらと出歩くな、と土方さんに怒られそうだ。
近藤さんだったら笑ってくれそうな気もするけど。

「あ……山崎さん」
「どうした?」

今日はお休みの日なのか、私服で本を抱え歩く山崎さんに声をかける。
見つからないとなればもう聞き込み作戦しかなかった。

「お忙しいところすみません。沖田さんと永倉さん、平助君を見ませんでしたか?」
「さぁ、今日は見ていませんね。先ほど副長から同じような質問をされましたが?副長に言われているのですか?」
「いえ……」

土方さんが探している、その言葉になぜか悪寒しか走らないのはなぜだろうか。
山崎さんが「どうかしましたか?」と抑揚のない声で聞いてくるけど土方さんの怒声が今にでも飛んできそうなので、ただ苦笑いを浮かべる。

「そういえば、千鶴さんも朝からお忙しいようですが、何をなさってるんですか?」
「え、あ」

まさか、鬼ごっこして遊んでますだなんて口が裂けてもいえない。
いや、私にとっては遊びというより一つの賭けで、まけたら何をやらされるかわからないのだ(沖田さんに)

「何でもないんです、ただその、あ」

あせってなんて口いしていいか分からず言葉を濁していた私を無視して隣をすり抜けたのは、斉藤さんだった。
相変わらず表情は硬いままで私が呼び止めると、いやな顔せず(たぶん)とまってくれた。

「何用だ?」
「いえ、あの。斉藤さん!その、沖田さんの平助君と永倉さんを見かけませんでしたか?」

すると、淡々と言葉を並べる。

「総司は知らないが」
「そうですか……」
「しかし、平助と新八ならば、先ほど」
「見たんですか!?」
「食堂で昼飯を取っていたが、問題でもあるのか?」
「え?」

口元が引きつって体が硬直した。
斉藤さんはいつもどおりだけど私と山崎さんの空気が一気に凍りついたと思う。



どたどたどた、
そんな音が似合うように、私は廊下を走りぬける。
離れにある食堂に向かうと、扉も開けていないというのに聞こえてくるいつもどおりの陽気な声。
私は内心呆れながら、少しだけ納戸を開いた。

「やっぱり最高だよな。軽く運動した後の飯って」
「ちょ!何さりげなく他人のおかず盗ってんだよ!」
「お前だって人のもんに箸つけているだろうが」
「これでお相子様だな!」
「平助、てめぇ」

いつもどおりの食事風景。
二人並んで箸を突っつき合っている。

私は言葉を失ったまま、後ろから彼らに近づく。
そして、二人の間に割って入り、肩を叩く。

「何をしているんですか?」
「まぁ、腹ごしらえってやつ。ほら腹が減っては戦は出来ぬっていうじゃんって、うお!」

反射的に振り向いた、二人。
でもそのときにはもう私は二人に触れていた。
子供のように顔にごはん粒をつけたままぽかんとこちらを見る二人。



それから、二人の食事が終わるまで待っていると、平助君が不意に漏らす。

「にしてもヒキョーだよな」
「私?」

私を指差して言う平助君。
「だってさ」と机に頬杖を吐くと

「山崎君に聞き込みしたり、挙句には背後からこっそりだなんてさ」
「人がまじめにやっているのにご飯食べていたのはどっちですか」
「まぁ、捕まったもんは仕方ねぇよな」

永倉さんは深いため息を吐く。
山崎さんは用事があると早々に席をはずしたので私たちは気兼ねなく、今回の遊戯?の話を持ち出す。

「後、見つけてねぇのは総司のやつだけか」
「というか、これ本当に鬼ごっこなんですか」
「まぁ、俺たちも隠れる気はなかったんだよ。ただ屯所の中は大きいからな」

最初は夕刻まで時間もあるし、みんなの力を借りれたしでこの仮、鬼ごっこは有利かと思ったけど、隠れられてるとするならばかなり不利かもしれない。

「よし、千鶴。ここは一つ取引きしねぇか」
「取引、ですか?」
「このまま、総司のやつが逃げ切ればあいつの一人勝ちになって俺も、お前もどんな目に合うかわからねぇ。そこで一緒に総司のヤツを探し出そうぜ」
「いいんですか?」
「その代わり、負けた俺たちには何もお咎めなしってことで」
「わかりました」

もともと、何かするためにこの遊戯を始めたわけじゃない。
むしろ、強制的に参加させられたわけで一刻も早く沖田さんを見つけ出して身の危険を確保しなくちゃいけない。
前にも沖田さんの悪知恵のせいでしばらく誰とも会えなくなったり、からかわれたりとあったんだ。

「それじゃあ、協力つーことで。さぁて、総司に何をしてもらおっかなー」

くつくつと何か案を思い浮かべているのか平助君が手を突き出して笑っている。
どちらにしても頼もしい味方が増えたのだから、今度こそは沖田さんには負けない。

そう、信じたのが間違いだった


鬼ごっこ 前編
 (忍び寄る影)





いいわけ、初めての微裏と交互に書いたものだったので自分でも何がいいたいか、あぽんたん。
オチは決まっていますが、相変わらずのぬるさです。ギャク〜ほのぼのの間で書いたつもりだったんですけど。
この三人の組み合わせ+斉藤さんが好きかもしれない今日このごろ。
でも斉藤さんと山崎さんが空気^^^^
後半は近いうちにアップします、こちらは少し甘めにオチってます(何語




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -