争いは絶えない

ギルドの街ダングレストは異様とも思える空気に包まれていた。
それは確か、少し前にもあった。
帝国とギルドが前面戦争をする危機に瀕したときだった。
そのときと今がまったく同じ、街はぴりぴりしていて、道行く人間と目が合っただけで罵り合いが始まりそうだ。
ただでさえ、血の気が多く争いが絶えない街なのだから。

「俺はこいつを連れてドンの所に顔を出してくるわ。長くなりそうだから宿屋で待っててよ。エルちゃんはどうする?」
「ユニオンのことに口出しできる立場じゃないもの。私は自宅で待ってる」
「そ、じゃあ長くなりそうだからおたくらも宿屋で待っててよ。終わったらいくからさ」
「待って!……僕も……行っていい?」
「うん?こりゃユニオンの問題だ。来ても話にゃ混ざれないと思うぜ」
「あの……その話とは別に聞きたいことがあって」

聞きたいこととはカロルの問題。
だからこのこんな時に私情を挟むのはとカロルは言い出しにくかったのだろう。

「あとで聖核のときに一緒に聞けばいいんじゃないの?」
「みんなとは……聞けない」
「良いんじゃないの?ついていっちゃえば。レイヴンと一緒にいればその機会があるかもしれないし」
「長い話じゃないならいくだけいってこいよ」

私とユーリがカロルの背中を押すとカロルは何かを確信したような笑みで笑い「ありがとう!いってくるよ!」とレイヴンの後を追う。
ハリーもふらついた足でレイヴンにつれていかれた。

「ドンのこと……よろしくね」
「わかってるよ」

私が隣を通り過ぎるレイヴンに小声で託すといつもの頼りないレイヴンとは別人のような声で頷きレイヴンはカロルに手を引かれてギルドユニオンに向かう。

「聖核の話も聞けないでしょうか……?」
「そりゃ長い話だろ」
「そうよね……で、あんたは言いわけ?」
「ギルドユニオンに顔出せる立場ではないもの」

ギルドユニオンを追い出された自分としてはそんなことできるわけがない。
仮に出たとしても、天を射る矢のみんなにいろいろ言われるのは耐えられない。
こんなときだからこそ下手な真似をしてユニオンを混乱させたくない。
いつか聞かれたら事情を話さなければいけないとはわかっているけど。


急にパティが私たちの横をすり抜け歩き出す。
そしてダングレストの街をぐるっと一望をし

「うちはこの街に来たことがあるのじゃ……たぶん」
「また、たぶんね」
「そりゃアイフリードにもゆかりある街だしな。じいさんについてきたとしてもおかしくないじゃないのか?」
「ほじゃな。ちょっと辺りに話を聞きにいってくるのじゃ」
「ノードポリカやマンタイクみたいにならないように気をつけろよ」

両手を振ってパティはダングレストの街の広場に向かっていく。
私は地面踏みしめ靴を鳴らすと「それじゃあ私も」と歩き出す。

「お前はどこに行くんだよ」
「パティを一人にしておくと大変でしょ。パティの気が済んだら宿屋に届けるね。私は自分の部屋で休むから」
「わかった。暴走しないように見張っててくれ。先に宿屋に入ってるからな」
「りょーかい」

ひらひらと手を振ると私はパティの後を追う。
こんな気持ちが落ち込んでいるときは部屋にいるよりもパティや仲間たちと一緒にいたほうが楽な気がする。
今晩はなんだかんだ言ってユーリたちの宿屋にもぐりこみそうな気がする。




またか、今日にはいって同じ光景を何度見ただろうに。
パティの記憶の手がかりを探すため、街を右往左往しながら歩いていると醜い罵り合いが聞こえてきたのは。
こんな事態に悠長にも街を観光じみたことをしている私たちがおかしいのかもしれないけど、パティがそんな彼らの間に割って入るので仕方ない。

「なんだよ、このガキ」
「大人の大事な話し合いに入ってくるんじゃねぇよ」
「まぁ、まぁ。みんなでおいしいおでんを囲めば解決じゃ。まっとれ、いま……」
「何ほざいてんだよ」
「あう」

とパティが懐を探り出すと言い合いをしていた数人の男がパティを取り囲み襟を掴み上げる。

「ふざけたこと言って大人を馬鹿にしてるんじゃねぞ」
「どこのギルドのやつだ、言ってみろ」
「……大の大人様が子供に八つ当たりをしていて楽しい?」

私は深い、ため息をついてから男の間を潜り込み、会話に割ってはいる。
とたん、私に標的を変え汚い言葉を浴びせてくる。
私は皮肉るように笑い、そう返すと怒りがこみ上げてきた様子で手を振り上げる。

「どこのどいつだかしらねぇが、なめた口利いてるんじゃねぇぞ」
「……だから」

先ほどまでの言い合いはどこに行ったか、喧嘩の標的を私に変えた男たち。
本当に共通の敵を帝国、紅の絆傭兵団といったものを倒すのであればどこまでも底なしの力を見せてくれるだろう。

「そんな力が有り余っているのならさ、ユニオンに顔出して少しくらいの意見を出してきたら?」
「エル姐の言うとおりじゃ。宝の持ち腐れはよくないのう」
「簡単じゃねぇんだよ……お、お前」

と、やっと気づいたか、私の顔をまじまじと見、仲間に目配せをする。

「お前、天を射る矢のエルか」
「……」

元だけどね、そう笑うのも疲れていてただじっと話を聞いていると仲間とギルドをクビにされただの、下っ端だのよく言ってくれる。
いい加減これは怒ってもいいのだろうかとパティを見ると「放っておいたほうがいいんじゃないかの」といわれる。
パティが現況なのに。

「……清らかなる水の囁き、スプラッシュ!」

私が手を空に掲げると、バケツをひっくり返したように男たちの上空から振って男を襲う。
水流で吹き飛ばされるものや、講義の声を上げるものもいる。

「水でもかぶって頭を冷やすといいのじゃ」
「それ……私の台詞」
「お前ら、ふざけてるんじゃねぇぞ。どこのどいつだろうがかまわねぇ、やっちまいな」
「まず……」

男たちが武器を抜き、こちらに向かってくるので私はパティを引っ張り走り出す。
「待ちやがれ」と声を上げ、追っかけてくるが待てといわれて待つ人間がいるわけない。
素直に手を引かれながらもパティは「なぜ逃げるのじゃ?」と首をかしげる。

「さすがに……こんな往来の場で……問題起こすわけに……いかないでしょ」
「ふーむ?でも、水を掛けたのはエル姐だぞ」
「確かに」

パティを路地裏に連れ込み何とか息を整える。
男たちは撒けたようでついてくる様子はない。
こんな光景をユーリに見られたらすっごく嫌味を言われるだろうし、カロルは悲鳴を上げるに違いない。

ふっと空を見上げるともう日は傾きかけている。

「そろそろ宿屋へ戻ろうか、ね。パティ」
「うーむ……うちはもうちょっと情報収集してくるのじゃ。エル姐、また明日な」
「あ、ちょっとパティ!」

私の制止も振り切り走り出すパティ。
……怒られるのは誰だと思っているんだろ。
それでも、パティは破天荒な行動をとることは多いけど、どこか大人びているし周りの空気を読める。
言い訳がましく思えるかもしれないけどきっと大丈夫だろうと私は一人帰路につくことにした。


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