最後の願いを

「なんとか魔導器の調整はすんだわよ」
「他の部分のチェックも済んでおる。準備万端なのじゃ」
「よかった、これで船が動かせるんだね」

前の晩、3人で船の魔導器の修理に当たったが、結局直らずカウフマンが船の荷物として残しておいた前の魔導器を取り付けることでなんとかことを済ました。
古い駆動魔導器は少し荒いリズムを刻みながらも何とか、船を走行させている。
しかし
油断ならない。

「わかったからあんたはさっさと出てきなさいよ」
「狩りの鉄則は相手が油断し、弱ったときを……」
「何わけのわからないことをほざいてんのよ」

とリタに無理やり普段束ねている髪を引っ張られ、痛い思いをしながら仲間が話しをする戦場……船上へと引きずり出される私。
リタに無理やり引っ張られた私のことなんか無視するように話は進んでいく。

「とりあえず、ダングレストにこいつを連れて行きたいんだけど」
「……その辺に捨てておけばいいのに」
「エルちゃんさ。ハリーにちょっときつくない?」
「それくらいのことをしたって言う自覚を持てっていいたいのよ」

船上で仲間の輪に入れてもらえず隅にいるハリーに届いただろうか。
彼は何か言いたげに顔を上げたがすぐにうつむいてしまう。

「俺らもダングレストだな」
「ベリウスの聖核を渡すため、だね」

と私は自分でしまっていた深い海の色をした宝石をのぞく。
私に「おっさんが持っていってあげるよ」なんていうから、私は「結構」と短く断り、彼の靴をわざと踏んだ。
カロルは私の言葉を代弁し「レイヴンには頼めないよ」と容赦のないたたみかけをする。

「悲しいね。一緒に旅をしてきた仲間だってのに、俺ってぜんぜん信頼されてない?」
「正式な依頼じゃないけど、ベリウスの最後の願いだから……これを果たさないのは義にもとるでしょ」
「ああ、それに俺たちがケツをもたなきゃな。それにドンならなぜ聖核がいろんなやつらから狙われてるのか知ってるかもしれねぇ」
「ドンも欲しがってたからね」
「聖核のことがもっとわかればフレンの気にいらねぇ動きの理由も少しはわかるかもしれねぇ」
「私もドンに会って話をしたいことがあるの」

「できればドンだけではないけど」付け足したその言葉の意味をちゃんとくんでくれたかはわからないけど、レイヴンは納得したらく腕を組み「うんうん」と大きくうなずく。

「じゃ、ドンへの橋渡しはおっさんがしてあげるよ」
「ほんとに?」
「袖振り合うも他生の縁って言うからね。それくらいなら凛々の明星のために動くわ」
「あたしもドンの所にいく」
「リタが……?」
「いろいろあったでしょ。それって全部この聖核につながっているような気がするのよ。だから……」
「ドンは俺たちに聖核を探せって言っていたしね。確かに何か知ってるかも」
「それは……私は初耳なのだけど」

私が天を射る矢で働いていたとき、配達やレイヴンがいったようなギルド同士の橋渡し(喧嘩両成敗)みたいな仕事はたくさんしたけど、聖核を探せなんて仕事はレイヴンと出会って初めてきいた。

「……うちもダングレストに行くのじゃ」
「俺たちと来たほうが得なんだっけか。まぁ、操船してもらう以上、俺たちにも都合はいいけどな」
「別にそれだけではないのじゃ。ダングレストに記憶の手がかりがありそうだから一緒に行くのじゃ。エル姐にも誘われとるし……前いダングレストのドンはアイフリードの友達だと言っておったな」
「そんなことも言ってたよね」

記憶を頼りにするとそんなことを言っていたような気がする。
レイヴンに助け舟を求めるとレイヴンもあごに手を当て思い出すように言う。

「ん?ああ、帝国と戦った時にアイフリードがドンに協力をしたって話だけど」
「もしかしたらうちの記憶の手がかりを教えてもらえるかもしれん」
「そういうことなら……一緒に行くか」
「なんかじいさん、大人気だな。忙しくて目を回さなきゃいいんだが」
「昔からもてもてだと思うけど」
「そうそうプレイボーイでって、そうじゃないでしょう」

私がポツリと言葉を吐くと、レイヴンはノリがいいことに突っ込みを入れると仲間から冷ややかな目で見られる。
レイヴンと付き合うってことはこういうことなんだなと少し実感してしまう。

「後はエステルだけど……」

とカロルはとても気まずそうに視線を泳がせるので追うとエステルがいる船室に目をやる。

「しばらくそっとしておきましょう」
「だな」

エステルは昨晩あったこと、自分なりの整理がつかないのだろう。
リタの言うとおり今はそっとしておくのが一番だ。

「ジュディスはどうしたのかな……ねぇ、ドンに聖核を届けたら、ジュディスに会いに行かない?」
「私はそのつもりだよ。カロル」
「ああ、そうだな。掟を破った人間を見過ごすわけにもいかねぇし」
「……」
「う、うん。ちゃんとした理由を知らないと」

どんな理由であれ、ジュディスは凛々の明星の掟を反した。
そして逃げた。
いずれ、魔導器を破壊した理由も、逃げた理由も聞かなくてはいけない日が来る。


でも、その前に私は受け入れなければならないこともあるんだろう。



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