痛み

「大丈夫か……?」
「なんとか」

水の入ったカップを受け取ると、私は苦笑いのまま答えた。
あれから、リタは駆動魔導器の様子を見ると私たちを追い払い船室に突っ込んでしまった。

「駆動魔導器は魔導少女ががんばって見ていてくれるわ。新しい方は魔核が壊れちゃってて直しようがないみたいだけど」
「商人のお姉さんに駆動魔導器交換してもらうことにしておいてよかったのじゃ」
「約束したことはきっちり守る、さすがカウフマンだね」
「お金には汚いけどね」

私はくっと水を飲み干すと今の状況を思い出す。
ジュディスが魔核を貫いてくれたおかげで船は……の危機に陥ったが、カウフマンが駆動魔導器を交換してくれ、前の魔導器を船に残してくれたおかげで取替え、何とか船は動いている。
エステルは魔導器の調整をするリタにつき、カロルも外に出てたそがれてしまっている。
パティはリタの様子を見てくると船室を出て行ってしまった。

「どうなってるんだよ……」
「まだわからないの……?」

呆然と私たちのやり取りを見ていたハリーはまるで他人事のように言った。
かちんときた私は彼の前に立つと「なんだよ」と圧されたのが気に食わないのか、反抗的に答えたハリー。
まだ自分がやった行いに気付かないで、これからのことを考えられないのかと。

「ねぇ、ハリー。なんで魔狩りの剣と一緒にいたわけ?」
「だからそれはじじいが」
「ドンがあなたに頼んだの?」
「い……や」

おじおじとしながら「そうじゃない」というハリーの曖昧さに私はついにぷつりと感情の糸が切れた。

「エルちゃん……!」
「な……!」

私の腕は拳を作っており、躊躇なく目の前のものを殴り飛ばしていた。
ただ頭が怒りで支配されて、ハリーの体がよろめいたとき初めて彼を投げたと知ったのだ。

「なにも……わかっていないのね」
「わかっていないのはお前だろ。俺はじじいのために……」
「よくそんなこと言えるわね。ベリウスとドンの関係をしって言ってるの?」
「そ、そんなの。でもじじいが聖核を……」
「まだ言うの?」
「ストップ、ストップ。二人ともいい加減にしなよ」

何もわかっていない。
そして何も考えていない、結局、孫であろうが、ギルドの人間であろうがドンに依存し生きているなんて。
さらに怒号を含めた私とハリーの間にレイヴンが割って入って私たちを静止する。

「二人ともその辺にしておけよ。エルお前は少し頭を冷やしたほうがいいんじゃないか」
「わかってる……」

ユーリにも背中を押され、私は船室から追い出されるような形で出た。
納得いくわけがない、納得いかない。
ハリーがしでかしたこと、それはギルドを束ねる二つの勢力をお互い最悪な形で分断したことにある。
そしていまだその責任を、押し付けようとしている。
誰かのためなんて言葉はただ無責任な押し付けに過ぎないというのに。


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