ジュディスの裏切り


暗い夜道を走りながら、カロルはユーリの背中を見つめ、殿を走る私たちに言う。

「今、フレン。ユーリがラゴウをって……」
「話はあとよ。男どもは錨を揚げて!」
「本気で乗るの」
「ほら、たってないでさっさと乗んなさい!」
「わかってるよ」

フィエルティア号の前で顔をしかめた私の背を無理に押すリタ。
そんなことを言ってる場合じゃないって私だってわかってはいる。
船に乗り込む私たち、ふっと後ろを振り向くとレイヴンが独り言のように「男は錨だってさ」というので、振り向くと隣に違和感を覚える。
船の裏から現れたのは金髪の髪の青年、ハリーだった。

「こいつも一緒に乗せてやってくれ」
「この人……」
「カロル……」

そう、ギルドユニオンを束ねる巨星のドンの孫、ハリーだ。
カロルもそれとなく見覚えがあったのだろう。

「全速力でいくのじゃ」
「ちょっと」

パティが舵を取ると全身が揺れた。
船体が揺れ轟と悲鳴をあげると、バネがはずれ、体が投げ出され私はとっさにマフトにしがみついた。

ノードポリカの港を飛び出たフィエルティア号は追って、前からも挟みかけてくる船を裂け、船体を90度傾け、追っての船を近づけもさせない。
正直、私は死にそうな気持ちだった。
今すぐ、ここで泣き出してしまいたい。

「これは……」

ずるずると体を引きずって駆動魔導器のある舵へ向かうと魔導器を見上げ呆然としているリタとくいるように見つめるジュディス。

「何、この出力!この駆動魔導器のせい!?」

もうすでに遠く離れ、光だけ届くノードポリカを見ると追ってくる船の姿はもうない。
カロルが拳を突き上げ「やったぁ!」と歓声を上げるが、パティは自分の舵の腕を自賛している。
けども、私たちの目の前の駆動魔導器は狂ったように赤い光と熱をもち、危険の色を放つ。

「何よ、この術式、初めて見るものだわ」
「……私もこんなもの……知らない」

魔術を使うということは術式を正しく理解をし、構成をする必要があり、魔導器についての知識もそれなりに必要があり、私も一般人よりは魔導器についての知識はあるが、リタの言うとおり、駆動魔導規に刻まれた術式は私に見覚えはない。
何より魔導器研究を担う天才魔導師のリタが知らないというのだから間違いはない。

「きゃあ」
「エステル!?」
「何をしているの」

エステルを突き飛ばしたのはジュディスだった。
食いつくリタをも力ずくで押しのけ、私たちをまるで見ていないように駆動魔導器に向かっていくジュディス。

「ジュディ!」

最後の砦は私だと思った。
両手を広げ、駆動魔導器の前に立ちはだかる。
そのとき、思い出したというより理解した。
ジュディスが今までどうやって生きてきたかそれを思い出した。

腰が抜け私を冷たい瞳で、でもどこか理解して欲しい、そんな感情の瞳で槍を構え、私を見下ろすジュディス。
彼女を思わせる、白い満月も変わらぬ表情のまま、星の涙を流して私を見下ろす。

「ごめんなさい……」
「!?」
「な、やめて!」

ずん、と耳のすぐ横を矢先がかすった。
リタの声とジュディスの悲愴的な謝罪が同時に耳を襲うと魔核が光を失う。
私は体をひねったとき、駆動魔導器は最後の呼吸をし、静かに動きは停止した。
それを確認したジュディスは鳥のように飛び上がると、マストから私たちを見下ろす。
「……どうして」とリタがジュディスに叫ぶが、彼女は冷淡に答える。

「これが私の道だから」
「ジュディ!待て」
「……」

私も制止をしようと思ったが、先ほど矛先を私に向けたときのジュディスの表情がとても恐ろしくて、口がぱくぱくと開いたままふさがらない。
ユーリが私たちの間に割って入ったとき、暗い空から獣の咆哮が聞こえてくる。
ジュディスはピクリと顔を上げると、何を思ったか船から飛び降りた。

「ジュディ!」

私が体を乗り出して、とても怖かったけどもジュディスが自らの体を投げた海をくいるように見るが、ジュディスの姿はおろか泡ひとつ立っていない。
聞こえてくる声は確か、

「バウル……?」

そう、ジュディスの本来の姿であった竜使いである。
ジュディスの友達、バウルにまたがり、理由は知らないが魔導器を破壊する。

「……さようなら」
「待って!ジュディ!」

届きはしないとわかっているのに手を伸ばす自分。
竜は飛び上がり月に向かって消えていく。

「なんでよ!?どうしてよ!」

最近、ジュディスに信頼を置いていたリタにとって最大の裏切りだったに違いない。
ジュディスにリタの声は届いていたと思う。
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