聖核


「ハリーが言っていたのはこういうわけか」
「……これが聖核」

ハリーも聖核を探してノードポリカまでやってきた。
そして、腕は確かなギルド、魔狩りの剣にベリウスの討伐を依頼した。
私の中で深い眠りにつく蒼穹の水玉、これが聖核の一種であることは容易に想像ができた。

「人間……その石を渡せ……」
「こいつがてめぇらの狙いか。素直に渡すと思うか?」

今まで静観していた魔狩りの剣の首領、クリントが急に私たちに向け、剣を振り上げる。
しかしベリウスとの戦いで体中、傷だらけのクリントとユーリ、勝敗は決している。
それなのにクリントは眉をひそめ、私たち全員を見据えると「なら、素直にさせるまでのこと」そう言って再び剣を握りなおしたときだった。

「そこまでだ!全員武器を置け!」

闘技場に響きわたる凛とした女の声。
それはカドスの喉笛でも私たちを追ってきたフレンの副官であるソディアだった。
彼女が剣を振り上げると続々と騎士が闘技場に踏み込んでくる。

「っち、来ちまった」
「貴様……!闘技場にいるものすべて捕らえろ!」
「……?」

ソディアにとっても私たちがここにいたことは想定外だったのだろうか。
カドスの喉笛からここまで追ってきたのかと思ったけど。
ユーリの顔を見ると、部下にそう指示を下す。

「さっさと逃げないと俺らも捕まっちゃうよ」
「あたしら、捕まるようなこと何もしてないわよ」
「きっと何か捕まえる理由こじつけられちゃうよ」
「検問を強行突破、少なくとも禁固はくらうよ……」
「そうね、逃げたほうがよさそう」
「わう!」

私たちに向かってくる騎士をラピードが懐に飛び込み、押し倒す。
逃げの道を探しているとパティは懐から煙幕玉を取り出し、地面に叩きつけた。
と、騎士と私たちを隔てる目に悪い色の煙幕。

「逃げ道を確保したのじゃ、急ぐのじゃ」
「……あんた、なにしてんの!」
「あ、いや」

このまま逃げてしまっていいのだろうか。
そう語りかけるようにして、私は蒼穹の水玉を見ていた。
リタに肩をつかまれ、私はぐっと手を握り締める。
私が直接手を下したわけじゃない、けども。

ベリウスを殺したときの、感覚が消えない。
ただの妄想に過ぎないけど、手にはねっとりとしたものが付着しているようでひどく気持ち悪かった。
目を瞑ればベリウスの変わり果てた姿が浮かぶようだった。

そんな私を現実に引き戻したのはエステルの叫びに似た泣き声だった。

「私どこにも行きたくない!私の力……やっぱり毒だった……!助けられると思ったのに……死なせてしまった!救えなかった……!」
「エステル……!」

こんな状況で、何を言い出すのかと私が声を張り上げそうになったとき、ユーリが収めていた剣を急に抜いた。
それを手の筋に当てると、急に引いたのだ。
当然、ユーリの腕はぱっくりと切れ、地面に滴り落ちる鮮血。
私の飛び出そうになったが、ジュディに肩をつかまれる。
「だめ!」そう声を上げ、エステルはユーリの腕をぐっと掴むと治癒術を発動させる。

「ちゃんと救えたじゃねぇか」
「あ……」

一時、痛みに顔をゆがめたユーリだが、すぐににっと笑ってエステルに言った。

「いくぞ」
「はい……!」
「待て!」

ユーリはエステルのため、自分の体を投げ打ってそれは違うということを証明した。
ジュディスも私の手を無理やり引くときずられるがままに私は闘技場を出る。




自分で考えなければ

ゼグンドゥス……彼の存在はいつからか知っていた。
どこか歪な影が私に落ちるようになっていたのを私は感じて、求めていたはずなのに背くようになって。
私がちゃんと向き合っていれば自分の力を抑えることができただろうか。
今回は私の甘えがベリウスをむごい死に追いやったといってもおかしくない。
手の中で再び眠りについた月の光を昔のものを見るかのように感じていた。


騎士団はノードポリカの街の町を封鎖し、蜘蛛の子一人外出れないだろう。
私たちは最後の希望をかけて、港についているフィエルティア号から街の脱出を狙う。
港へと駆け込んだ私たちを迎えたのは、ある意味想定範囲の人物だった。

「フレン……」
「こっちの考えは全部お見通しってわけね」

港への一本道、私たちの前に立ちはだかったのはフレンだった。
彼は私たちと目をあわそうとはせず、じっと地面を見つめたまま「エステリーゼ様と、手に入れた石を返してくれ」と言った。
今の一言で、私たちは大体のことを察した。

「騎士団の狙いもこの聖核ってわけか」
「魔狩りの剣も欲しがってた……」
「ヨームゲンの兄ちゃんが言うとった。聖核は人の世に混乱をもたらすと……やっぱり」

パティが不安そうな瞳で私を見上げる。
聖核は人の世に混乱をもたらす、それがどんな意味だかわからない。
それを求めるフレンはわかっているのだろうか。
この場でフレンに見逃してもらうか、けども後ろから「待て」とソディアの声が響いてくる。

「渡してくれ」
「うそ、本気!」

柄に手をかけるフレン。
まさか、彼が私たちに剣を向ける日が来るなんて思わなかったから。
ユーリはそんな彼に詰め寄り、瞳と捕らえ低い声で言う。

「お前、なにやってんだよ。街を武力制圧って冗談が過ぎるぜ。任務だかなんだか知らねぇけど、力で全部押さえ付けやがって」
「隊長指示を!」

ソディアは剣を向け、こちらをけん制し、フレンの言葉を待つ。
ジュディスは戦いもやむ得ないと考えたか、槍先を向ける。
ユーリは間逆でソディアには目も向けず、フレンの肩を押す。

「なんとかいえよ。これじゃあ俺が嫌いな帝国のやり方そのものじゃねぇか。ラゴウやキュモールになるつもりか」
「なら僕も消すか?ラゴウやキュモールのように君は僕を消すというのか」
「え……それって」
「お前が悪党になるというならばな」
「二人ともいい加減に……」

カロルが不安の色を見せてユーリを目配せする。
ユーリが仲間に話していない事実。
こんな形でこの場の全員に伝われば、仲間は困惑するであろうし、ソディアは迷いなく捕縛するだろう。
ユーリの手を引き、止めに入ろうとすると、それを勢いよく振りほどかれ、私は地面に叩きつけられる。
隣にいたリタにひじが当たりごめんと声を掛けると「あんた、大丈夫なの」と手を貸してくれる。

「ねぇ、そいつとの喧嘩なら他所でやってくれない、こっちは迷惑よ。急いでるんでしょ!?」
「……ち」

一瞬、体がめまいを訴えたが、ユーリが小さな舌打ちをすると港の方へ向かって走りだすので、何とか踏みとどまってその後を追う。
フレンは追わず、目すらあわせないでその場にたったままだった。
ユーリだってわかっていたはずだ、フレンが好き好んでこんなことをしているんじゃないと。
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