魔狩りの剣の暴走


闘技場まで至るに、何人もの、死人とけが人に遭遇した。
どの人間もすべて刀傷や魔術によって負った傷を持ち、魔狩りの剣と戦士の殿堂の本格的な戦争があったこと証明していた。

凛々の明星が闘技場に降り立つと一番に目に入ったのは魔狩りの剣を指揮する少女、ナンの姿だった。

「闘技場は現在、魔狩りの剣が制圧した!速やかに退去せよ!」
「ナン!もうやめてよ!」

カロルは一番に駆け出し、少女に訴えかけた。

「カロル……?なんでここに……」
「ギルド同士の抗争はユニオンじゃ厳禁でしょう!」

カロルの言うとおり、一個人の争いといってもギルド同士が争うことは堅く禁止されている。
それを破れば死のも同義な制裁が待っている。
しかし、ナンは逆に目を細め、私たちの言葉を疑うようにいった。

「何いってんの?これはユニオンから直々に依頼された仕事なんだから」
「なんだと?」
「は?」

レイヴンと私の声色がずいぶん低くなった。
そんな私たちの声を聞いて、ナンの後ろから現れたのは、私とレイヴンがよく知る人物だった。

「ハリー?」
「おまえ」

ギルドユニオンに所属し、巨星ドン・ホワイトホースの孫であるハリーだった。
金髪の髪に、おじいさん譲りで、顔に赤い線の装飾がされている。

「あいつ……ダングレストで会ったユニオンのやつ……!」
「リタ、待って」

飛びつきそうになる私が抑える。レイヴンは「ドンの孫、ハリーだ」と告げ、今度はハリーに向け問う。

「ちょっとどうなってるのよ?」
「お前もドンに命令されただろ?聖核を探せって?」
「ああ、でも聖核とこの騒ぎ、何の関係があるっていうんだ?」

とハリーを詰め寄るが、そんなわたしたちをよそに、私の横を走りぬけ闘技場の中央に向かっていく。
目で追うと、そこには魔狩りの剣の男たちに囲まれるナッツさんの姿があった。

「ナッツさん?!」
「行くぞ!」

カロルの手を引き、走り出したユーリ。
私も杖ですぐに術式を描く。
ユーリとカロル、ジュディスはすぐに男をなぎ倒す。

「ええい!水の戯れ!シャンパーニュ!」

事態を読み込めず、ついにキレたリタが自身の鎖を振り回し、術式を描く。
足元から沸いた泡が爆発し、男たちを一掃する。

「な……」
「ハリー。後で事情を聞くから覚えておいて」

と私はいまだ私たちの行動に呆然としているハリーに向かっていう。
もう邪魔をする人間はいなくなり、私とエステルはナッツさんのもとへ駆け寄る。
エステルはナッツさんに治癒術を掛ける。

「あんた、治癒術師だったんだな。おかげで命拾いをしたよ」
「ナッツさん、いったい何が……」

「あったんですか?」と聞きかけたときに頭上から、ガラスのはじける音が聞こえ、私は咄嗟にバリアーを張り、頭上から先に落ちてきたガラス片を防ぐ。
「落ちてきた」のは妖獣の姿であるベリウスとそれと対峙していたクリント、ティソンだった。
両者とも目に刺さるほど痛い傷を負っている。

「ベリウス様!」
「ナッツ、無事のようだの。まだやるか!人間ども」
「……この……悪の根源め……」

と、未だ剣を手に取ろうとするクリントを見下し、ユーリはいった。

「あいつが悪の根源?んなわけねぇだろ。よく見て見やがれ」
「魔物は悪と決まっている……!ゆえに狩る……!魔狩りの剣が……われわれが……」

彼らの何が、自身を突き動かすのか。
ただ、ギルドとしての信念か、それとも自分の快楽か。
始祖の隷長は魔物だろうか。
ベリウスが10年前の人魔戦争を手引きし、魔物側として人間と戦ったら、事情を知らない人間にとってベリウスは魔物の親玉に過ぎないのかもしれない。
でもベリウスが人間の言葉を使い、人を気遣う姿を見て、それでただの魔物として見れないというのならそれはどちらが人としての心を失っているか分からない。

「この石頭ども……」
「この……魔物風情が……!」

とティソンはどこからそんな力を搾り出したか、立ち上がりベリウスに襲いかかる。
ジュディスは即座に槍で爪をはじき、足払いを掛けた。

「ジュディ姐!」
「ベリウス様……!」
「すぐに治します!」

と障害がいなくなり、エステルが一番にベリウスの元へ走る。
彼女は治癒術を唱えるが、ジュディスが弾けるような声で「だめ!」と叫ぶ。

「ならぬ、そなたの力は……!」

ベリウスも傷だらけの体を揺さぶり抵抗をするが、エステルの治癒術は発動してしまった。

「ベリウス……?」

突然、ベリウスから蛍のような光を放つ。
体の中心から、湧き出るような光を発光させ、声にならない叫び声を上げるベリウス。

「こ、これはいったい……!」
「エステルの術式に反応した……!」
「ぐあぁぁぁぁぁああ!」

とベリウスは体をのけぞらせ、自身の枷が外れたように暴れ狂う。
まるで、何も見えていない、考えられない、闘争本能、いや破壊衝動のしか頭にないような魔物だったのだ。
その巨体が揺れるたびに闘技場の柱は倒れ、天井は崩れ、瓦礫がこの場の全員を襲う。

「遅かった……」
「ジュディス……!これは…?」
「わたしの……せい?」

獣と化し、私たちの言葉も届かないベリウス。
エステルは呆然とその光景を見上げている。

「あのまま暴れられると闘技場が崩れちまうぜ!」
「ベリウス様!お気を確かに!ベリウス様!」
「戦って止めるしかないのか!」
「でもこんなの相手に手加減なんて出来ないわよ!」
「そんなのって!」

カロルが泣きそうな声を上げるが、パティに「やるしかないのじゃ!」と背中を叩く。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -