感傷

私は他人にとってはとても飽きもしない一生を送っているのだと思う。
人伝いに聞いた、2年と少し前、私が記憶を失って、ゾフェル氷刀海で倒れているところをギルドユニオンの頂点にたつギルド、天を射る矢に救われたらしい。
しかし、その後の半年近い記憶も今じゃない。
今思えば言葉も通じない、物の名前も分からない、赤ん坊のような状態でこの世界に放り出された私は覚えることが多すぎて自分のことになりふり構っていられなかった。
そのせいで、ギルドの一部からは無口なやつだとか、頭のおかしいやつと思われたかもしれない。
そんな私を見捨てないで、ギルドに置いてくれたのが、天を射る矢の首領のドンだった。
彼は私の身元をさぐって、その消息がつかめないと知ると、ギルドがどんな場所か教えてくれた。
帝国という国家に従えず、自分たちのルールに従い、自由に生きる。
代わりに、そのルールを破ったときにはいかなる処罰も受け入れろ。と。
私はギルドにいるための術を見につけた。
まずは自分の手がかりになるであろう、魔核と他人とは違う力。
魔導器の力なくして魔術を使える。
そして、通常の人間では使えぬ、治癒術。
私に与えられた天恵だと思った。

魔術、治癒術、ギルドにいるのには申し分のない力だった。
それでも、初心者である私と仕事を組んでくれるのは、ドンの孫のハリーくらいで私がギルドの仕事を請け入られなくなったころ。
自分の世界に貸し与えてくれた自宅に引きこもるようになった。
勉強のために呼んできた御伽噺や、ファンタジー小説、恋愛小説、推理小説それを見ていたら自分でも書けそうな気がして、ペンを握って、一心不乱に自分ではない誰かの話を書いた。
半月近く部屋にこもった私を心配してくれて部屋を訪れたカウフマンが私の書いた、世界に価値がある。
そう言ってくれたのが作家、ティアルエルとしての始まりだった。

それから、私が出版した小説が売れ、生活でも自分の自身がついたこともあってか、前向きに考えられるようなって、自分のこの魔導器を手がかりに自分を探しに出ることにした。
まるで自分が書く、小説の主人公がするように。

それから一年、作家としてもギルドの人間としながら仕事をし、自分を探しても見つからなかった。
少しやさぐれていた頃、ドンが私一人にある仕事を持ちかけた。
帝国のえらい人間に、ギルドの人間とばれないように手紙を届けて来いと。
私を呼んだ理由は顔も知られていないし、ギルドの人間っぽくないからという。

腑に落ちないけど、船に乗らないルートを選び、悠々自適に旅をして、帝都に着いた。
思えば、そのときから私が過去を取り戻し始めたのかもしれない。




「静か……」

一人、感想をこぼすとカロルが隣で苦笑いをし、少し安心したように「助かったね」といった。
私たちは騎士団の目をかいくぐり、先ほどノードポリカにたどり着いた。
今日は幸運か、それとも狙っていたかの新月の日。
今は昼近くで今晩遅くにベリウスの元に向かうことになった。
それまでは自由行動をとることになったが、珍しい私とカロルの組み合わせで買出しに出ることになった。
カロルが一人で店に入って買い物をしてくるというので、私は店の前で一人、感傷に浸っていたのだ。
カロルから荷物を半分受け取る。
両手で抱えなければいけないほどの荷物。
仲間も増えたんだなと思う。
最初はユーリ、エステル、ラピード、カロル、リタと私だったのに、今では3人も増えたのだから。

「ねぇエル」
「んー?」
「僕もユーリみたく強くなれるかな?」
「ユーリみたくねぇ……」

カロルは昔からユーリにあこがれているようだけども、カロルがユーリのようになったら……。
ならないでほしい、うん。
いくら強くても皮肉屋で、腹黒くて、鬼畜で性格が悪くて。
カロルは将来有望なのだから、もう少しいい環境で育ってほしいものだ。
でもカロルが聞きたいのはそんなことじゃない。

「ユーリの強さとカロルの強さは違うと思うよ」
「え?」
「カロルはユーリみたくなってどうするの?」
「どうするって……それは」

「皆を守りたい」かなって照れくさそうに答えるカロル。

「でも、ただひたすらに突っ込んでいくのは違うわ。ユーリだって止めない人間がいなければただの無謀よ」
「無謀って……」
「何で大人は子供より強いか分かる?」
「え?」

と私の問いかけに手を組んで「うーん」とうねるカロル。
少し考えた後に「大きいから?」と質問に質問で返す。

「違うよ。私たちより長く生きているからよ」
「え?それって当たり前のことなんじゃ」

と返しに詰まるカロル。
そう当たり前のことだと思うけど、私たちより長く生きているってことは体も大きいし、経験の差だってある。
だからどう転んだって子供は大人に勝てないと私がカロルに告げると、遠い目で「そう」と肩を落とすカロル。

「でも、大人には底があるわ」
「え?」
「カロルはまだまだ成長するわ。でもユーリはそのうちレイヴンのようになるのよ。そう考えると楽しくない?」
「……あまり。でも。僕、もっと強くなれるってことだよね」
「そういうこと。私もがんばらなきゃな」
「そういえば、エルは凛々の明星は入ってくれないの?」
「え?」
「今考え中?」

カロルのように常に向上心に私も乗せられてみようと思ったとき、カロルがふとこぼした疑問。
前に彼らが凛々の明星を結成したときに私を誘ってくれたことを思い出す。
それからずっと聞かれもしなかったし、その時はそんなことを考える余裕もなくて、はぐらかしてしまったが、カロルやユーリがこうやって考えてくれるのは嬉しいことだしそれにいつか報いたいと思っている。

「そうね。今も考え中かな」
「そっか。でも僕、エルが入ってくれると心強いな」
「そう?」
「うん。なんかエルの励まし方ってきついときもあるけど、がんばらなきゃって思えるんだよね」
「そ……っか」

自分ではきつい言い方しか出来ないと思っていたからこそ、カロルの言葉に私は少しだけうれしく思えた。
少し照れくさくて、下を向いているとカロルがどうかした?なんて顔を覗き込んでくるので最近の自分ではめずらしいくらいに笑ってなんでもないと返した。

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