エアルクレーネ

リタの言うエアルクレーネは前にエアルが暴走した場所にあるらしい。
エアルは地面から湧き上がっているが、それが体の変異を起こすことはない。

「調査は手短にな」
「わかってる」

リタは研究機材のようなものを取り出すと、それを広げ、調査を開始する。
一般人にはそれがなにをしているか分からないが、リタの独り言を聞く限り、エアルの量を調べているらしい。

「そういえば、パティ」
「なんじゃ?」
「さっきレイヴンになんていって聞かせたの?私も参考のためにきいておこうかなって思うの」
「……?」

パティにいまさら聞き出すと彼女は小首をかしげて私を見た。
「なにを言っているの?」と聞くように。

「もしかして忘れてる?」
「いや、忘れとらんぞ」

うん、絶対に忘れていたね。
そんな会話の中にユーリは入ってきて「やっぱり秘密なのか?」と聞くと、パティは思い出したように「あぁ」言い

「ユーリとエル姐には特別に教えてやる」
「そりゃ、ありがたいこって」
「ここでがんばったらジュディのスリーサイズを聞いてやるっていったのじゃ」
「……おまえ、おっさんの使いかたよくわかってんのな」
「わかりやすいのじゃ」
「聞かないほうがいいとおもうけどね」

と、私が明後日の方向を見ながら言うと「なんでじゃ?」とパティは私を見上げる。

「聞くと、絶望するだけよ」
「まぁ、お前たちはな」
「ユーリ、聞き捨てならないんだけど」

前に一度興味本位で聞いたことがある。
しかし、自分のふがいなさと、成長の悪さに絶望に落ちるだけだ。
と、パティはレイヴンに呼び出されてどこかにいってしまう。
私は、リタにどんな調子か聞きにいこうとしたのだがユーリに二の腕をつかまれる。

「エル、体の調子はどうなんだ?」
「へーき、だけど?」

どこかぎこちなく答えるとユーリは「そっか」と私の手を離す。
せっかく心配して声をかけてくれたのに、私は避けるように逃げた。
リタの元にいくとエステルがひざを折ってリタの様子をじっと見ていた。

「今は完全に収まってる……一時はあんなにあふれていたのに。あれでエアルの制御をしたって事?何で魔物にそんなことか」
「そのエアルクレーネはもう安全なんです?」
「前みたいにいきなりエアルが噴出したら危ないよね?」

エステル、カロルの質問に「その心配はなさそう」と答える。
しかしリタの表情は曇っている。

「じゃあ、なんであんときはエアルが噴出したんだ?」
「問題はそこね」
「自然現象ではないんです?」
「その可能性は低いわね。もしそうなら定期的に同じ現象が起こるはずよ」

そう、ケーブモックや今回のカドスの現象、これが重なって偶然的に怒るわけがない。
ジュディスとリタが周囲の影響を考えるとそれはありえないという。

「だとすると、何かがエアルクレーネに干渉してエアルを大量放出する……?でもいったいなにが……エアルに干渉するなんて術式は魔導器くらいしか」


今の言葉に引っかかったところがある。

「逆じゃないの?エアルの大量放出に反応してエアルクレーネが活性化した……とか?」
「はぁ?あんた何をいって……って……それも」

いい加減なことをいった私につかみかかってくるかと思ったけど、急に一人で納得しだして顎に手をあて一人の世界で入ってしまう。
そんなとき急にラピードが来た方角に向かって、威嚇をした。
すると鉄のすれる音が洞窟に響き渡った。

「っち、追っ手か。隊長に似てくそ真面目な騎士だぜ。リタいくぞ。調査は終わったんだろ」

とユーリはせかすがリタは靴を鳴らして、岩に這いついている。
「もうちょっと考えさせて」とこの場に居残ろうとするが

「考えをまとめるだけならあとで出来ると思うけど?」
「むー!ああもう」
「リタ、いこう」

と無理やり彼女の手を引いた。
このままだとファイアーボールを放ちかねない。
そんなことになればカロルは卒倒し、ソディアの怒号は飛び真面目なフレンの説教が待っているだろうに。
走り出口付近まで来るが、やはりそこには騎士が数人見張りについていた。
ジュディスの「隠れて」を聞き、私たちは岩陰に潜み、出口の騎士を覗く。

「ま、ここも当然抑えてるわな」
「パティ、突破するいい方法ないの?」
「むー」
「レイヴン、さっきみたくうまいことできない?」
「真面目な騎士にあんまり無体なことはしたくないなぁ……」
「エル、あの煙幕は」
「もうない。……あれ?」
「あれ、真面目に見えないわよ」

とリタが首で示す。
そこにいる騎士は出口のほうを見ながら、お互い不満を口にしていた。
その声は聞き覚えがある。

「私は悲しいのであ〜る」
「なぜに栄えあるシュヴァーン隊の我らがフレン隊の手伝いなのだ」
「ええい!文句を言うな!悔しければ結果を出すのだ」


「もっともだね……」

そこにいたのはシュヴァーン隊随一のへっぽこトリオ(ユーリ談)
ルブラン小隊の3人だった。

「いたぞ!捕らえろ!」

この暗闇の中、松明を照らし、こちらに走ってくるフレン隊の騎士。
その声にへっぽこトリオも私たちの姿に気づいたらしい。

「何事であーる!」
「お前たち、そいつらを逃がすな!」
「む、お前はユーリ・ローウェル!」
「よう、久しぶりだな」
「それにエステリーゼ様!」
「ど、どうすんの?」

エステルは当然として嫌なところでユーリの顔は知れている。
仁王立ちをして、私たちと対峙するへっぽこトリオことルブラン小隊。
カロルが「ど、どうすんの」と私たちを見るが、妙案が浮かぶわけがない。
すると、私たちの前に立つ、レイヴン。
彼はいつものおかしな言葉とは違って、しゃっきりとまるでフレンが部下に指示を出すときのような声色で

「全員、気をつけ!」
「はっ、は」

という掛け声にルブランたち3人は突然、背筋を伸ばし、敬礼をする。
3人乱れなく。
その隙に私たちは彼らの脇を抜ける。

ふっと後ろを向くとルブラン隊と私たちを追ってきたフレン隊が正面衝突して、共倒れしている姿が見える。
カロルがレイヴンに「何をしたの?」と問う。
まるで私の質問を代わりに聞いてくれたように。

「いいからいいからさぁ、ぐずぐずしていると追いつかれるぜ」
「条件反射ってやつかな」
「だろうね。まったく真面目だよね」
「面白そ。今度私もやってみよ」
「ほどほどにしてやんなよ」

とレイヴンが苦笑いをする。
余計なことはしゃべってないで走れとユーリに喝を飛ばされたのでそれこそ無言でひたすらノードポリカまで走った。

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