なにゆえ


ずずずと音を立てながらオレンジジュースのすすると、上から「汚いわよ」と注意を受けた。
あれから丸一日マンタイクに拘束されている。

「あんたも外に出てはしゃいできたら?」
「んー。ああいうお祭り騒ぎ苦手なんだよね」

日も落ちて普段ならば夕飯の時間であるはずなのに、街はまるで昼間のような活気に満ちていた。
街中を照らすたいまつの光。
そして響く太鼓の音。

「馬鹿騒ぎしちゃって」
「仕方ないんじゃないかな……リタもエステルと一緒に踊ってきたら?」
「あの子、まだ踊ってんの?」
「少なくとも私は見てないけど?」

マンタイクの昨晩起きた出来事。
フレン隊がキュモール隊を拘束しマンタイクの解放を住民に掲げた。
圧制に苦しんでいた市民も、騎士団に逆らい拘束されていた市民も開放されたのだ。
あくまでキュモール隊からの開放で、騎士団の監視は続くわけだがフレンが住民を悪いように扱うわけがない。
マンタイクの住民にとっては一日踊り明かしたい記念日なのだ。

宿屋のおじさんも大部屋を借りている私たちに気前よく宿代はただでいいといってくれる。
部屋にはベッドを背もたれにし、小説を執筆する私と先ほど帰ってきて疲れたと散々もらしてソファを陣取り眠りつくレイヴン。
私は外のような騒ぎは苦手だし、まだ本調子ではないということで一日、執筆に時間を費やしていた。

「ねぇ、リタ」
「なによ」
「昨日の夜、さ。ユーリがどこに行ってたかしらない?」
「はぁ?あんたを探しにいってたんでしょ?」
「その前」

そう、昨日フレンと別れたあと、街を一周してみたが、ユーリの姿はなかった。
諦めて宿屋に帰ると、みんな起きていて、いなくなったはずのユーリは私を探しに出たという。
帰ってきたユーリに何事もないように説教を食らったが、ユーリは私より前に宿屋を出ている。
絶対に。

「知らないわ。どうせ散歩にでも出かけたんじゃない」
「かなぁ……」
「そんなことよりあんたに一言言っておきたい事があるのよ」
「?」
「エステルにいっても無駄だから。あんた、武醒魔導器もないのにむやみに魔術を使うもんじゃないわ」
「……」
「別に使うなっていってるわけじゃない。でも実際あんたの体の調子が悪い原因がそれにあるかもしれない」
「……今まで魔導器を使わなくても普通だったのに」
「今まで……でしょう?」

リタの言うとおり、私の武醒魔導器をなくしてからおかしな声を聞くようになったし、魔術の制御も利かなくなったのは事実。
今まで運がよかったのかもしれない。
満月の子、それが何者か分からないのだから。

「ありがと。リタ。心配してくれているんでしょ?」
「心配だなんて別に。ただ、この間みたいに倒れられて調査が遅れるのもいやだったのよ!」
「そう?」

調査のため、そうリタは言い切ったが顔は真っ赤で、視線は泳いでいる。
リタのこういうところはすごくかわいいと思うし、人生3割損をしていると思う。
彼女の言うとおり、無駄に使ったりはしないようにしよう(もともと無駄に使っている気はないし)
そんなやり取りから時間もたたないうちにパティを除くみなが帰ってきた。


「おかえり。外はどう?」
「とてもにぎやかでしたよ。エルも少しは楽しんでくればいいのに」
「そこで怖いお兄さんが見張っているから今回は遠慮する。それより、キュモールは見つかったって?」

私が問うと、カロルは残念そうに首を横に振った。
気遣うように私の足元で見上げるラピードを撫でる。

「それは残念としかいいようがないね……」
「きっとフレンが見つけてくれますよ」
「そう。だね」

と、エステルは言うがフレンはキュモールの捜索に人を裂いていないという。
それは帝国、要するに貴族から圧力を掛けられたか、またほかに理由があるのか。
今日は確かめにいこう、ずっと思っていた。

「ユーリ?」

とユーリは隅に立てかけていた自分の愛刀を手にとると、部屋のドアノブに手をかけている。
エステルが声をかけると「ちょっとフレンに挨拶にいってくる」それだけを部屋に残していってしまった。


どうも引っかかってならない。
キュモールを探そうとしないフレン。
昨晩、姿を消したユーリ。

「……似ている……」

ラゴウが姿を消したときに。
イエガーのいっていた言葉を思い出して、そう思う。

「あれ、エルまで」

私の体はかってにユーリの後を追っていた。
私はエステルににっこりと笑いかけると

「怖いお兄さんが居なくなったから街の様子を見てくる。帰りにパティも拾ってくる」
「え?でも」
「そう?それじゃあよろしくね」

何か言いかけたエステルの言葉を遮ったのはジュディスだった。
察してくれたのだろう、瞳で「ありがとう」と送ると彼女は「どういたしまして」とうなづいた。
私はユーリの後を追うように足早に街を抜けた。


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