忠告

ふっと目を覚ますと頭がぼやっとして、よく回らない。
月の位置が寝る前か少ししか変わっていないところを見ると寝てからそんなに時間はたたないらしい。
私はシーツを少し避けて体を起こすと違和感に気づく。
寝る前とまったく変わらない仲間の姿。
静かな寝息を共に聞こえてくるのはカロルのイビキと歯軋りの音。
そしてレイヴンのうめく声。
私が暗闇の中、目をこすり辺りを見渡すと仲間が一人足りない。

「ユーリ?」

出入り口であるドアの前で寝ていたはずのユーリの姿がない。
いや、少し用事があってはずしているだけかと思って少し待っても帰ってはこない。

「……あれ……」

寝る前のユーリの様子が気になって、私は体を起こして、仲間を起こさないように忍び足で部屋を出た。

ユーリは自分の手を見つめ「馬鹿は死ななきゃ直らない」と呟いた。
私たちが話していたようにつける薬がない、そう冗談で言ってるとは思えなかったのだ。

街を降りると足元がかろうじて見える程度で、月明かりだけが頼りだった。
……杞憂であってほしい。
そう祈る気持ちだった。
ユーリが暴走をするわけがないと頭では分かっているはずなのに、なぜか体が勝手に動いて、走っている。

「……おかしい……」

騎士の姿がない?
キュモールの命令で市民には外出禁止令が出されて昼夜問わず騎士が見張りを立てていたはずだ。
騎士の姿はなく、人影もまったくない。
ゴーストタウンになってしまったような静けさに包まれている。
私は立ち止まり、少し考えた。
市民は禁止令を出されているのだから当然、自宅で寝ているに違いない。
なら騎士団に何かあったとか……?
ユーリが居ないのとも関係があるのか、私は回れ右をし、騎士団の詰め所へと向かおうとしたときだった。

「動くな」

そう短い脅迫の言葉と共に背後から 当てられた鋭利は刃物。
声は間近で聞こえたわけでもないそれに

声は女のだった

「動くな、そのままゆっくり……!?」
「っ!」

私が杖を抜き、その切っ先を地面に向かってはじく。
しかし、相手は瞬時に体制を建て直し、再び刃を私に突きつけた。
そのとき、月に照らされて女の顔が映る。

「……ソディア……?」
「ティアルエル?」

そう、あまつさえ私に剣を突きつけたのはフレンの副官であるソディアだった。
彼女も大変驚いたらしく私の顔を見ると目を丸くしていた。

「あなた、なんでこんなところに……」
「それは私の台詞。なんでフレン隊のあなたが……」

私は剣先を杖で下ろさせるとソディアは剣をしまい、私にも武器を収めるように告げた。

「今、わが隊はキュモール隊の鎮圧に当たっている」
「ということは帝国がやっとキュモールの暴政に気づいたわけか」

それで近くに居た、フレン隊を派遣したか、それともフレンが聞きつけてやってきたか。
とにかく今は「よかった」と心から喜ぶべきだろうか。

「ねぇソディア。ユーリをみなか……」
「知らない。あの男のことは」

と見事に言い切られてしまった。
そのまま彼女は剣の柄に手を当てたまま、歩き出す。
前から彼女はフレンとの関係のことでユーリにはいい感情を抱いていないとは知っていたがまさかユーリの言葉を出すのも禁句になるなんて。
早足の彼女を追うと、どうやら騎士団の詰め所に向かっているらしい。
詰め所の前は静まり返った街とはうって変わってたいまつを持った騎士と、そして拘束されている紫の騎士、そしてそれを監視する青の騎士。
金色の髪の青年騎士は私たちを見、そして少し驚いた顔をした。

「君か……」
「フレン隊長、街は大まかに見回りましたが、逃げ込んだ騎士はいないようです」
「そうか、ご苦労だった。ウィチルと共にキュモール隊の監視に当たってくれ」
「了解です」

「それでは」と敬礼をするとソディアは走って本隊のほうへ加わる。
報告を受けたソディアの上司、フレンは私を見、「ユーリがいるなら君たちもいると思ってたよ」という。

「ユーリと会ったの?」
「あぁ」
「?」

その返事はどこかぎこちない。
私が「どこで?」と返すと、明らか何かを隠すように「街の出口の方で」という。

「……フレン、今日は何かおかしいね」
「君も僕にノードポリカでのことを聞くかい?」
「言ってくれるならばね。……キュモールはどうなるのかな?ラゴウのときのように……何も裁きを受けないなんてこと」

「ないよね?」なんて念を押して言うとフレンは口をつぐむ。
もちろんラゴウのときのようにすぐに釈放だなんて笑えない冗談を言ってほしくない。
ここまで来て、市民を巻き込んで期待させてなんてもうしてほしくない。

「キュモールは……」

フレンの様子は明らかにおかしかった。
いくら、ノードポリカのやましいことがあったとはいえ、今はキュモールを捉えられて笑ってもいいはずなのに」

「キュモールは街の中にいなかった。おそらく逃亡を図ったのだろう」
「は?」
「言ったとおりだよ」

口をポカンとあけたままふさがらなかった。
フレンは「すまない」とぎゅっと手を握り締めた。
キュモールが一人、逃げおおせたということだろうか。
でも、

「それ……本当なの……?」
「なぜ、そう思うんだい?」

その答えにあえて答えず、私はじっとフレンを見た。
フレンは嘘をついているような気がした、もしキュモールが逃げたとすればフレンは全力でそれを追う気がする。
それがどうだろう、断言しきったフレンは何もしようとはしない。

「もう帰るわ。ユーリとも会ったんでしょ?」
「ああ」
「フレン、なにがしたいのか分からないけどもう少し自分で考えないと……大変なことになるよ」

言った自分でも背中が凍る感覚に襲われた。
フレンのやっていることが痛々しく思えて仕方なかった。

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