優先すべきは

どっぷりと夜はつかってもう寝てもおかしくない時間。
大部屋を取った私たちは食事を終え、砂漠の疲れもあって今にでも寝そうな状態で部屋に全員集合していた。
釈然としていない、そんな空気が張り詰めている。
当然だ、昼間の件を忘れられるわけがない。

リタがぴりぴりとした空気に耐えられなくなったのか、それとも怒りがまたこみ上げてきたのか、

「あのキュモールってやつ、ホントどうしようもないやつね」
「どうして世の中、こんなどうしようもないやつばっかなのじゃ」
「あれは多分、病気なのよ」
「それはきっと絶対バカっていう病気なんじゃな」
「わかってるわね、あんた。きっとそうだわ」
「つける薬もないよね、ほんと」

バカを治す方法も特効薬もない。
あるとするならば……それはきっと身の破滅だけだ。

「あいつら、フェローを捕まえてどうすんだろね」
「キュモールからすれば生死は問わないって感じだったけど」
「わかりません」

とエステルが首を横に振って、私とレイヴンに答える。

「ですけど、このままだと大人は残らず砂漠行きです」
「大人がいなくなれば次は子供の番かもしれないわね」
「そんなの絶対にだめです!私が皇族として話をしたら」
「ヘリオードのこと、忘れたのかしら?」
「そうだよ、あいつ。お姫様でもお構いなしだったんだよ」

と身を乗り出して言うエステルに強い口調で言い放つジュディスとカロル。
キュモールはヘリオードで弾劾をしようとしたエステルを殺し、口を封じようとした。
もともと騎士団は表面上エステルを護衛しているが、一時期エステリーゼを軟禁していたという事実もある。

「あれは嬢ちゃんのいう言葉に耳を貸すような聞き分けのいいお利口ちゃんじゃないもんね」
「ノードポリカに行く話はどうなったのじゃ?」
「とりあえず、自分のことか人のことかどっちかにしたら?」
「リタ……」

と珍しくエステルを突き放す言い方をしたリタ。

「知りたいんでしょ?始祖の隷長の思惑を。だったら、キュモールのことは今は考えないようにしたら?」
「あんたと意見が合うとはね、あたしもベリウスに会うの優先した方がいいと思う。キュモールを捕まえてもあたしらには裁く権利もない。どうしようもないなら出来ることからするべきだわ」
「二兎を追うものは一兎も得ず。これで新月を逃してしまったらベリウスに会えるのはいつになるか分からないし……」

言っている私だって歯がゆい。
エステルの言っていることはあくまで幸福論であって現実から目を背けているに過ぎない。
エステルはぎゅっとこぶしを握り締める。
これだけ言われているのに、まだあきらめも決心もつかないらしく「フレンなら……」とこの場にいない彼の名を呟く。

「フレンは、どこにいるの?」
「それは……」
「二つのことをいっぺんにしようたってできないのじゃ」

とカロル、パティもエステルをたしなめるように言う。

「ごめん、エステル。みんな責めているわけじゃない。あたしだってむかつくわ。今頃詰め所のベッドであいつが大イビキかいて寝ているのを想像したら、でも……!」
「リタ……分かっています」
「たとえつかまっても釈放されたらまた同じこと繰り返すわね。ああいう人は」
「ラゴウの二の舞ってことね……」

私がこぼすとジュディスは「そうね」と頷いた。
ラゴウもフレンによって捕らわれたが、評議会と貴族の権力を以ってして執政官の地位を剥奪さけで済ましてしまった。
今回も同じようになってしまうに違いない。

「だろうなぁ。馬鹿は死ななきゃ治らないっていうしね」
「死ななきゃ治らない……か」
「ユーリ?」
「んや、これ以上話してても朝がつらくなるだけだぜ」

今まで会話を黙って見守っていたユーリが急に口を開いたので、私が彼を見るといつもの笑みを作った。
彼は部屋の隅に行くと、いつも寝るように剣をたて、茣蓙を組む。
大部屋といっても全員分のベッドはなく、何人かはベッドからあぶれてしまっている。
ソファを陣取るレイヴン以外みんなベッドにこもってしまった。
私は彼のものに行くとひざを折る。

「ベッド変わらない?」
「俺は別にここでもいいんだけど」
「私、自慢じゃないけどどこででも寝られるんだよ」
「知ってる」
「……知ってるってなんで……」

野宿などで我さきに寝てしまうことはあるけど、そんなばっさりと言い切らなくたって。

「俺のことは気にすんな。お前だって体調戻ってないんだろ。さっさと寝ろ」
「……それじゃあお言葉に甘えて」

そんな冷たい言い方しなくてもいいじゃないか。
私は少し腹を立てながらも自分のベッドにもぐりこむ。
「おやすみ」とう小声で言えば「ああ」と返事が返ってきたような気がした。


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