お色気作戦


「あの、お兄さん?」
「え?あ、どうしたんですか?」

あぁ、もう視線が痛い。
結局労働キャンプへの入り口を見張る男に早速声をかけた。
騎士団の男はユーリよりも2、3上、甲冑でよく顔は見れなかったが遠目から声をかけた私に警戒しているようにも思えた。
そして少し離れたもの影から仲間たちが成功を祈るは間違えで面白いものを見るような感じでこちらをじっと見ていた。
よくよく考えればここにはこの人以外の見張りはいないし、ここでばれないように一発いれて気絶してもらうことは出来ないだろうか。
でも、カロルが黄色い声を上げそうな気がするから、ここは苦い思いしても耐えよう。

「あの、ちょっと困ったことがあったんです、少し来てもらえないでしょうか?」

と、手を組んでお願いポーズをとって見る。
これが女の武器である。
昔、天を射る矢にいるときこれで何人もの人を騙し……いやここは色気で好きなものを買ってもらった覚えもある。
騎士の男の顔が見る見る赤くなっていくのが分かった。
甲冑の顔部分をあげて、こちらをじっと審査するように見る。
実は嘘を吐くのが苦手で内心はらはらしながらじっと男を見据えていた。

「あ、助けてあげたいのは山々なんですけど、今は勤務中でして、その」

当然の返しだ、むしろ大正解な答え。
しかし、押されて引くわけにはいかない。」

「それは分かっているんですけど、あの私……他に頼れる人いなくて」

もうこうなったらやけだ。
やるだけやったろうという気持ちでいっぱいだった。
甘えた高い声を出すと、どぎまぎとする騎士。
あぁ、実際やるのは初めてだけど男はこんなものに弱いのだと。
私はさらに近づき、騎士の腕を胸に抱く。
「ひ」と声を上げる騎士を見上げ止めをさす。

「お願いします、ね」
「えっと、じゃあ少しだけなら」

勝った。
私の完全勝利だ。
心の中ではほくそ笑んでいたと思う。
はらはらと頬を赤く染めながら歌を歌うように私の誘いにのこのことついてくる男を少しは哀れんで、少し馬鹿だなぁと思いながらも人気のない場所に連れ込もうとする。

「あの」
「はい?」

と、私が振り返った時、騎士は恐ろしいほど間近に居た。
距離にして約30センチ。
歩数にして1歩。そしてじっとこちらを見る獣のような目。
このままだとどんな暴走が始まるか、予想もつかなかった私は遠くから見守るユーリたちの下へ早歩きしていた。
走って追いついてくる騎士、隣で必死の形相でついてくる、怖い助けて(棒読み)
すぐに印を結び、術式を描くと私の周りを電気が走った。
「ひぃ」と声をあげる騎士だがもう遅い、そして手遅れ。
少しは乗り気になったものの何かがだめだった。

私は雷撃を放とうとしたがそれよりも先に黒が私の横を横切った。
目にも留まらぬ速さで腹に一撃入れたのはユーリだった。
音もなくその場にずるずると倒れる騎士。
ユーリはそのまま騎士を物陰に引き込んでいく。「何か釈然としないのだけど」
「エル、お疲れ様です」
「思っていた以上ね、本当に惚れさせるなんて尊敬しちゃう」「あれは絶対に違う……」

そう軽く叩いたジュディスだけども、もし男に力技でこられたら危なかったわけで今回はかなり危ない橋だったような気がする。

「まぁ、こいつの気持ちも分からないでもないけどな」
「何かいった?ユーリ」
「とっても似合うっていうことだな」
「……?」

眉をひそめて「本気でいってるの?」と聞き返すと「あぁ、童顔なところがな」とさも何もなかったかの用に返される。
それは昔から気にしていたことなのに。
記憶喪失で性格な年は分からないものの、リタやエステルの間くらいつまり17くらいだと感じている。
まぁ、正式ではないけど自分で体のつくりとか、後は周りの扱いとかでそれくらいだと。
それなのに、周りからはリタか、それよりも下扱いされることだってあるし、ユーリが指名手配されたとき私の外見も書かれたが、13、4くらいとか書いてあったけ。
世界的に有名な作家を捕まえて子供扱いはないと思う。
私はちょっと怒りを覚えたが聞かないふりをしたユーリにはもう何もいうまい。
口を尖らせながら彼らの次の行動を見ていた。
ユーリとジュディスは私が誘導した(騙したとはいわない)騎士の身包みを剥いでいく。
何でも私が頑張っている間に次の作戦、騎士になって騎士団の本部に乗り込み、労働キャンプで何が行われるか探りにいくらしい。
確かに、考えてみると執政官が嘘を吐いたとしても正規の事業が行われてそこに私たちが乗り込んだとしたら取りこし苦労はおろか、犯罪集団になりかねない。
ただでさえ、初犯じゃない人物がここにいるし。

「じゃあ、今度はユーリが行こうか?」

にやりと笑った私に「はぁ?」と苦笑いを浮かべながら小首をかしげるユーリ。

「だって私だけ不公平じゃない」
「カロル先生だっていいだろ、お前の姿みて笑ってたし」
「へー、それは初耳だな」
「ゆ、ユーリだってくいるように見ていたじゃない」

と、言い合いをはじめる二人だけども要するに二人とも私を見て楽しんでいたということが伝わってきた。
身包みを剥ぐジュディスに視線を送るとにこにこと笑みを崩さないままユーリに男の服を手渡す。
さすが、分かってるなと私は内心にやりと笑っていた。

「まじで俺か」
「いってらっしゃい」
「いってらっしゃい」

私とジュディスの声が重なって彼を見送る。
しぶしぶ影で着替えたユーリ、いつもと違い、ぴっちりとした騎士団の制服を着た彼を見て思わず噴出しそうになった。
口を押さえて出てくる笑いを抑える。

「ふふっ……」
「そこ、笑うな」
「似合わないね」

さらりといったカロル。
しかし、自覚はあるらしいユーリは「そうだな」と面白くないように答えた。
フレンのように騎士団の格好をしたユーリはそれなりには絵にはなるんだろうが、着方や態度はどう見てもその変のちんぴらにコスプレをさせてみました。
にしか見えないのは私だけだろうか。
昔、騎士団にいたというユーリはここまでひどくないだろうかと心配になってきた。

そんなやり取りをしていたら遠くから血相を変えて近づいてくる騎士の姿があった。
隠れようとも思ったが騎士はユーリの前で止まると何をしているんだとまくし立てると

「おい!こんなところで何、油売ってるんだ!」
「お?どうした?」
「詰め所が大変なことになってるんだ!」

それを聞くとユーリはノリノリの様子で走り去る騎士の後を追う。
私たちは隠れながらユーリに手を振る。
大人しくじっとユーリの帰りを待っていたときだった。

「何か音がしなかった?」
「え?」
「確かに、何かが爆発した音、かしら?」

私とジュディスがふっとユーリが騎士を追った方角に目をやる。
ジュディスのいうとおり、確かにあっちの方角から耳を裂くような轟音が聞こえてきたのだ。
それは一回だけではなく何回も何回も。
ユーリを信用していないわけではないけど、こう続くと心配になってきて様子を見に行こうとしたときだった。

「ただいま」

とユーリが普段の格好で様子を見せる。
「おかえり」と出迎えるよりも先に何があったと聞こうとしたときに彼の後ろで不機嫌そうに鼻を鳴らし、腕を組む少女の姿があった。
アンシンメトリーの装束を纏う天才魔導士、リタだった。

「リタ?」

エステルが駆け寄ると疲れきった声で「エステル」と名を呼び返す。
リタは確か、数日前にダングレストで別れたはずだった。
帝国からの命令、エアルクレーネの調査に向かったはずなのになぜここに?
と、ユーリにそう問うと「俺がききてぇよ」と一蹴されてしまった。


「それで、どうしてリタはここにいるんです」

ヘリオードの結果魔導器の裏で姿を隠し、彼女に飲み物を与えて落ち着かせると私はユーリに事情を聞いた。
何でもユーリが騎士の詰め所に連れて行かれるとそこには悪質なクレーマーのように闘争心むき出しのリタが「責任者を出せ」と火の弾を浴びせていたというの。
それを抑えてそのまま騎士の詰め所から逃げてきたという。
そしてリタに事情を聞くと彼女はエアルクレーネの調査の前に前に暴走したこの街の結果魔導器の様子を見に来たとき不審なものを目にしたという。

「で、余計なことに手を突っ込んだ。と」

ユーリが嫌味たらしく言う、エステルが心配そうに「どうして?」と問う。
リタは苦虫を噛み潰したような表情で語った。

「夜中にこっそり労働者キャンプに魔導器が運びこまれていたのよ。その時点でもう怪しいでしょ」

魔導器はとても希少なものである。
魔導器自体は模造品なども出来るわけだけども魔導器を動かす魔核は今の時代において造りだすのは不可能だといわれている。
それは技術的にも未開であるし、何より魔核のメカニズムが解明されていないからでもある。
だからこそ、魔導器は数少なくとても希少で一般の市民には到底手の届くものではなくその所有は帝国の貴族が独占している。
それがこの大量にこの街の労働キャンプに運び込まれていたというのだから疑いを持つのは至極当然の結果だ。

「それでまさかこそこそ調べまわって捕まったわけか?」
「違うわ、忍び込んだのよ」

彼女の性格を考える以上、猪突猛進というのが似合うのだろうか。
まだこそこの嗅ぎまわって捕まったという方がかわいいだろうに。
カロルが「で、捕まったんだ」と鋭い突っ込みを入れるとリタが今度は怒りを露に答える。

「だって、怪しい使い方されようとしている魔導器を放って置けなかったから」
「なんか、魔導器が恋人みたいな発言」
「それをいうなら子供だろ」

私、ユーリと順番の発言に「五月蝿いわね」とリタは怒号を飛ばす。
リタは咳払いをすると気を取り直して続ける。

「そしたら、街の人が騎士の脅かされて無理やり働かせててさ」
「まさかって当たるものだね」

私は予想できた事態に肩をすくめた。
ジュディスもそれは一緒だったらしく他の3人は目を丸くして驚いていた。

「もしかしてティグルさんもそこに?」
「……こんなの絶対に許せません!」

拳を握り締め立ち上がったエステル。
不義を許せない彼女にとって騎士の行っていることは許しえないことだろう。
意外と熱血漢なんだな、とエステルを見て私はみなに視線を戻す。
ユーリは冷静に状況を整理しようとリタに問う。

「それで運び込まれていた魔導器ってのは?」

確認のためだ。
これで普通の駆動魔導器だなんていわれたらそれこそ忍び込み損だ。

「兵装魔導器だった。かき集めて戦う準備をしているみたいよ」
「え?」
「まさか、ダングレストに攻め入るつもりなんじゃ!?」

兵装魔導器は戦争に使われる重火器の性能がよいものだ。
ヘラクレスにつまれていた大砲や、バルボスの部下が使っていたものがそれに当たる。

「でも、どうして。友好協定が結ばれるっていうのに」
「表向きだけでしょ?帝国の評議会の人間は納得していない人のほうが多いだろうしね。ここの執政官とやらもその一人なんでしょう。とにかくどうする?」

エステルの問いに私は冷静に答えると彼女は「そうですね」うつむく。
彼女が帝国の姫といってもこればっかりは彼女の責任でもないのでこれ以上はいえない。

「とにかく、いってみようか」

「労働者キャンプ?」と私が探るように、疑問を問いかけるようにみなに尋ねると、仲間はみんな首を縦に振った。


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