満月の子と凛々の明星


満月の子、デュークは私とエステルをそういった。
満月の子、伝承では凛々の明星とともに語られる。

エステルはデュークが砂漠で私たちを救ってくれたといったが、私はそれを否定し、オレンジの羽根を見せ付けた。
そしてユーリが言った、魔物のようなものを見たとは言った。
しかし、気がついたときには街の前で置き去りにされていたのだから。

「そういや、あいつの言っていた満月の子って前に言っていた凛々の明星の妹だよな」
「……そうだね」

デュークの家から出てきてすぐにユーリが不意にもらした言葉だった。
私が頷くと、目を瞑りエステルは歌うように伝承を語る。

「ええ。地上満る黄金の光放つ女神、君の名は満月の子。兄、凛々の明星空より我らを見る、君は地上に残り、賢母なる台地を未来永劫見守る」
「それ、何か意味あるの?」
「わかりません、でもただの伝承ではないかもしれません」
「……」
「どうしたのじゃ?エル姐。さっきから具合が悪そうなのじゃの」
「……え?」
「本当だ。具合悪いなら言わなきゃだめだよ」


とさりげなくレイヴンが肩を触ってくるから払う。
具合が悪いは違う。
さっきから満月の子という言葉を聞くと、背中が寒くなるのだ。

「地上に残り、大地を見守る……」
「違うわ……」
「え?」
「そうじゃない……本当は……」

本当は違うんだ、と「ワタシ」は言う。

「おい、エル大丈夫か?」
「私、何か変なことを言った?」
「さっきから変だぞ。何か思い出したのか?」
「そういうわけじゃないけど……」

そう、本当になんとなく出た言葉なんだ。
最近ずっと続いている何かにとり憑かれるようなおかしな感覚。
でもそれを悪いものとか気持ち悪いとか思えない。

「で、地上に残り、大地を見守るね」
「じゃあ、皇帝になるって人?エステルが満月の子ならそれでつじつまが合わない?」
「だとすると代々の皇帝はみんなフェローに狙われるわな」
「そんな話は聞いたことないです」
「うーん……」
「ちょっと待って。だとするとエルはどうなるの?」
「あ……」

みんなの視線が私に集まった。
カロルが言った推理が正しいのならば、私も

「私も皇族だっていう話?それはないわ……」
「そうだよ。ねぇ?」

と苦笑いを浮かべ、仲間を見渡すカロル。
私が否定の言葉を口にする。

「前にドンが騎士団の知り合いに私の身元を調べてもらったっていうけど少なくとも帝国には記録が残ってはいなかったというもの」
「うーん……」

エステルと同じだとしても私は違う。
皇族でもないし、何かが違う。
どちらにせよ穴だらけの推理なのだ。

「なんか難しい話になってるみたいじゃのう」
「そうねぇ、パティちゃんにはちょっと難しい話かもね」
「おっさんにも難しい話じゃの」
「後であなたにリタがゆっくり話してくれるわ」
「あ、あたし……?」

急に話を振られたリタは「冗談言わないでよ」とジュディスは食ってかかる。
「あたしは調べたいことがあるから」とそれを断るので私が変わりに宿屋で教えるからと約束をする。

「澄明の刻晶……聖核のこととか色々。正確にはここにいるあいつに聞きたいことがあるの。あんたらが帰るならここでお別れね」
「え!」
「あー。残念ね。気をつけてね。リタ。一人はつらいと思うけど」
「砂漠一人で大変だと思うけど頑張って」
「う……そうか。砂漠を越えなきゃいけないとダメだった」

私とジュディスがふざけて見放すように言うと、リタが悪趣味とでも言いたそうな顔をする。

「調べもんの間くらい俺らがいてもいいんでない?聖核のことは俺も興味あるし」
「本当は掠め取ろうとか……」
「いくら俺でもそこまでひどいことしません」
「また砂漠に行くならのんびりと準備でもするのじゃ」
「そういえば、パティってどこでユーリとあったの?」
「あー。砂漠でな」

今更ながら聞くけど、いつの間にかパティと分かれて、いつの間にか合流をしていたという。
そのときは話を聞けなかったけどどうやら砂漠のど真ん中で拾ったらしい(ユーリ談)

「そうだな。出発は明日にするか。リタ、一日あればいいだろ?」
「えぇ。十分よ。あ、ありがと。……一応お礼言っておく」
「はは。どういたしまして。じゃあ明日の朝、街の出口集合な」

とユーリの言葉にみな頷いた。
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