幻想郷の賢人

街の人に聞いた賢人の家は街の置くにある、一番大きな屋敷らしい。
私たちは澄明の刻晶を片手にその家を訪ねる。
ノックもなしに「邪魔をするぜ」とふてぶてしく部屋に上がるユーリ。
これが帝国の下町流なのかと、ちょっと疑問に思う。

「え?この人が?」
「あ……」

賢人で、この街で偉い人間だと聞いていたから、想像していたのは街の権力者か何かだったのだが、そこにいたのは銀の長髪に、緋色の瞳。
どこか不思議で近寄りがたい空気を持つ人、デュークだったのだ。

「あんたは……」
「誰なのじゃ?」
「えっと……」

パティが私を見上げて問うが、なんて答えればいいか分からなかった。
私たちはデュークについて何も知らない。
気まぐれに現れて助けてくれたり、なんとも難しい話をして帰っていく。

「ここに来るまで何度かあっただけだよ」
「おまえたち、どうやってここに来た?」

突然の訪問者が私たちだとは思わなかったのだろう。
それに、なぜ砂漠を越えたここにたどり着けたのかと。

「どうやったって……足で歩いて、砂漠を越えてだよ」

ふっと笑って「なるほど」と返したデューク。
彼の様子を見る限り、普通に来ただけではここにはたどり着けないということだろうか。
私も彼らをここにつれてきたが、どうやってきたかも覚えていない。
ただ、身に覚えがあるのは手元にあるオレンジの羽根のみ。

「ここになにをしに来た?」
「こいつについてちょっとな」

と、エステルから澄明の刻晶を取り出すと、デュークはそれを受け取った。
そしてしげしげと見つめ、なぜか

「わざわざ悪かったな」
「いや……まぁ、なりゆきだしな」
「そうか……だとしたら奇跡だな」

「どういうこと?」と聞こうとした私を押しのけリタはデュークに詰め寄る。

「あんた結界魔導器を作るって言ってるそうじゃない。賢人気取るのもいいけど魔導器を作るのはやめなさい。そんな魔核じゃない怪しいものを使って結界魔導器を作るなんて……」
「魔核ではないが、魔核と同じエアルの塊だ。術式が刻まれていないだけのこと」
「術式が刻まれていない魔核……どういうこと?」
「一般的には聖核と呼ばれている。澄明の刻晶はその1つだ」
「これが、聖核?」
「聖核……?」
「おっさんが探しているお宝かの?」

私とレイヴンがデュークの手元にある澄明の刻晶をくいるように見つめる。
聖核のという響きは私の脳内にもともとあったかのように染み付いていた。
レイヴンはドンから聖核を探すように命令されているのだ。

「それに賢人は私ではない」
「え?」
「彼のものはもう死んだ」
「そりゃ、困ったな。そしたらそいつはあんたには渡せねぇんだけど」
「そうだな、私には、そして人の世にも必要ないものだ」

とデュークは澄明の刻晶を床に落とすと、手に持っていた例の剣を切っ先を突きたてた。
すると、澄明の刻晶から光をまとったエアルを放ち、そして溶けるように消えていったのだ。

「あー!なにすんの!?待て待て!」
「ケーブモックで見た現象と同じ……」
「リゾマータの公式……」
「はぁ!あんた今何かいった!?」
「え?私?」

その現象を見つけ、ぽつりと吐いた言葉に食いついてきた、リタ。
自分でもどこからそんな単語がでてきたか分からなくて胸倉をつかもうとするリタを押し返す。

「せっかくの聖核を……」
「聖核は人の世に混乱をもたらす。エアルに還したほうがいい」
「澄明の刻晶は……いえ聖核のはこの街を魔物から救うためには必要なものだったんじゃないですか!」
「この街に結界も救いも不要だ。ここには悠久の平穏が約束されているのだからな」
「確かにのどかなところだけどな」
「……千年間、無事だったしね」
「でもフェローのような魔物も近くにいるんですよ」
「なぜフェローのことを知っている?」
「そりゃ、こっちの台詞だ。あんたも知っているんだな」

とユーリが返すとデュークは目じりを下げ、少し考える。

「知っていること教えてくれませんか?私、フェローに忌まわしき毒だといわれました」
「……なるほど」

私も聞きたかったことをエステルが代弁をしてくれたようだ。

「なるほど……」
「何か知っているんですか?」

とエステルはさらに詰め寄り、私は後ろでじっとそれを聞いていた。

「この世界には始祖の隷長と呼ばれの忌み嫌う力の使い手がいる」
「それが……わたし?」

そしてエステルは私を見、そしてデュークは私視線を移した。

「その使い手を満月の子という」
「……満月の子って伝承の……、もしかして始祖の隷長っていうのはフェローのこと、ですか?」
「その通りだ」
「じゃあ……なんで始祖の隷長は満月の子を忌み嫌うの?」
「真意は始祖の隷長の本人の心のうち。始祖の隷長に聞くしかそれを知る方法はない」
「やっぱりフェローにあって直接聞くしかないってことですか?」

デュークは確かにそう告げていた。
しかし、彼は表情1つ変えずに言った。

「フェローに会ったところで、満月の子は消されるだけ。おろかなことはやめるがいい」
「でも……!」
「エステル、もうやめとこう!」

リタがデュークにさらに詰問しようとするが彼は聞いて答えるような性格をしているような人じゃない。
ジュディスも私に「あなたもいいわね」と聞く。
私も内心はエステルと同じ気持ちだった、デュークに聞いて、自分の記憶の手がかりになればとずっと思う。

「始祖の隷長って前に遺構の門のラーギィ……イエガーも言っていたよね?」
「ノードポリカを作った古い一族……だっけ?」

とカロルとレイヴンがぼそぼそと会話をしているとデュークは背を向けて言う。

「立ち去れ、もはやここには用はないだろう」
「待って!あたしもあんたに聞きたいことがある。エアルクレーネでなにをしてたの?あんた何者よ!その剣はなに?」
「お前たちには理解できることではない。どうしても知りたいならその娘に聞いてみるがいい」
「わ、たし?」
「ちょ、なによそれ!」
「リタっち、いくよ」

といまだデュークの元に走っていきそうなリタを引きずっていく
なぜ、デュークが私に聞けと聞いたのか分からないまま、みんなに続き、部屋を出ようとしたとき。

「私にもフェローがなぜお前を狙ったかは分からない」
「?」
「……。自覚はないか。お前には始祖の隷長とは別の何かが眠っている……。そして満月の子とは違う何かが、世界にとって毒になっているようだな」
「……眠っている……?」
「こいつのことなんか知っているのか」
「……去れ」
「行くぞ、エル」
「あ……うん」

とユーリに無理やり手を引かれたのでおとなしく部屋を出ることにしたが、この場で一人だったらもっと聞きたいことがあった。
まるで覚えていたかの用に自発的に出た言葉。
「始祖の隷長」「リゾマータの公式」「満月の子」

そして

「凛々の明星(りりのあかぼし)……?」

そう呟いた、私ではない何かは真っ青な空を見上げ、ため息を漏らした。

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