新興都市の異変

「ちょ、待ってジュディス」
「あら、いいじゃない?」
「あー。もう!」

いいたい言葉を遮られて私は押し黙った。
ジュディスは嫌な笑みを浮かべながらぐいぐい私に押し付けてきた。


ヘリオードに着いた私たち。
そこで目にしたのは前回の結果魔導器とは違うものだった。
一泊するために宿屋に向かっていたが、帝国が興す新興都市として帝国からの移住者が大勢いて賑わっていたはずだった。
なのに、今は人通りがまばらでおまけに至るところに騎士団が配置され、街を監視しているようだった。
街に降りて理由を尋ねると新しい、執政官が来てから騎士団が街を監視するようになり、おまけに行方不明者も多数出ているという。
手がかりを探す中で見つけたのがカプワ・ノールで出会ったティグル妻ケラスと息子のポリーだった。
彼らはノール港から聞きつけた噂でこの街に越してきたという。
その内容がなんとこの新興都市の発展に力を貸したら、貴族としての地位をもらえるというもの。
しかし、帝国の法は貴族の地位は皇帝がつけるものである。
貴族の罷免は皇帝と評議会、騎士団が定める法によって決まるものである。
よって今皇帝不在の今は貴族になることは不可能なのだ。
ティグルはそれを信じて、新興都市にある労働キャンプに行ったきり帰ってこないという。
それを聞きつけたユーリとエステルの放って置けない病が発症したらしく、労働キャンプに向かうことになったのだけど、そこで問題が発生した。
入り口を監視する騎士の一人だ。
カロルがどうしても旗揚げした凛々の明星と騎士団が表立って対立することを望まなかったので、新しく手段を講じることになったのだけど。

「私じゃ、無理だよー」
「みんなで決めたことじゃない?民主主義なのよ」
「それは違うと思うけど」

多数決で決まったとかそんなんじゃない。
ユーリの一言で今、私は宿屋の部屋でジュディスが選んできた洋服に袖を通している。

「大体、色仕掛けって何さ……」
「あら?私はいい作戦だと思うわよ?」
「はぁ……」


「何で?私が?」

白羽の矢を立てられたのは私だった。
それはユーリが「エルやってみるか?」と意地悪な笑みを浮かべてそう問われたときに思わず口をぽかんと開けたまま聞き返してしまった。
隣でジュディスがにやにやとしていたのが目に入ったけど、足元のラピードは無言で私に何かを訴えていたし、帝国の姫であるエステルにやってもらうわけにはいかない、ということらしい。
だったらジュディスがやればいいじゃない、適任だよと反論するにしたが「いいじゃない」と押し切られた。

服屋でジュディスが選んできたという洋服に着替える。
ニコニコ顔のジュディスに見守られながら。

「何でジュディも着替えているの?」
「あなたが失敗したときの保険ってところかしら?」
「あ、そう……」

すっかり乗り気のジュディスにはもう呆気しか出てこない。
私の着替えの手伝いをするジュディスはクリティア族特有の髪の下から伸びる触角にはお洒落にもクリスマスシーズンに大活躍しそうなサンタみたいな赤い帽子?にまるでビキニのような薄布ででかすぎる胸を強調し、下はふとももを惜しみなく見せる短すぎるスカート。

「ジュディがいけばいいんじゃない?」

正直な感想、ある意味第一走者である私が行くより、ジュディスがいったほうが確実。
私もジュディスほど胸があるわけじゃないし、そんなお色気むんむんな服を着れるわけじゃない、生理的に無理。

「あとは髪の毛を縛ればおしまいね、さ。後ろ向いて」
「あー……」

と、飾りのついた小さなシルクハットを手に取ったジュディス。
向かいあってリボンを私の首から耳に通していく。

「あのさ、ジュディのはいいと思うけど、私のコンセプト。おかしくない?」
「男の人を落とすのは何も露出だけじゃないのよ」
「それは、分かるような分からないような気もするけどさ」

私の意見などジュディスの笑顔ひとつでつぶされるのだから何を言っても無駄になってくる。
リボンを私のあごできれいに止めるとジュディスは「おしまい」と手を叩き、すべてにおいてあきらめた私の手を取る。

「でも、たまにはお洒落したほうが楽しくない?真剣に旅をしてばっかだと疲れちゃうでしょ?」
「それはそうだけど、何も。ね」

と私は思わず自分の格好を改めて見る。
黒いロングスカートの裾には豪華フリルがついていて、おまけに太ももの上までスリットが入っていて、下着が見えるんじゃないかと正直心配だし、足もスースーする。履きなれない高いヒールのブーツも今すぐ脱ぎ捨てたいし。
胸がユーリみたく開いた同じくフリフリのシャツに黒い革のベスト、そしてシルクハット。
さすがセンスのいいジュディスが選んできたもので、最終的には上品にまとまっているものの、これはどう見てもアンティークな人形が着ているようなゴッシクな古いドレスだ。

早速とジュディスがロビーで待っていたユーリたちのもとに連れて行かれる。
こうなってしまったからには腹を括らなければならないけど、足取りは重かった。

「ジュディス、すごい格好だね」
「あら?どうかしら」

目のやりどころに困るジュディスを直視できないでいるカロル。
ユーリも同じように視線を泳がしていた。

「で、真打は?」
「エル隠れてないで出てきたら?」
「だって」

ジュディスの背中にしがみついて離れない私を無理やりかつ丁寧にはがすジュディス。
そのままユーリとカロルの前に突き出される。
仲間の視線が痛かった、場が一瞬凍りついたような気がして、私もどうしたらいいか分からなくて「あー……」としか声が出なかった。
ジュディスに比べれば、胸は、な、ないし。なんていうより間違っている。
出来ればここで「やっぱりジュディスがいこうか」っていう展開を期待していたのに。

「あの?」
「か、かわいいです!」
「は?」

と、抱きついてくるエステルの肩を押して戻す。
カロルもすごいよと声を上げる。
何がすごいのか、と聞き返そうとすると、ユーリが淡々と「さぁ行こうか」ときびすを返す。

「ちょっとまった」
「何だよ」
「普通、ここでやっぱりジュディが行こうか!みたな事にならないの?」
「いいじゃねぇか、それで」
「そうですよ!」

エステルもなぜか今日は強くユーリに賛同している。

「かわいいぜ、それ」
「そうです!」
「でも」
「さぁ、行きましょ」

民主主義なこのメンバーが憎い。
エステルとカロルに手を捕まれ、街の人々の視線を気にしながら労働キャンプへと向かうが先を歩くユーリとジュディスの話がこちらにも漏れてくる。

「だから言ったでしょ。あの子がやったほうがいいって」
「あぁ、いいもの見せてもらったわ」

ユーリをそそのかしたのはジュディスであったのをその時知ってあとで絶対にし返しをしてやると決めた私だった。
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