噛み合わない歴史

私はまた嘘をついた。
ユーリに、そして結局はみんなに。
砂漠で倒れていた私たちの前にユーリに言ったとおり巨大な魔物が降り立った。
彼女?は私に言った「皆を助けたい」かと。
私が小さく返事をして意識を手放し次に起きたら目の前に街が広がっていた。
そして私の手にはその魔物が残したであろう、オレンジ色の羽根が握られていた。
なんとか立ち上がって街で助けを求めた。
でも、ユーリも感じたようにあれは幻覚だったかもしれないし、口に出していえない気がする。

ヨームゲンの街は田舎というか、現代を感じない雰囲気だ。
不思議なことに街には魔導器が存在しない。
魔導器なんてはじめからないようなそんな生活を送っている人々はまるで民族衣装のようにどこか古めかしい服をまとっている。
それに一番特徴的なのが、結界魔導器が存在しないことだった。
ここは砂漠の近くで魔物も少なくない。
私たちにとって結界魔導器が存在しない世界だなんて考えも出来ない。
しかし街の人々は魔物に襲われるという恐怖なんて持ち合わせていない。
その感覚すらないのだから違和感しか感じない。
そう、前にヨームゲンという街を聞いたのは、アーセルム号で発見した航海日記の中身だ。
エステルとリタがそんな会話をしながら街を探索しているとき一人の女性に声を掛けられた。

「あの」
「え?」

呼び止められたのは私かと思い、振り向く。
しかし、その女性は私ではなくエステルに向かっていた。
エステルの手の中にはあの紅色の小箱が納まっていた。

「それをどこで?」
「アーセルム号ってやつですよ。美しい方知っているのかい?」

とエステルを押しのけて出てきたのはレイヴンだった。
確かに声をかけてきた女性は大人しそうなツインテールの女性だ。

「なに、しゃしゃり出てきて……ってジュディ。その手のものは?」
「え?何かしら?」

とジュディスの手の中にある槍を収めさせるとレイヴンたちの話を戻す。

「えぇ。あなた方、アーセルム号をご存知なのですか?!」

アーセルム号にくいついてきた女性はレイヴンの肩をつかむ。
それで気をよくしてきたレイヴンは口説き落とそうとでも考えたのか顎を撫で言う。

「えぇ、偶然。海で見つけて……」
「ロンチーに会いませんでしたか?」
「ロンチー……?」
「どちらさん?」
「あ、私の恋人の名前です。すみません。突然……」
「恋人……」

レイヴンは突然出てきた恋人の名前に萎えたらしくカロルに「バトンタッチ」だなんて言い出す。
カロルは心底あきれながらも女性の前に立つと丁寧な言葉を選びながら。

「えっと、僕たちがみたのはその船の方だけなんだ」
「あなたの名前を聞いていいかしら?」
「あ、私はユイファンといいます」
「……あの航海日記の名前……」

私がぼそっと呟くとジュディスは無言で頷いた。
ユーリも私たちを見、そして

「あんた澄明の刻晶って知ってるか?魔物を退けるものらしいんだが……」
「結界を作るために必要なものだと賢人様がおっしゃってました。まさかその中に……」
「はい。私たちが届けにきたんです」
「そう、だったんですか」

とユイファンさんがポケットから取り出したのは同じ紅色の鍵だった。
そしてエステルから小箱を受け取ると、鍵穴に差し込んだ。
中に入っていたのは拳位の大きさのスカイブルーの結晶だった。

「うわぁ。これがもしかして澄明の刻晶?」
「みたいね」
「ぴかぴかきらきら、海面で瞬く夜光虫よりもきれいなお宝なおじゃ」
「……で、さっき言っていた賢人様って誰のことだ?」
「賢人様が砂漠の向こうからいらしたクリティア族の偉いお方です」
「クリティア族?」
「結界を作るってことは、魔導器を作るってことよね?」
「ぶらす……てぃあ?さぁ?」
「もしかして魔導器を知らない?」
「えぇ」

私がユイファンさんに聞くと当たり前のように頷く。
まさか、この世界で魔導器の存在を知らない人が居るとは思わなかった。
私たちが生活していくのに当然のようにあるもの。
料理をするにも洗濯をするのにも移動するのにも魔導器は欠かせないというのに。

「でも今の技術じゃ魔導器は作れないんでしょ?」
「それを作るやつがいるの。見たでしょ?エフミドやカルボクラムで。その賢人様とやらがあの滅茶苦茶な魔導器を作っているんじゃないでしょうね」

とリタはユイファンさんに詰め寄るように言うと、彼女は迫力に押され、後退しながら言う。

「ご、ごめんなさい。私もよく分からないんです……。とにかく結界を作るのに澄明の刻晶が必要だって。賢人様が仰って。それを探しにロンチーは旅に出て、もう3年になります……」
「3年ね……そりゃ心配するわ」

と、ユーリはユイファンさんに「ちょっと待ってくれ」と残すと、こちらに来る。
そして彼女には聞こえない声量でカロルは疑問を口にする。

「なんか色々話がおかしくない?」
「なんだか、会話が噛み合っていませんね」
「千年の間違いじゃない?」
「それかもしくは……。あのアーセルム号にあった日記が偽者だったとか?」

そう、仲間の言うおかしなことは、ユイファンさんが生きていたことから始まる。
アーセルム号にあった日記に確かに彼女の名前があったが、日記の日付は千年も前のものだった。
ユイファンさんが子孫か、または同姓同名と考えても、ここまで当事者のように語れるのは、おかしい。
本人でなければ。

「そりゃねぇだろ。あの船の様子とか見る限り」
「じゃあ、彼女、何歳?」
「1000歳を軽く越すかな……ありえる?」

と、言い出したリタに返すと首を横に振られる。
どんなもの食べたらそんな長寿になるのか逆に聞きたい。

「3年前にも千年前にも同じことがあったのじゃ、多分」
「歴史は繰り返されるというけどそれはどうよ」
「んー。結界がいまだないところを見ると考えられなくともないけど。そもそもこの街、千年も前からあったの?結界がない状態で?」
「あ……」

そもそも、この街自体歴史を感じる町並みなのに、魔導器ひとつなく、帝国騎士団やギルドなど魔物から身を守るすべがないのにどうやってやってきたのか、疑問が生まれるばかりだ。

「その賢人様という人に話しを聞いたほうが早いと思うけど?」
「そ、そうかもですね」
「あ、あのう……それじゃあ澄明の刻晶を賢人様のところまで持っていっていただけますか?」
「えぇ、もちろん」

とユイファンさんの頼みにうなづくエステル。
急に会話に参加したユイファンさんに私は年齢の追及について聞かれていないか、ひやひやしたが、どうやら取り越し苦労らしい。

「じゃあ、すみません。お願いします」

とユイファンさんは私たちに深く頭を下げた。

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