紫の騎士の横暴

次の日の早朝にユーリたちは宿屋をたった。
レイヴンに散々いい子にしてろだのいわれ、私は部屋から顔を半分覗かせた朝日を見つめる。
ユーリたちの話を盗み聞きすると今日の昼までに準備を揃え砂漠に出るという。
本当に大丈夫なのだろうか、砂漠の中央地帯、普通の人間なら誰も寄り付かない場所だし、魔物もいるだろう。
いくら、私とエステルのわがままだkらって(エステルはちゃんと彼らを雇っているけど)そんな危険なところに行ってしまった仲間を思わないわけがない。
無事に帰ってくるようにそう祈る思いで、まだ暗い水平線を見ていた。



それからしばらくした後だった。
相変わらずペンと紙を片手に部屋の机を前にしていたが、こんな状況下で落ち着いて書けるわけもなく、私は何度も窓と机を行き来している。
そんな中、見つけて同時に思い出したことがひとつ。

「ここに居る騎士団って、紫のマント」

そう、騎士団には隊ごとに色分けされているのが最近分かった。
某有名なシュヴァーン隊は橙色といったように。
そして紫は

「キュモール隊……?」

そう、あの顔も思い出したくないキュモールが率いる貴族で構成された隊である。
私の予想をまるで的中させたかのように次々と現れる騎士たち。
そして目の前に移るのはこともあろうに、マンタイクの市民を取り囲む騎士の姿だった。

「なにを……やっているの?」

そう、ものものしい雰囲気だ。
2人の男女を複数の騎士が取り囲み、どこかに連れ去ろうとしている。
まばらだがほかの市民はどうすることも出来ずにただ立ちすくんでいる姿。
その光景を見、私は思わず部屋を出た。
思い出した、ヘリオードでキュモールとイエガーが話をしていたことを。
コゴール砂漠に行く、キュモールはそういっていた。
あのナルシストの考えることだ、どうせろくでもないことを考えているに違いない。

私は一気に宿屋を駆け下りていく。
宿屋の店主が止める声がしたけど、私は何も聞かなかったふりをした。
みんな、ごめん。
でも、このおかしな状況を冷静に見ているほど私は大人でもなかったんだ。
男女(夫婦?)が騎士に連れて行かれたのは街のはずれたった。
騎士が5人くらい集まっており、荷を乗せた馬車に連れ込もうとしている。
そしてその光景を満足そうに見ていたのが、呼びもしなかったキュモールだった。

「早く乗れよ!この!」

馬車に乗るのを渋る夫婦に急に逆上したキュモールが鞭を手に取った。
そして地面に打ちつけるとバチンとはじけるいやな音がする。
大人数の騎士と今の状況に夫婦は怯えて、体を縮めながら馬車に乗ろうしている。
ヘリオードの労働キャンプと同じ様なことをしようとしているのか、まったく懲りていない。
私は居てもたっても居られず、チャクラムを手に取り、それを騎士に向かって勢いよく投げた。

「シアリングスロゥ!」

私の放ったチャクラムは炎をまとい夫婦を取り巻いていた騎士を爆風で吹き飛ばした。
当然、あたりは騒然といった感じで犯人を捜す。
特に隠れる必要もなく、私が姿を現すとキュモールの驚いた顔が見える。

「お前は何でこんなところに……」

私なんかより恐れている人物の姿を探す。
しかし、ユーリたちの姿はなく、私一人だと気づくとにやりと笑った。

「な、なんだよ。ひ、一人か!お、お前たちこいつを捕まえちゃいなよ!」
「まーたそういうこといって……」

本当に調子のいいやつと私は心の中で悪態をついた。
所詮はキュモール隊の騎士、私だったら倒せる、はず。
杖を抜き、私は術を唱える。

「凍える氷塊、アイシクル!」

氷の礫が敵の頭部に命中し、2人を倒す。

「な、なにやっているんだよ!早くやっつけろ!」

と子供のようにまくし立てるキュモールだけど、私の次の術は完成している。
もはや、誰がなにを言おうがキュモールの蛮行は許されない。
たとえ帝国に楯突くことになったとしても一度灸をすえておくべきだ。
しかし、私が術を発動しようとしたとき、体を襲う不信感に気づいて術をとめたのが。
あたりを渦巻いていた風が急にやみ、構えていた騎士はぽかんとした顔で私を見る。

でもこの中で一番驚いているのは私だと思う。
足元を見れば、私の影がまるでどこかで見たシャドーマンみたく別の形をかたどって地面を這うように私を見上げていた。

「なに、これ」

そしてそれは自身の意思を持ち、騎士に向かっていく。
叫び声が聞こえた方を見ると騎士がその影に襲われている。

「ちょっと……待って」

その人の影は私の影から伸びていてしだいに大きくなっている。
頭の頭痛が再びぶり返してくる、痛い。
かすむ目を手の甲で痛いほど擦り付けて、視界を取り戻すと私はガスファロストでのことを思い出していた。
闇に支配され、体の自由が奪われる。
まるで紐でつるされているかのように左腕が上がる。
術のコントロールも利かない。

「う、うわぁぁぁ!なんだよこれ!気持ち悪いな!」
「このままじゃ、いけない……」

ガスファロストの二の舞になってしまう。
仲間を襲い、今度こそは誰かを殺してしまう。

(出て行って)

そんな強い意志で声にならない叫びを上げたときだった。
「何で」そんな悲痛に悶える少女のような声が聞こえた刹那、影は私の影に戻っていく。

「な、なんだよ、今の」

まるで何時間も走り続けたような脱力感に襲われて体制を崩した体を起こすこともかなわない。
私が何でこんなことになっているか聞きたい。

「気持ち悪いな、そいつも馬車に乗せちゃえ」
「えっ……」
「立て!」

と、騎士が二人での肩を無理やり起こして乱暴にも馬車に引きずる。

「放して!」

振り払おうとしても男の力には適わないし、おまけに体に力が入らなかった。
私はそのまま、目的地も分からない騎士団の馬車に連れ込まれ、荷車に投げ込まれたとき、強く頭を打ってまた意識を失った。




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