ギルド立ち上げ

「もーへとへと。無理」
「お前なぁ……」

一番最初に根をあげたカロルに続いて私もギブアップ宣言をせざるをおえなかった。
ダングレストを出たのは大体正午、それから日が暮れかけるまでずっと私たちは背後を気にしながら走り続けていたのだから。
私とカロルは汗びっしょりで仲間に訴えかけた。
私は実際、ギルドの仕事をしているとき意外は執筆活動や一人の気ままな旅をしていたし、カロルもまだ子供で体格も小さいのだから当然ユーリたちより体力がないのは当たり前だ。

「そうね、もう何も追ってこないようだし」
「どうして分かるんです?」

空を見上げ、答えたジュディスにエステルが問うとジュディスはただ色っぽい笑みで笑った。

「勘、かしら」
「勘?」
「まぁ、女の勘って結構あてになるんだよね」
「そうね」

信憑性のない答えにカロルもじっとこちらを見たが私たちはそう答えるとユーリも「大丈夫だろ」と賛同してくれ、野宿の用意をするように言ってくれた。
しぶしぶ頷いてカロルとエステル、ラピードのは野宿が出来る場所を確保することになった。

「そういえば、ジュディス?よろしくね」
「挨拶がまだだったわね。よろしく」

思い出したように(実際いままで忘れていたし)ジュディスに手を差し出すと力強く握手してくれる。

「そういや、二人は初対面だったけか?」
「いいや?今まで何度もあってる?よね」

と私がいたずらっぽく笑うと、ユーリは気まずそうな顔で「あぁ」とうなずく。
それでジュディスも察したようで。

「やっぱり気づいてる?」
「まぁ、竜使いと同じ槍を使うし、何より雰囲気で分かるかな」
「雰囲気で分かるものか?」
「後は出で立ちとかかな?」

そう、職業柄人間の行動とかはしっかり頭に残してしまうから。
しかし、ここにいるクリティア族の女性が私たちに殺意を向けて竜とともに魔導器を破壊していた本人だと気づいたのはそれだけでない。
ガスファロストで、ユーリと一緒いん竜使いはバルボスを追ってきてて、そこであった知り合いだというなら、少し勘のいい人なら直感ですぐに分かるだろう。

「なかなか、ごまかせないものね」
「そうかな。それよりご飯の用意しないと。ユーリたちは何も準備なしに出てきちゃったでしょ?」
「あ、あぁ」
「私の携帯用の食料でも次の街に着くまでにはぎりぎりだから近くで何か採ってきてくれない?」
「分かった。適当なものでいいんだな」
「毒入りのものを持ってきたらユーリに食べてもらうから」
「そりゃ、勘弁」

苦笑いを浮かべるとユーリは剣を握り締め、そして森の中に消えていく。
私は笑顔でそれを見送ると、今度は一転、彼女にはきつい表情をしていた。

「私のことはエルって呼んで。私も……ジュディって呼んでいい?」
「えぇ、構わないわ」

ジュディスの承諾を取ると、私はやわらかい笑みを浮かべた。
普通、これから訊く質問を考えると最初と逆だったかもしれない。

「あなたが竜使いならなんで私とエステルを狙ったの?」
「……」

それは忘れもしない。
ヘリオードで傷ついたリタを見舞う私たちを強襲したこと。
こうやって黙って私たちについてくるということはそれなりの思惑はあるのだろう。
帰ってくること言葉を黙って待っている。

「どう、説明したらいいかしら」
「あのダングレストの大きな鳥も私たちを狙っていた。世界の毒だって」
「そうね、あなたにはなんていったらいいか困るわね。でもこれだけ。今あなたたちと一緒にいるのは本当に面白そうだからよ。それにあなたとあの子を狙うつもりはないわ」
「それは、絶対?」
「えぇ」

間髪いれず答えたジュディス。
それは質問には答える気はないが、その一言を信用してくれ、そう語っていた。
普通の人間にならそれに応えるわけないけど、ジュディスはガスファロストで私を救おうとしてくれたとみんなから聞いていた。

「じゃあもうひとつだけ」
「なに?」
「あの、竜?」
「あぁ、バウルのことね」
「バウル?彼……?は何者なの?カルボクラムでも似たような存在にあったけど、見るたびに頭痛がするの。まるで何かを思い出さんばかりに」
「そう、彼らは特異な一族なのよ」
「一族って……」
「それもいずれ分かると思うわ。あのお姫様と一緒にいたら」
「また秘密にするの?」
「そうね、でも秘密が多いのはお互いさまじゃない?」

確かにと私は笑った。
そしてすぐに手を振って近づいてくる仲間たち。

「じゃあ、この話はまた今度ね」
「いいの?」
「聞かれたら困るんでしょ?」

と私は言い残すと、ジュディスとは少し離れて歩く。
「そうね」と頷いた彼女の声は聞き間違えるほど小さく聞こえた。




「明日になったらギルドのことちゃんと決めようね」

揺らめく炎を見つめながらカロルは不意に言葉を漏らした。
すぐに野営に準備をしたが、時間はあっという間に刻まれ、もう深夜に近い時間になる。
空には輝く一番星とそれを囲む、光の雫。
そんな星を見つめながら私は自分で淹れた紅茶を啜っていた。
ユーリも納得したように呟いたが、ジュディスがわざとらしく首をかしげ、問う。

「ギルドを作って何をするの?あなたたち」

私までも見比べられたが私は首を横に振る。

カロルは「え?」と困った表情を浮かべて、ユーリも小首をかしげた。

「何を、か……」

実際本人たちは何をしたいとか決めてないだろう、カロルは単純にドンへの強い憧れであると思うし。
ユーリにいたっては何のためにギルドを一緒に作ろうかなんて私は聞いていないのだから。

「僕はギルドを大きくしたいな。それでドンのあとを継いでダングレストを守るんだ。それが街を守り続けるドンへの恩返しになると思うんだ」
「立派な夢ですね」

「ふふ」とエステルは小さく笑った。
ユーリも彼女の隣でうんと首を縦に振る。

「そういうことならまぁ、俺は首領についてくぜ」
「え……、ボスって、僕が?」
「ああ。お前が言いだしっぺなんだからな」

それには片耳で聞いて空を眺めていた私も彼らに視線を落とす。
私もユーリが首領なんて似合わないことするのかな?なんて疑問に思っていたから。

「そ、そうだよね」

そういって嬉しそうに笑ったカロルは年相応にも思えた。
彼はぐっ両手を握り締めると急に立ち上がってユーリに詰め寄る。

「じゃあ何からしよっか?」
「とりあえず、落ち着け」

そう、カロルをたしなめると、カロルは興奮冷めないように「うん!」と声を上げる。

「ふふ、ギルドって楽しそうね」

ジュディスはカロルを見、本当に楽しそうに笑った。
そんな彼女にエステルも小さく首を傾けると

「ジュディスもギルドに入ったらどうです?」
「あら、いいのかしら?ご一緒させてもらっても」

ジュディスはユーリとカロルを見比べる。
そのなんて返事が返ってくるか、それを期待しているのだろう。

「ギルドは掟を守ることが大事なんだ」
「掟?」

ジュディスが聞き返す。
私が久方ぶりに口を開いた。

「平たく言えばギルド内部で決めるルールのことだね。厳しいところでは裏切りものには死を。なんて場所もあるけど」
「あら、怖いわね」
「そ、それはあれだけど。でもその掟を破ると厳しい処罰を受ける。たとえ、それが友達でも兄弟でも。それがギルドの誇りなんだ。だから、掟に誓いを立てずには加入できなんだよ」
「えっと……」

そう、それがギルドの鉄則だった。
それを破ればギルドにはいられない、胸が痛くなったような気がした。
私がギルドにいれなくなったものそれが原因だから。
責任逃れは許されない、ギルドをひとつにまとめるためにも存在する掟はそのギルドを象徴するものでもある。
エステルがジュディスの隣で首を傾げて聞いた。

「カロルのギルドの掟はなんなんです?」
「えっと……」

エステルの問いかけに言葉に詰まるカロル。
今まで沢山のギルドに所属してきた少年はギルドに関しての知識や、そのギルドの体制について詳しいが、いざ目の前でギルドを作るってなると計画は立っていなかったのだろう。
ユーリが煌く星の海を見上げながら不意に言葉を漏らした。

「お互いが助け合う、ギルドのことを考えて行動する」
「え……」
「人として正しい行動をする。それに背けば押仕置きだな」
「人として、か」

ぽかんとするカロルをよそにユーリは続ける。
エステルが今の言葉を継いで、そしてある訓を綴る。

「一人はギルドのために、ギルドは一人のために。義をもって事を成せ、不義には罰をってことですね」
「掟に反しない限りは個々の意思を尊重する。」
「ユーリ、これ」
「こんなところでどうだ、首領」

人として正しい行動をする。
それは簡単なようで難しいことだって事は誰もが身にしみている。
騎士団や国を導いていく彼らでさえ騎士団は己の職務を忘れ、私欲に走ったり、国民を導くために存在する執政官の悪癖を沢山みてきた。
何よりも簡単なことが簡単に出来ない、そんな人間ばかりだった。
だからこそそんな人とは決別し、敵対する。
そんな意味もこめられていたんじゃないか。

カロルは両手を握り締めて立ち上がった。
その瞳には決意とは別に希望に馳せていた。

「う、うん。そう!それが僕たちの掟!」
「いまからは私の掟でもあるということね」

そう簡単に言ったジュディス。
横髪を掻き揚げ、それこそあっさり。
私とユーリは思わず彼女を見、

「そんな簡単でいいのか?」
「ちょっとくらい考えたほうが」
「えぇ、かまわないわ。気に入ったわ、一人がギルドのため……いいわね」

その言葉をかみ締めるジュディス。
私もとても筋の通った掟だと思うが、彼女は私たちを攻撃したこともある竜使いその人だ。
直接関わりを持ったのはガスファロストだけらしい。
ユーリはジュディスの言葉に苦笑し、私は言いかけた言葉を呑み込んだ。
カロルが「じゃあ」と手を出すと、ジュディス、ユーリも手を重ねる。
ラピードも彼らの足元で小さくほえた。

「掟を守る誓いを立てるわ。私と、あなたたちのために」

ジュディスがそう宣言するとラピードも一声なく。
離れてそれを見ていたエステルの表情はどこか暗い、私も一緒だった。
本当だったら、あの中にエステルも入りたいのだろうけど、彼女はそれを許されない。
私もまだ気持ちの整理がつかない。
お互い、軋むように胸が痛かったと思う。



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