砂漠の町マンタイク

窓から出入りする風が冷たく頬に当たって私は体を起こし窓辺によった。
しかし熱を拒む体は日光に当たるだけで拒否反応を起こし、体を後ろへと持っていく。

「調子はどう?」
「わからない」
「わからない、ね」

カドスの喉笛で体調を崩してからジュディスの言ったオアシスの街マンタイクについてから私は宿屋で寝かしつかされた。
先ほど起きてみたら監視役だろうか、ジュディスと相部屋ということになっていた。
時刻はもう夕暮れ、私が寝ているうちに仲間で砂漠のことについて情報収集してきたらしい。
私は夕暮れと赤砂で真っ赤に染まったマンタイクの町を見ながら、ジュディスに聞く。

「ちょっと見たけど、マンタイクの街、ずいぶん騎士団が多いみたいだね、前からこうだったの?」
「私が前に友達と来たときはこんなではなかったわね。騎士団なんて誰もいなかったわ」
「そう……」

ユーリに担ぎ込まれたときは眠くてあまり意識はなかったが、こうして宿屋の2階の窓から街を見てもやはり騎士団が往来を監視しているのが見てわかる。
ジュディスもこういっているし、普段から騎士団はこんな辺境の町まで来るとは思えない。

「それより、あなたの体のことだけど」
「?」
「さっき医者にもエステルにも診せたよね。何か悪いところでも見つかった?」
「いえ、風邪か。もしくは変なものでも食べたんじゃないかしら?」

と明らかにはぐらかしているジュディスを見てただ苦笑いをするしかなった。
とんとんと控え目に扉を叩く音がしたので「どうぞ」と声をかけると扉に半分隠れてこちらの姿をうかがうパティがいた。

「入っていいよ、私は大丈夫だし」
「う、嘘はいけないのじゃ。顔色、まだよくないぞ?」

「そうかな」と笑うことしか出来なかった。
まだ自分でも何が起きたか分からなくて

ベットに足を掛けて私の額に手を当てて自分と比べるパティ。
ジュディは「言いたいことがあるんでしょう?」とパティに促すと、なんとも言いにくい顔で言う。

「うちはもう新しい冒険の旅に出るのじゃ。エル姐のはお世話になったのう」
「まだあきらめてなかったんだ。でも気をつけて。今度は砂漠から骨死体で発見とか嫌だよ」
「妙にリアルね」

「ひどいのじゃ」と頬を膨らませるパティに笑みを浮かべる。
「気をつけてね」というと、至極嬉しそうに笑うパティを見て頭の痛みは少し引いた気がする。

パティが部屋を出ると入れ替えのようにユーリが入ってくる。
ユーリが私を見ると「生きてるか?」なんて遠慮もない言葉を掛けてくる。

「明日俺たちは砂漠に行くことになった」
「そう、結局エステルを説得できなかったわけね」
「初めから無理だと思ってたろ。とにかくだ。お前はここに残れ」
「本気で言ってる?」
「本気でついてくるつもりだったのか?そんな体で」
「……そう、だよね」

砂漠に行く彼らにとって今の私ははっきり言って足手まといなのだ。
ここまで来るのにユーリに背負われてきたし、これ以上の負担を掛けるわけにはいかない。
でも、腑におちなくて私はただ、苦い顔を取り繕うことしか出来なかった。

「ちゃんと帰ってくるからそんな顔すんな」
「別に心配なんかしてないけど、私」

最近みんなの足を引っ張っているのは事実だ。
本当に頭の痛みとさえなければ、そして
何かに支配されているような感覚さえ、なければ

「それじゃあ、お土産よろしく」
「お前、俺たちどこ行くと思っているんだよ」
「とっても暑いところ?」

と疑問詞を浮かべるように言うと呆れたように長くため息をつくユーリとジュディス。

「そんな調子なら大丈夫だな」

といい、ユーリは子供扱いをするように私の頭を撫でるとジュディスと一緒に部屋を出て行ってしまった。

「言えなかった、な」

ユーリがラゴウの死を知っていたであろうことを。
ジュディスが居たからって口に出来なくて、それより、それを言葉にしてしまうのが一番怖かった。

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