カドスの喉笛

カドスの喉笛。
ラーギィが透明の刻晶を強奪して、ここに逃げ込んだ。
ここまでたどり着くのに何度かラーギィの背中を見たが一向に追いつかない。
ラーギィって何者だろうか、厚い猫の皮をかぶっていたのは大体わかっていたけど、今のところは何も招待がわからずにいた。
カドスの喉笛はノードポリカから南に下った場所にあるその洞穴は、まるで世界が違った。
当然、中は暗いのだが、視覚化したエアルが蛍のように洞穴中に舞っていて視界はある程度保てていた。
足元は湧き水で濡れていて気をつけながら先に進んでいた矢先だった。

「きゃああ」
「エルどうした?」
「な、なにこれ」

洞穴に入ってラーギィを探しているときだった。
急に足に何かぬめっとした感覚と共に引っ張られた。
それは白い手のようなもので岩陰から伸びている。
払いのけようにも、すごい力で私を引っ張るのだ。
駆けつけたユーリとジュディス。
私は冷静を装って、腰をかかげた。

「痛いのじゃ」
「え?」
「は?」

見事に私とユーリの声がハモった。
私が体制を崩してそのぬめったした手を引っ張れば、ずるずると犯人が姿を現す。

「ぱぱぱぱぱ、パティ!?」

うまく声にならなった。
いや、だって予測しえない事態に陥っていたから。
岩陰から引きずり出されたのはパティで顔面を地面にこすりつけてしまったのは私で、額が赤くなっている。
パティとはノードポリカで別れて、というかなんでそんな彼女が地縛霊みたいな真似をしているのかわからなかった。

「また会ったの」
「そんなところから出てきて……」
「ちょっと待って、今直すから」

と私はパティの額に手を当てると、「癒しの光よ、来たれ」と治癒術を施す。
なんとか傷口は消えたものの、赤い痕が少し残ってしまっている。
「ごめんね」と手を合わせると「気にしなくていいのじゃ」となんとも懐の広い返事が返ってくる。

「パティ。ここでもやっぱりお宝探し?」

恐る恐る聞くと、当然じゃといわんばかりに首を大きく縦に振る。
私的にはお宝を探してなぜ地縛霊に進化したかと聞きたい。
もっと突っ込んだところを聞くのであれば手のぬるぬるは何だったのかと。
事態を察した仲間が集まってくる。
さすがに4度目となる彼女の神出鬼没かつ、奇抜な登場にはなれたのかみんな苦笑いで済ませてしまうのがすごい。

カロルはパティの服の埃を払いながら思い出したように聞く。

「ねぇ、お宝ってどんなものなの?」

前にも同じような質問をしていた気がするけど、そのときはアイフリードのお宝とした返してくれなかったっけか。
でも、パティにとって私たちはそれなりに慣れしたしんでくれたようで、胸を張るように「聞いて驚け」という。

「それは麗しの星なのじゃ」
「……なにそれ?」
「え?えっと……?」

カロル、リタもエステルに助け舟を求めるかのように、聞くがいろんな知識に長けているエステルでも聞きなれないものだったらしい。

「麗しの星はアイフリードのお宝の中でも何よりも貴重なものなのじゃ」
「で、その麗しの星とやらは見つかったのか」

ユーリの鋭い突っ込みにパティは少し口をすぼめて「うぅ」とうめいたが、すぐにいつもの調子で腰の手をあていった。

「宝とは簡単に見つからないから宝というのじゃ」
「変なの」

リタもパティと似ているところあると思うんだけど「変なの」だなんていったら、火の弾が飛んでくるに違いない。
そんなことを思いながらやり取りを見守っているとレイヴンが耳元で「ぜんぜん分かってないじゃない」という。
ジュディスまでも「ちゃんと釘、差したの?」だなんていう。
「いって聞くような性格だったらよかったんだけど」と私が言葉を選びながらいうとジュディスが「そう」とパティの元へ歩みだす。
どうやら、注意が足りなかった私にお咎めはないらしい。

「ねぇ、エルから聞いちゃったんだけど、パティがアイフリードの孫って本当?」
「あ……」

私がノードポリカでそんな話をしたのをカロルは思い出したらしい。

「盟友に孫がいるって知ったらドン、どんな顔するかね」
「あー。」
「なに、エルちゃん。ネタばらしているわけ?」
「いや、そういうわけじゃ」
「でも、本当にアイフリードの孫なわけ?噂とかじゃなくて?だってそんな話一度も聞いたことないし」
「リタ」
「本当、なのじゃ」

事情を知っている私がリタをいさめようとしたら、パティは「本当」その言葉だけを強めていった。
それは自信がないことを示していて、パティはそれ以上の言葉を詰まらせていた。
小さく聞こえた「多分」という呟き。
それを拾ったエステルが

「多分とはどういうことです?」
「多分というのは推測のことなのじゃ」
「エステルはなんで自分のおじいちゃんの事で推測で話しているのかって聞いているのよ」
「あ……う……」
「リタ、少し言い方きついんじゃない?」
「あ、別にそんなつもりじゃ」

前からリタの言い方は他人に対して厳しいものがある。
それが正直でまっすぐな彼女の性格を現しているというのならそれまでなのだけど、他人から見ると誤解されかねない。

「それはうちが記憶喪失だからなのじゃ」
「っ……」
「私たちお仲間同士だったってことだよね」

「ね」と笑いかけると、パティはぎこちなく笑う。
「じ、じゃあアイフリードの孫って本当かどうか分からないってこと?」
「絶対、本当なのじゃ!……多分」
「ああ、もう!絶対なのか多分なのかどっちなのよ!?」
「わからないから麗しの星を探しているのじゃ」
「つまり、記憶を取り戻すためにじいさんかもしれないアイフリードに会いたい。そのアイフリードを探し出すためにその麗しの星ってお宝を探しまわっているってことか?」
「のじゃ。いつの日か祖父ちゃんに会えるのじゃ……」
「まぁ、記憶なんてなくても今はどうにか生きられるよ」
「って先輩がいっているぞ」
「先輩って」

そんな扱いされるとは
レイヴンまでも

「最近は記憶喪失とか流行ってるのかねぇ」
「今のレイヴンのデリカシーのない発言には傷ついたね。パティ」
「うむ」
「ああ、そういうこといっちゃう?」

と胸を押さえたレイヴンはさておきとユーリは洞穴の先を見る。

「そんなことより箱追いかけなくていいのか?」
「そうね。こうしている間にもラーギィは逃げているわけですものね」
「そう、だね」

と私たちが走り出すと、パティも私たちの後ろを追っかけてくる。

「あんた、なんでついて来てるのよ」
「うちもこっちへ行くつもりだったのじゃ」
「買い物いくのとはわけがちがうんだぞ?」
「心配するな。承知の上、何かあったら力になるぞ」
「まぁ、頼もしい」

ジュディスがからかうように笑っていった。
私たちはカドスの喉笛最深部へと急いだ。



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